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鬼の花嫁―本編―
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しおりを挟むどこに向かっているのか、無情にも車は目的地へと走っている。どれだけ時間が経ったのかも分からない。
僕はひたすら紅輝の名前を呼ぶことしか出来ない。泣いてたまるか!っと我慢しているが…不安が消えてくれないのだ。
どれだけ走ったかは分からないけど、車は緩やかに止まった。恐らく目的地についたのだろう。
「いつき様、着きました。これから陽穂様に会っていただきますね。本来なら自然に回復するのを待つべきなのでしょうが…時間もありませんので少し手荒にさせていただきますね。」
首を振ろうにも振れないし、力の入らない、いや、入っていたとしても…口を開かせるのは簡単だっただろう。「先ずは―…」と言って無理やり僕に粉薬を飲ませた。
「即効性ですから、直ぐに効いてきます。」
そう言って僕の様子を見ている。薬の効き具合を確認しているのだろう。その目から感情は読み取れない。
その言葉通り薬の効果は直ぐに表れた。全身が脱力していたのが嘘みたいだった。
「歩けるようになって、言葉も話せるはずです。」
「ここはどこ!紅輝の所に帰して!」
「ここは陽穂様のお宅です。残念ですが、今は『神木』の所に帰すわけにはいきません。」
そう言って痛くはなかったが的確な力で僕を車の中から引っ張り出した。
当たり前だが、目の前には見たことのない屋敷が威圧的な存在感で建っていた。
表札には『朝日』と書かれている。目の前の鬼が別の鬼へ指示し、車を持っていかせた。
「中で陽穂様がお待ちです。」
「こちらへどうぞ」と僕を招き入れようとするが、こちらは『どうぞ』なんてされたくない。
しかも、回りは木々で覆われており、逃げようにも逃げれないのだ。これだけ離れていれば紅輝が来てくれるという確証もない…
そして、やや強引に屋敷へ通された。驚く事に嫁の数が凄いのだ…あの夏樹でも嫁は5人から6人程度だった。ここはざっと見た感じ20人くらいは居ると思う。
和気あいあいとしているものの僕を視界に捉えると別の意味でざわつく、なんとなく予想はついていたけど、あまり良い気持ちはしない。
この庇護鬼は僕に名乗ることもしなかった。何を考えているのかさっぱりだ。
一度、屋敷に無理やりとはいえ入った以上この鬼と逸れる事は避けたい…
信用は出来ないけど、知り合いが居ないのだ。この鬼の顔しか分からない。
「陽穂様、お連れいたしました」という言葉にハッと顔を上げる。
間をおかずに「入れ」と中から渋い声が聞こえた。
戸が開けられ目だけで僕に入れと言ってくる。ごめん被りたいが、そういうわけにもいかず。こちらもやや強引に押し込められた。
陽穂様と呼ばれた鬼と対峙する。視線が絡むとその鬼は品定めをするかのように僕を見ると口を開く。
「あいつはどうしてこんなのを番にしてしまったんだ」
その言葉を聞いて頭が真っ白になる。失礼にも程があるだろ。何て爺さんだ。と思ったのも仕方ないと思う。
僕が口を開く前に「もう、下がって良い」と言う…
え、何か貶されて終わったんだけど…
庇護鬼曰く今日はもうこのまま泊まっていけとの事…1時間程度で帰れるなら帰してくれと言ったが、「陽穂様からそんな命令は受けてない」と一蹴りされる。
幸か不幸か嫁に絡まれてないだけまだマシである。ただ、僕に宛がわれた部屋の外で騒ぐのは止めてほしい。
落ち着かないから…まぁ、元々落ち着いてはいないし、心穏やかとは程遠いけどね。
もう、心の中で紅輝の名前を呼ぶしかない…結局、あの人が紅輝の父である確証も得られなかった。顔が似てるとは言えなかった…
むしろ、あまり似ていなかったように思う…
まぁ、イケメンにかわりはないのだろうが、紅輝を見た後では地味だなと感じる鬼。地味な僕に言われたら終りだど思う。
僕も大概、失礼なヤツかもしれないが言葉にしてないだけ偉いとほめてほしい。ま、それ以前にそんな気概もないけれど…
★
嫁の1人が僕に宛がわれた部屋の襖を叩く。
曰く「新入りのくせに手伝わないなんてあり得ない」という事らしい。新入りもなにも陽穂の伴侶になった覚えもないし、なりたくもない。
拉致するくらいなら嫁への連絡もしっかりしておいてほしい…
部屋から強制的に出された僕は大きな台所へ連れてこられた。
「陽穂も何を考えて男のΩを連れてきたのかしら」
「地味な子…何か仲良く出来そうにないなー」
「欲を発散する人形が欲しかったんじゃない?」
「いやいやいや、それなら私がお相手するわよ」
「はぁ?私だってするし!」
など好き勝手言い放題である。止めてほしい。
僕から言わせればあの鬼のどこが良いのか全く理解できない。
「ほら、稀に居るじゃない。下層の鬼で男のΩをペットとして飼うやつ」
「あ~…あれか…ペットを台所に入れて大丈夫なの?」
「まだ、ペットって決まった訳じゃないでしょ」
「大体、決まりでしょ?」
「陽穂様は中層の鬼よ。そんな下品な事するかしら?」
「なら、あれよ。あれ。ペットとして飼われていた子を保護したのよ」
「あ~…それなら納得だわ」
彼女たちの中で物語が出来上がってしまった。溜め息ものである。取り敢えず、誤解を解くべく『紅輝の番』である事は話した。
「え…ないない。つくならもう少しマシな嘘ついた方が良いよ~」
「『神木』が伴侶をむかえるとかありえないっしょ?」
「私たちだって相手にされてないんだからさ~…ふざけないでくれる?」
「貴方がなれるなら―…私たちでもなれるわ。貴方より相応しいわよ。」
不愉快なんだけど。なんて言って全く取り合ってくれなかった…首輪も自作だなんて言い始める始末である。
自分に自信がある発言を連発して僕の事を鼻で笑っている。
「嘘ついた罰として、この器具全部洗わないとご飯あげないから」とバカにしたような笑みを浮かべている。
そして、台所から料理を持って「今日は誰が呼びに行く?」なんてキャーキャー騒ぎながら出ていった。
どうするのこれ…
目の前には積み上げられた調理器具やら皿などが大量に重ね置きされていた。
料理中に要らないものは洗おうよ。と呆れてしまった瞬間だった。
*
1
**
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
**
【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
***
全ては“自己責任”でお読み下さい。
*
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