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鬼の花嫁―本編―
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しおりを挟む「ま、両親の事はこんなものだろ…あー、付け足すなら政義と氷夜に会わすことは出来ない。」
そう言って紅輝は紋章に優しくキスをしている。
僕は凄く泣いている。紅輝が顔を上げて僕の涙を舐めとる。
僕が会わせて欲しいというのを分かっていたのだろう。
「なぜ泣く」
「うぅ…何で会えないの?」
凄く泣いている僕に合点がいったように頷くと謝られた。言い方が悪かったと。
「先に訂正しておく…あの2人は未だに健在だ。たまに連絡来るしな。」
「え?会えないって…」
「あー、それは悪かった。言葉が足りなかった俺の落ち度だ。あの2人、今は海外にいるんだよ。」
だから、簡単には会えないらしい。氷夜は紅輝の庇護鬼でもないから離れてるんだって。
亡くなってしまっているのかと思って思わず泣いてしまったではないか…という意味を込めて睨んでみると、「誘ってるのか?」と聞かれてしまったので慌てて否定した。
なぜ、そう思ったの!違うから!
「それと―…陽穂にはもう後がない、強い鬼の伴侶を狙っているようだ。」
「後がない?」
「元々、自分の遺伝子が~とかで中層に昇格したが、もうすぐ降格するかもしれないらしい…嫁に噛み跡を付けた鬼が強い鬼だと先祖返りの強い鬼が生まれる確率が上がるというデマが流れているから余計に狙われている。」
番も例外じゃないらしい。
ちなみに紅輝はそうは思わないんだって、対の遺伝子はそんなに重要ではないと、伴侶の遺伝子が関係してるのではないかと思ってるようだ。
紅輝の口振りでは両親は政義さんと氷夜さんという感じで話す。陽穂の名前を出すときは凄く嫌な顔するのに2人の時は穏やかだ…
表情が全てを物語っている。
「番を狙うならば俺は容赦なく潰すつもりだ。」
まぁ、拉致した時に既に動き始めてはいるんだけどな。なんて不穏な事を呟いてる。凄く悪い顔をして…
「で、でも陽穂には沢山、庇護鬼いるよ?」
それだけ慕われてるんじゃ…と思いきやそうでもないらしい。
「あー、あれか?あれはアイツの子どもだよ。秘密裏にペットとして男のΩを飼っている。あそことは別の場所でな…男のΩと鬼は身体の相性が合いやすいみたいだな。」
政義が男だったので、男のΩだったら第2の紅輝を生めるかもと考えているらしい。
その事実をその庇護鬼たちは知らないとか…
根は腐りきった下層の鬼らしい。容赦のない物言いだが、納得してしまった。
上層と中層はそんなに腐ってないみたいだ。それで、少し安心する。
不意に紅輝が視線を外し、窓の方へ向けた。間もなくして外が騒がしくなる。それとほぼ同時に紅輝の機嫌も降下している。
「紅輝…」
「大丈夫だから。そんな不安そうな顔をするな。」
そう言って僕を更に密着させると、僕の視界は紅輝で一杯になる。紅輝の心音を聞いていると次第に落ち着いた。
「それにしても―…」と言って不自然に言葉を切ってしまったので、もぞもぞと動いて紅輝を見上げると苦笑が返ってきた。
「なんでもない。は、無しだからね」
釘を指すと諦めたように溜め息をついて口を開いた。
「あっちはいつきの発情期の周期を把握しているようだ。」
「え…」
「発情期は妊娠する確率が上がるからな」
紅輝曰く、番になったからといって他の鬼との間に子どもが出来なくなる訳ではないらしい。
ただ、対の鬼との間に子どもが出来る確率が嫁の時より格段に上がるだけなんだって。
相手が対の鬼ではなくても、そういう事をすればデキる時にはデキるらしい…
まぁ、身体機能やらも上がるのは知ってるけどね。
「いつきの首には俺の噛み跡と紋章があるし、春風は夏樹の噛み跡と紋章があるからな…」
「え、舞さんも狙われているの!?」
「え?あぁ、そうだ。お陰で夏樹たちの庇護鬼も参戦しているみたいだな。」
その場に居ないのにまるで状況を把握しているみたいな物言いに驚きを隠せない。
「あまり間をおかずに来ているという事は相当、焦っているようだな。」
そう言って僕の服の中を弄ろうとしたので手を叩くと、凄く悲しそうな顔をされてしまった。
なんか凄く自分が悪いみたいに見えるじゃんか。
「皆が大変なのに…」
「その為の庇護鬼だろう。夏樹だって番が発情期だったら、こんな状況でも出て行かないぞ。」
「僕が気にする…集中できないよ…」
「…まぁ、いつきは行為の途中でも正気に戻るくらいだからな…」
なら、手っ取り早く殺るか…と言って立ち上がりそうな紅輝を必死に止めた。
しかも、ちょっと鬼化してるんですけど!
格好良いけど、行かないで!僕の必死さが伝わったのか動きを止めた紅輝はそのまま、僕を抱っこし、立ち上がると壁伝いに視線を走らせる。
そして、ある一点を見つめると視線が鋭くなった。
「こう、き?」
「陽穂は余程、死にたいらしい。」
そう言った瞬間けたたましい音と共に寝室の壁が崩れた。
崩れた先に青空が広がっている。
入ってきたのは数人の陽穂側の庇護鬼。
「俺の庇護鬼は一体、何をしてるんだ…」
「その番を渡してもらおうか」
「こ、紅輝…」
紅輝は僕の背中を優しく撫で上げるが、その目は庇護鬼から外れることはない。
「陽穂の差し金か?それとも―…あの女か?」
「お前には関係ない!」
紅輝は庇護鬼をバカにしたように嘲笑する。
そして、紅輝はタオルを手に取ると僕に渡してきた。
条件反射でそれを受け取ると僕はタオルを大事に抱える。
「関係ない?俺の番を狙っておいて?…巫山戯るなよ。俺は今、凄く機嫌が悪いんだ…下層の庇護鬼ごときが」
怒りを隠そうともしない紅輝に庇護鬼たちがたじろぐ。
だが、それも一瞬で、お互いを見て数に自信を得たのだろう。
頷き合うとこちらに一歩踏み出してきた。
それを紅輝は分かっていたようで踏み出してきた鬼を一撃で沈める。
そして、そのまま足の骨を折ると崩れた壁の向こうへ蹴り飛ばした。
「こ、紅輝!ここ、50階!!」
「あの程度じゃ死なない。まがりなりにも鬼だからな」
僕を立て抱っこしたまま攻撃を難なく避けて反撃をする。
息を乱すこともない。紅輝は足の骨を折り、崩れた壁の向こうへ蹴り飛ばすという動作を容赦なく繰り返していく。
その容赦のなさに庇護鬼たちは後退るが、紅輝はそれを許しはしなかった。
「人の家に無断で押し入って…番との時間を邪魔して―…この程度で済むと思っているのか?」
そう言うやいなや残っていた数人を壁の外へ蹴り出すと僕を抱えたままその身を外へ躍らせた。
「ひっ…」
僕は声にならない短い悲鳴を上げたが目を瞑って紅輝に抱き付き首もとに顔を埋めると先程までの恐怖が消えた。
紅輝は完全に鬼化している。
重力やら何やらの衝撃があるかと思いきや何も無かった。普通に歩いているような感覚だった。
そして、スタッと軽く着地をした。目を開けると夏樹をはじめ他の庇護鬼たちが目を剥いているのが視界に入る…
「邪魔をした罪を償ってもらうとしよう…」
そう言って、僕の頭を優しく撫でると紅輝は僕の頭から顔を隠すようにタオルを被せる。
訳が分からず、タオルを取ろうとしたけど、紅輝がソレを許さなかった。
「全てが終わるまで絶対に取るな…取ったらお仕置きな」
耳元で優しくそう囁くと、直ぐに行動に移った。
その台詞を聞いた僕は赤面して完全に硬直してしまっていた。
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