兄のやり方には思うところがある！

健康的な食事は必須

　馴染みのない道を歩き、駅近で立地の良い新しいマンションへ到着して、その建物を見上げる。

　引越し先は、１４階建ての景色がよく見える最上階にある部屋で、こんな場所を借りるほどサラリーマンというのは稼げるのだろうかと心配になるほどだ。

　昨日の夜は外食で、朝は野菜ジュースとシリアルだった。昼は校内にある購買でパンを買って食べた。いつも弁当を作っているから物足りない気がする。

　兄はまだ帰ってきてはいない。

　予習復習を済ませてから料理を作ろうと思ったが、そういえば冷蔵庫の中身はまだ確認していなかったことに気づく。

　まずはと開けた冷蔵庫には野菜ジュースしか入っていない。

　野菜ジュースは兄が朝用意をしてくれていたから冷蔵庫の中身まで確認はしていなかった。

　シリアルが入っていたと思われる棚を開けてみれば簡単に取れる栄養食や栄養ドリンクがぎっしりと詰まっていた。兄は避難準備でもしているのだろうか。

　他の棚を開けてみればサプリメントのボトルが複数ある。

　さすがにサプリメントが主食とは思わないが、カップラーメンすら置いてない棚に一体何を食べて生きているのかと心配になるばかりだ。

　栄養素だけ取っていればいいというものではないはずだ。それなのに痩せすぎという印象はうけない。兄は外装からしてロボなのか。

　調理器具は一式揃っているが、それらを使った形跡はない。外食やできあいのものを購入しているとしたらゴミが出るはずだ。

しかしそのゴミ自体がみあたらない。処理機能を備えたロボは少し惹かれる。兄に搭載されてるわけもないけれど。

「とにかく食事面からの改善は必須ということですね」

　買い出しから始めなければならないから、食費の相談も必要だ。

　少ないお小遣いから今日の夕食の買い出しをして食事の準備をしたあとで勉強にとりかかった。

「…………」

　よく考えると毎日の作業は引っ越す前と後では変わっていないように思える。むしろ兄のことで気苦労が増えたのではなかろうか。

「ただいま」

「おかえりなさい」

　帰ってきたと思ったら迎えに出た僕を兄が抱きしめてきた。

「会いたかった」

「は？！」

「…………こう言うのではなかったか？」

　首を傾ける兄に唖然としてから反論をする。

「何の話ですか？！」

「迎えに出てくれたら感謝をする話だ」

　新婚じゃあるまいしそんな話は知らない。

「よくわかりませんが、普通は食事が先か、風呂が先か伝えるんじゃなかったですか？」

　両親にそんなことをした覚えはないが、同級生がドラマでそういう話をしていた。『それとも私？』というパターンもあるようだがさすがに兄に問う内容ではない。

「食事ができているのか？　すまん。食費を朋に渡すのを失念していた」

「後でで構いませんよ。それよりも食事をしながらでいいので話があります」

　兄の承諾を得て、着替えるのを食事の準備しながら待つ。

「温かい夕食が食べられるのは朋と食事をするときくらいだ」

　会社の人たちとのつきあいで酒を飲みに行ったりしないのかと疑問に思う。それを聞いてみれば襲われると言う衝撃的な言葉に耳を疑った。

「に、兄さんが女性に襲われる？！」

　本題に入る前に大変な話を聞いてしまった。

「そうだ。恐ろしいだろう？　酒を大量に飲まされ動けなくなった頃を見計らって跨がってくるんだ」

　勃たたないからそこから先には進むことはないそうだが、かなりトラウマになっているという。それはそうだろう。

「僕はそんなことはしませんから安心してください！」

　どう慰めてよいのかわからない。顔が良すぎるのも困りものだなと思う。むしろ女性と添い遂げられるのか心配だ。

「そこは率先して行動してほしいところだが……」

　ぶつぶつと独り言を言う兄を無視して考える。

　兄が一生独り身でいるなんてことになったら大変だ。しっかり元気になってもらわなければ困ると兄を見つめれば──。

　儚い微笑みを向けてきたことにギョッとする。ロボ兄が人間らしい表情で訴えかけてきたのだ。人間学のインプットからのアウトプットだろうか。

　とはいえ、そんな弱々しい姿を目の当たりにした僕はついぽろりと余計なことをいってしまった。

「僕がしっかりと兄さんを元気にさせますから！」

「あぁ、それは愉しみ……頼りにしている」

　兄の言葉に喜びを感じる。頼りにしてもらえるのは嬉しい。

　食後すぐに、少なくない金が食費のために用意された。