兄のやり方には思うところがある！

書記の速水くん

　生徒会室では、今年度に行う文化祭の予算や取り決めの確認をしている。

　ほぼ、前年度を踏襲して運営する方向で進められ、見直しが必要なら都度確認と話は決まった。

　担当教師に伝えれば、今週中には各クラスどんな催しをするか決めて、予算の割り出しをしてくるだろう。

　これから細かい作業に追われ、帰宅が遅くなる日もあるかと思う。

　片付けも終わりメンバーが帰る中、議事録の作成をしている速水くんがいる。

　ひたすらノートパソコンに打ち込んでいる作業を何ともなしに見た。

　二人だけ残った生徒会室はいつもより、がらんとしている。

　同じ生徒会役員だが一学年下で、あまり私情を話す間柄ではない。

　しかし、書記の速水くんには兄弟がいたはずだ。

　できれば人さまの兄と、うちの兄とではどのような違いがあるのか知りたい。

　ひとりではわからないことも、同じ境遇の相手に聞くことで、わかることもあるだろうと声をかける。

「作業中ごめんね。終わったら少し話をしてもいいかな」

「今でもいいですよ」

「そう？　ありがとう。唐突で申し訳ないんだけど、君にはお兄さんがいるよね？」

「えぇ、いますよ。その兄が何か？」

「うちにも、兄がいるんだけど、最近何を考えているのかわからなくて。あまり話をしてこなかったからというのもあるんだけど、速水くんのご兄弟は仲がいいのかな？」

「……兄となら、まぁ、そこそこ会話をしますね」

「へぇ」

「クソな兄なので参考にはならないかと思いますよ。汚い部屋でエロ動画を見て喜んでいるようなやつなんで」

　どこも同じらしい。

「いや、うちの兄もそんな感じかな」

「え？　意外ですね。鷺沼生徒会長って、潔癖症なイメージがあるから、お兄さんもそうなのかなって」

「僕は特に潔癖症という訳じゃないよ。僕は兄の部屋には入ったことがないから、分からないけど。えっちな動画を見てるくらいで」

「えっちな動画くらいは普通かと。それよりも兄弟の部屋にも入らないだなんて、今どき珍しいですね。お互いの部屋には勝手に入って、辞書の貸し借りとかしてましたよ。小学生の頃は同じ部屋でしたし」

　家庭によってずいぶん違うんだなと思う。

「それは仲が良いね。兄はひとり暮らしをしているんだけど、時々家に来ては趣味の動画をじっと見ているんだ。それを見せてきたりするのでかなり迷惑なんだよね」

「あぁ、うちのクソ兄もしますよ。一緒に楽しみたいとか、共感したいとか、そんな感じで。興味の方向性が違うからウザイだけなんですよね」

　あははと、サラサラの茶色い髪を揺らして速水くんは明るく笑った。

　結構深刻な問題だと思っていたが、そうでもないのかと少し心が軽くなる。

　なるほど。あの動画を見せる行為は、お互いをわかり合うための一歩という意味合いで、一般的だったのか。

　──ほ、本当に？？

　あんなえっちな動画を見せられたら、共有も何もあったものじゃないと思うのは僕だけなのか？

　僕が反応しすぎているのも良くないのかもしれないが、その後に底意地の悪いことをするから、とても癪に障る。

「もし速水くんだったら、お兄さんに嫌なことをされたらどうする？」

「そうですねぇ」

　速水くんは悩む素振りをして、顎に手を置きひと息ついて答えた。

「された嫌なことを同じように仕返して、嫌なことなのだと、本人にわかってもらうように仕向けますね」

「なるほど……」

　えっちな動画を見せて兄の股間に触れと……？

　そう考えただけ少し勃った。

　兄のせいでこんな苦労をするとは、なんという事だ……。

　机があって良かった。

　俯いて深呼吸を繰り返しているとなんとか収めることができた。

「参考になりましたか？」

「うん、ありがとうね」

　にっこりと笑顔を向ければ、速水くんは頷いて「お役に立てて良かったです」と、再び画面に向き直り打ち込みを始めた。