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鬼の花嫁―本編―
04
しおりを挟む驚いた事にこの短時間で体育館に畳を敷き詰めて全体の装飾もそれらしくなっている。
荘厳な雰囲気の中、用意された座布団は既に鬼やら伴侶候補だった見目麗しい女のΩでごった返している。
Ωたちの目には明らかな敵意が読み取れた。
Ωは強いαに引かれる。立場が弱い分、仕方ない事だと思う。
「大丈夫ですよ。例え『神木』が来なくても庇護するグループがいますし、私も近くに居ますから。」と舞さんが気遣ってくれる。
自分の手が無意識に巻かれた包帯の上から噛み跡があるであろう首を撫でていた事に気がついた。
純粋に心配してくれているというのが分かったので、上手く笑えたかどうか分からないけど精一杯、微笑んでみせた。
舞さんの表情は険しいままだったけれど…
上座に位置した場所に2枚の座布団が敷かれている。促されるままその片方に座り背筋を伸ばした。
『大丈夫だ』と何度も心の中で連呼するが不安は消えてくれない。
好奇の目に晒され居心地が悪い。嘗め回すような視線に吐き気がする。
そして、ひそひそと良くないことを言われているという事は理解できた。
これから約1時間ほどこの居心地が悪い時間が続くのだ。
まぁ、暴力などない点では我が家よりは大分マシである。
進行役を任されているであろう鬼が口を開くよりも先に閉めたはずの扉が再び開く。
僕は吸い寄せられるようにその先を見つめ、その視線は扉を開けた人物に釘付けになった。
開けた人物が近づいてくると段々、空気が重く冷たい感じになっていく。僕はこの感覚を知っている。あの時と同じだ。
そして、同時に安堵し、不安も雲散してどこかへ消えてしまった。
先程までの不安は嘘だったのか?と思ってしまうほどだ。震えも止まった。これではまるで焦がれていたようではないか。と心の中で自嘲した。
開いた扉から入ってきたのは息を飲むほど顔の整った男である。
俗に言うイケメンというやつだ。襟足より上で整えられたウルフカットの紅い髪に切れ長で鋭い目をしており、瞳の色はルビーのようにきれいだった。
輪郭もシュッとして身体も引き締まっており、背も高い。
その冷たい目から目を離せないまま、この男…神木 紅輝の行動を目で追っていた。
紅輝は真っ直ぐこちらに歩いてきて僕を一見すると不機嫌な雰囲気を醸し出して隣にドカッと座った。
その行動を見ていた者は「あの『神木』が伴侶を迎えたのは嘘ではなかったのか」とか「今回も殺されかけるのかと思った」などの驚きや不穏な言葉も聞こえてくる。
しかし、忘れてはいけない。この状態が異例であることを…
そして、僕は男のΩであることを。
まだ、第二の性以外知られていないのだ。男である事は知られていない。まだ、大丈夫だと言い聞かせている。
横に座ってはいるがこの鬼とは今日が初対面と言っても過言ではないだろう。
話以前に声を聞いたことすらないのだから。何を考えているのかも分からないし、今までどこで何をしていたのかも分からない。
再び己の中で不安が生まれ始める。膝の上で握りしめた拳が白くなっている。
すると突然、隣に座っていた鬼ー…紅輝が動いた。何を血迷ったのか、僕が被っている角隠しを何の躊躇いもなく剥ぎ取ったのだ。
いきなりすぎて静止の声すら上げられなかった。その行動に驚いて紅輝の顔を見上げるとあっという間もなく後頭部に手が回り、引き寄せられた。
キスをされていると認識できたのは数秒遅れてだった。
押し返そうと肩を押すがピクリとも動かない。最初は軽く啄む程度だったキスも経験した事のない深いモノへ変わった。
息苦しくなって口を少し開いた瞬間、止めるどころか舌を捩じ込んできたのだ。舌を絡め取られ、キスの合間に自分らしからぬ声が漏れ始め、酸欠で倒れそうになった頃、漸く離れた。
互いの口を繋げていた銀の糸はプツンと直ぐに切れた。
息を整えながらボヤけた視界で紅輝を見つめていると、満足気に少し目尻が下がったような気がした。
僕の顎を親指と人差し指でクイッと掬うように持ち上げて顔を更に上へ向かせると、生理的な涙が浮かんでいる目尻を唇でなぞって、首筋に顔を埋めてきた。
首もとで愛撫のような動きをする。
しかし、それも直ぐに止まり、噛み跡があるであろう場所にキスをしてから離れていった。
驚きのあまり周りの時間が停止した。刹那的なものだったけれど。周りからは息を飲む声と鬼の嫁候補であるΩの悲鳴が会場全体に木霊した。
まさに混沌である。
「嘘でしょ」や「何であんなのが」という言葉も中にはあった。
その1つに僕の疑問を解決してくれる発言があった。僕の首にはクッキリと紅輝特有の紋章が刻まれているらしい。
伴侶の中でも嫁ではなく…
"特別な番の証し。"
そう、先程の愛撫のような動きは首に巻かれていた包帯を口で取り去るための行動だったのだ。
心臓に悪いから普通に取ってほしかった。そのせいで顔が真っ赤になったのが自分でも分かる。
この包帯は紅輝しか外せないようにしてあったみたいで、僕には取れなかったものだ。
首もとは伴侶や鬼にとってとてもデリケートな場所なので本人と噛み跡を残した鬼以外触れられないのだと言っていた。そう教えてくれた舞さんは触ってすらいない。
本人と鬼以外が触れた時の症状は様々あるので、僕がどれに該当するのかは分からないけれど、気持ち悪くなったり、手がつけられないほど泣き叫んだりする人もいるらしい。
話は少し飛躍するが、初代は特殊な能力を使えたらしい、その血が強く現れた先祖返り様々な初代クオリティーである。何でもアリだな。という冷静な考えが浮かんできた。
鬼に関してはもう驚くまい。
周りの反応などどこ吹く風で、マイペースなその鬼は僕に甘い声音で囁いた「お前は俺の運命の番」だと。その台詞に今度は僕の時間が停止した。驚くまいとしていたが驚きのあまり変な声まで出た。
紅輝はまるでこうする事が普通だというふうに僕を抱き上げた。縦抱っこだ。16歳だが標準よりも小柄なので抱きやすいのだろう。複雑だ…
紅輝は間抜けな顔をした僕を抱っこしたまま騒ぎのおさまらない会場を颯爽と去った。
*
2
**
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
**
【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
***
全ては“自己責任”でお読み下さい。
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