25 / 88
鬼の花嫁―本編―
23
しおりを挟む結局、洗い物をしてしまった。僕の性格が恨めしい……
溜め息をついてタオルで手を拭いていると、けたたましい音が辺り一帯に響き渡った。
爆弾でも落ちたんじゃないかと勘違いしそうになるくらい吃驚する音だった。
少し離れた場所で地響きと怒号が飛び交っている。その中に嫁の悲鳴も混ざった。
何が起こったのか分からず右往左往していると離れた場所でズドンやらドーンと凄い音がしている。建物全体が揺れているのだ。
すると、どこからともなく「『神木』が~」と聞こえたので、考えるより先に身体が動いた。
「紅輝?」
来てるの?という言葉は続かなかった。
歩き出そうと一歩を踏み出すか踏み出さないかで僕の視界が真っ暗になったからだ。
抱き締められていると分かったのは声が聞こえてからだった。
「いつき!どこか痛いとか怪我はないか?」
来てくれた事に歓喜して涙が出そうになった。
紅輝だ…紅輝がここにいる…先程までの不安が雲散した。
紅輝の背中に腕を回して抱き締め返した。
「どこか怪我をしているのか!?」
「ううん…違う。どこも痛くないし、怪我もしてないよ」
「すまない。遅くなった。」
「来てくれてありがとう」
そう言って紅輝を見上げて微笑んでみせる。すると、紅輝は安堵の表情を浮かべ…次の瞬間、憤怒の表情に変わった。
「番を拉致して連絡も謝罪もなし…おまけにこんな扱いか?巫山戯るな…」
「『神木』いらしたのですね」
「………」
紅輝が無言で睨んでいるにも関わらず気にした様子がない。更にそれが紅輝の逆鱗に触れたらしい。
不穏な空気を醸し出しながら口を開く。
「夏樹。椿、柊…颯来い」
声を張ることなく怒りの籠った声で紅輝が4名の名前を呼ぶと、音もなく姿を現した夏樹と椿、柊の3人…とやや遅れてきた颯という庇護鬼。
颯も紅輝の庇護鬼で夏樹の下の階に住んでいる強い鬼だ。
颯には 番も嫁も居ない。嫁は昔、居たみたいだけど今は居ないみたい。理由は知らない。
「椿!柊!どうしたのその顔!?」
紅輝から顔を離して4人を見てみると双子の鬼の顔が腫れており湿布をしているのだ。
僕が2人を見て騒ぐと紅輝が気まずそうに顔を反らした…どうやら紅輝が何かやったらしい。
「あー、やっぱり気づかれちゃいますよね」
「これだけで済んで良かったとしか言いようがない」
「椿と柊が役に立たなくて申し訳ない」
椿に始まり最後は夏樹で終わった。僕は首を振るが…
夏樹に言わせれば2人とも命があるだけありがたいと思え!だそうだ…番が鬼にとってどれだけ大切な存在なのか知っていてこの失態は許されるものじゃない。という事らしい。
紅輝も頷いている。土煙が晴れてくると、遠巻きに見ていた嫁たちが色めきたって「紅輝様」やら「夏樹様」、「颯様」など言って目をハートにしている。
「椿様」や「柊様」などもちらほら居るが…圧倒的に前者の3名が多い。
「ちっ…五月蝿い女どもだ…」
不機嫌さを隠そうともしない紅輝に対して、黙って事の成り行きを見守っていた颯が冷静な口調で口を開く。
「紅輝、どうするつもりだ」
さも当然だと言わんばかりに頷いた紅輝は口を開いた。
「いつきを連れて安全な場所に行け…椿、柊、2度目はないと思え。これは命令だ」
そう言って険しい表情で4人を見た後、僕の背中を4人の方へ押した。椿と柊は神妙に頷きかえす。
こっちです。と言って4人は僕を外に連れ出した。折角会えたのにと紅輝に手を伸ばすも、届かなかった。
離れていく背中を見ると心が張り裂けそうなくらい辛い。
半べそをかいている僕は七人乗りの車の真ん中に乗せられた。車は直ぐに出る紅輝をおいて……
「紅輝が!」と叫んだが、屋敷から遠ざかる車の窓に張り付く事しか出来なかった。
しかし、その車の窓から驚くべき光景を目の当たりにしてしまった。
嫁たちが慌てて外に飛び出してくるのと屋敷が瓦礫に変わるのは、ほぼ同時だった。
屋敷が地響きと共に瓦礫に変わったのだ揶揄する事なく本当に…
その中には陽穂が大事そうに抱えている嫁がいた…恐らくあの人が番なのだろう。
その光景を眺めていると僕に声がかかった。
「紅輝の心配はしなくても良い。俺たちはいつき様の安全確保が最優先事項だ」
「それに紅輝はここまで鬼化で走ってきたくらいだから直ぐに追い付いてくる」
なんて爆弾発言もしてくれた。
何でも夏樹たちに車を出すように指示した後、直ぐに鬼化したようだ。普通に車で走るより速いらしい……鬼、恐るべしである。
紅輝は近くに4人が来たのを感じて呼んだみたいだ。
ここに来るまでの道のりは直線距離になっており、紅輝が暴れまくって木々を薙ぎ倒し、時には吹き飛ばしたりして、奇跡的に車で走れるくらいには整地されていたらしい。
くねくねと曲がった記憶がある分、驚きを隠せない…車の中からその光景を見て呆気に取られた。
そして、そのまま真っ直ぐ屋敷に乗り込んだみたい……4人が屋敷に着くと既に半壊状態だったみたいだ。
この4人は何もしていないらしい。あのけたたましい音と地響きの正体は紅輝が怒って暴れていたからだった。
車は止まることなく長距離を走った。暫く走るとコンビニの駐車場に止まる。
止まってから数分すると僕が乗っている座席の隣の扉が開いた。
数分で着く距離じゃない事は明白だが、涼しい顔をした紅輝が息を乱すこともなく乗り込んできた。
★
話を聞くと、紅輝は嫌な予感がして校内を彷徨、僕を探していたようだ。
それを聞いて、早く名前を呼べば良かったと後悔する…
そして、紅輝が椿と柊を呼びつけたときに、間をおかず小幸が血相を変えて紅輝に走りよったらしい。
紅輝に事のあらましを喋り、小幸は「如月を助けて下さい」と何度も頭を下げて頼み、紅輝がそれに頷き返すと紅輝の助言もあり、授業へ戻ったようだ。
激怒していた紅輝は小幸が完全に視界から消えるのを確認すると、2人をブッ飛ばしたらしい。しかも、そこそこの力で……
僕の安否が分からないので、小幸の情報を元に庇護鬼へ指示を出すと直ぐに鬼化して自分は先に走ったと紅輝本人が言っていた。
後、嫌々だが教えてくれた。 朝日 陽穂は紅輝の父で間違いないらしい。母親は嫁で番ではないようだ。
そのせいでいろいろとあったみたいだけど今はそれを話している場合じゃないらしい。心が荒れてるんだとか……
僕を抱き締めたが直ぐに離し僕の顔や身体をいろいろな角度から目で見て、時には触って怪我などがない事を確認してホッとしてからまた僕を抱き締めてくれた。
正直に薬の事を話すと車内の空気が凍った。紅輝が「消すか」と言って今にも殺りに行きそうな雰囲気を醸し出していたので必死に止めた。
「漸く会えたのに…また、離れるなんて嫌だ」と言って紅輝の身体に回した腕の力を強めると紅輝は優しく僕の背中を撫でる。
その顔はどこまでも優しくて穏やかな表情だった。紅輝の体温に安堵の息をついて安心しきってそのまま紅輝の腕の中で寝てしまった。
★
次に目覚めたら見慣れた部屋だった。カーテンは閉められており、寝室に置いてある照明が眠るのに適した明るさで部屋を優しく照らしている。
僕はベッドに寝かされており、知らぬ間に着替えもさせられている。風呂にも入った形跡があって、よく起きなかったなと内心驚いた。
紅輝は僕を抱き締めて隣で眠っていたが、その腕の力は全く緩まなかった。
*
2
**
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
**
【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
***
全ては“自己責任”でお読み下さい。
*
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
**
【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
***
全ては“自己責任”でお読み下さい。
*
お気に入りに追加
993
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる