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鬼の花嫁―本編―
10
しおりを挟む話を終えた僕たちはパーキングを出て高速を下りる。そして、更に走る。時間にして一時間くらい。
約半年前に見ていた景色が目の前に広がった。日は傾き始め夕日が辺りをオレンジ色に染めている。
見慣れていた景色を通過した後も暫く車を走らせた。
先程より寂れた町に入ってもまだ止まらない。更に車を走らせ人里離れた坂道を少し上がると駐車できる場所に車を停めて車を降りた。
『こんな場所に家なんてあるのか?』と疑問に思いながらも、紅輝に手を引かれるがままに僕は歩いた。
見知らぬ道を暫く歩くと完全に孤立した場所にそれはあった。
見窄らしい家だ。平屋の一応一戸建て。手入れが行き届いていないのか、していないのか…
庭っぽい場所は荒れているし、洗濯の竿は錆びて使っている形跡もない。
紅輝は迷いなくその家のインターホンを押した。後から聞いた話だが、家は既に買収されており、助けてくれる人も居ない状況に置かれており、完全な孤立状態のようだ。
住宅地に居づらくなった元家族はここに住まわせてもらうしかなかったらしい。
ここに来る途中、紅輝からは「何も心配しなくていい。」と言われてはいたが、不安が顔に出ていたのだろう。
紅輝は繋いでいない方の手で優しく僕の頬を撫でた後、笑みを浮かべて頷いた。紅輝に応えるように僕も頷き返した。
建付けの悪い扉が開き中の人物が出てきた。たったの半年くらいでここまで人は変わるのかと驚いた。紅輝の容姿に見惚れていた視線が僕の事を捉えた。
その瞬間、表情が一変した。恐らく僕を罵倒しながら捕まえようとしたのだろうが、紅輝が有無を言わさず遮った。
僕と元家族の間に庇うように立った紅輝は冷たい視線のまま言葉を続けた。
「番に触るな。お前らのような下等生物が触れて良い相手ではない。」
その言葉に驚きを隠せない元母親は絞り出すような声で紅輝に問うた。
「こんな息子に番とはどういう事ですか?」
その言葉に眉間に皺が寄ったがそれも一瞬だった。紅輝は嘲笑を浮かべて口を開いた。
「言葉通りですが?それにあなた方の家族に息子なんていないでしょう?おかしな事を言いますね。」
なんて悪どい顔になって笑っている。丁寧な言葉まで使って。
その言葉や表情で何かに気づいたように元母親の顔が凄い顔になった。
「お前が何かしたのか!コイツのせいで今、家は大変な事になってるのよ!責任を取れ!」
気が触れたように叫び今にも掴みかかって来そうな勢いだった。
ご近所さんが居たならば、まさに迷惑極まりない隣人に違いない…
その騒ぎを聞き付けて愉快な仲間たちが増えた。
姉と妹は紅輝を見て色めき立ち不躾にも品定めをするような目で舐め回すように見ている。
僕の紅輝なのに…。
その視線に気づいた紅輝は「良い度胸だ…」と僕にしか聞こえない声で呟いた。
取り敢えず、埒が明かないといった感じで、紅輝は例の書類を手渡した。
訝しげな表情で書類を受け取ると、書類を読み始め、次第に表情が驚きに変わっていく。
息子だと思っていたΩの親は男のαと男のβの間に授かったという事になっているからだ。
一般として子どもを生むことは出来ないはずなんだけれど、ある最新医療技術によって互いの遺伝子から子どもを作りΩに生んでもらう。というあまり知られていない技術によって生まれたとされる息子になっている。
しかも、高額の金がいるので一般人では上層のαくらいしか手を出すことが出来ない。
捉え方によっては人体実験のようなものなので、グレーゾーンな医療技術である。
信じられない!という感じで紅輝を見上げる元両親。紅輝はそれを綺麗に受け流した。
「それが全てですから」
紅輝はそう言いながら営業スマイルまで浮かべている。
自然な動作でその書類を奪い取った紅輝は「お分かり頂けましたでしょうか?」とわざとらしく困ってみせた。
「仮にそうだったとして、貴方はこのΩの何なんだ!」と元父親。
「言葉には気を付けろ。この子は俺の"運命の番"だ。そして、その書類に書かれているαのさらに上のαですが?」何か問題でも?と食えない笑みを浮かべた。
「これは大変失礼しました。」と一瞬で態度を変えて下卑た笑みを浮かべながら頭を下げる元父親。
流石に上層に名を連ねるαの名前は知っていたようで、その上のαとなれば天下を取ったも同然である。
まぁ、紅輝は人間じゃなくて鬼の頂点に立ってるんだけどね。
この元父親はどうやら僕を出しにして紅輝を引き込もうとしているようだ。
もしくは元両親の後ろにいる姉妹に寝取らせようとしているのだろう。全て顔に出ている。
「今日、ここに来たのは事実を知らせる為であり、不毛な取引をしに来たわけではありません。ご理解頂けてますでしょうか?」と笑みを浮かべている。恐ろしいほど余裕だ。
「これ以上、赤の他人さんに騒がれて我々ふたりの平穏を脅かされては堪りませんので、今日この家に来た次第でございます。まわりくどい言い方は止めてストレートに申し上げますと…鬱陶しいんだよ。」
鬱陶しい―…その言葉通りの表情を浮かべてそう言い放つと、言葉を更に続けた。
「騒ぐ暇があったら真面目に就活して働け…お前らは自分が見下しているΩより"無能の役立たずです"と公言しているようなもの。分かってねぇだろ。」
そう言いながら呆れた顔をしている。
何かを言おうとした元父親を紅輝は睨み付けて黙らせた。
「自分が優れていると勘違いして己の価値観で物事を図り、ソレを押し付けてくる。実に不愉快な話だ。下層のβ風情が調子にのるなよ。」と言って苛立ったように目を細めた。
恐らくαのフェロモンを加減して使ったのだと思う。
Ωには効かないがαやβには効くみたいで、元両親とその姉妹はβなので、顔を真っ青にして震えている。
そして、本題はコレだと言わんばかりに四つ折りにされた紙をポケットから取り出した。
「これはただのコピーの一部です。」
そう前置きをして、ある書類の一部を元家族に渡した。
すると真っ青を通り越して顔が真っ白になった。そう、これは元家族がいろいろな悪事に手を染めていた証拠の数々。これを知られれば社会的に消えるというヤバイやつ。
破り捨てた書類を持って勝ち誇ったようにではあったが、引き攣った歪な笑みを浮かべた元父親に留目の一言を放った。
「破り捨てても無駄。コピーだって言っただろ?ちゃんと話は聞いとけよ。」
そう言った紅輝の言葉を聞いて今度こそ膝から崩れ落ちた。ソレを支える元母親は端から見れば、さぞ滑稽な姿だろう。
「これ以上、こちらの平穏を脅かそうとしたら…それ相応の対処を致しますので、覚悟しておくように。お前らが邪魔をしなければ、俺からは何もしないと約束してやる…お互い不干渉でいましょうね?」
なんて言いながら紅輝は清々しい笑みを浮かべて見せつけるように僕を腕の中に閉じ込めた。だが、元家族を見る目はどこまでも冷たかった。
拒否をすればどうなるのか分かっている元両親はお互いを抱き締め合いコクコクと頷く事しか出来なかったようだ。
*
2
**
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
**
【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
***
全ては“自己責任”でお読み下さい。
*
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
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●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
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