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記憶がない?!
しおりを挟む『愛しています』
一番大事にしている愛しい人から、昨日言われた言葉だ。
愛しい人の名前はリズウェン・バロル。第二師団の師団長で俺だけの麗しの花。
昨日は危機的状況を回避し、念願叶ってリズウェンと結ばれた。
使うタイミングのなかった潤滑剤も大いに活躍してくれた──と、思う。使い切っていたから。
それは夢のような時間だったはずで、リズウェンの身体を舐めまわした後、媚薬をリズウェンに飲まされ──半分以上記憶が消し飛んでいる。
果たして俺のちんこはフル稼働し、リズウェンを味わうとい大変名誉な行為をしていたのだろうか?
それが思い出せない今、心残りで泣きそうだった。
養父であるラズウェルとエルリックは、俺の記憶が戻ったことを知り、ちょっと調べ物と再び旅行を再開させてしまった。
以前に、リルとルストが捕まえたワイバーンに乗っているから、ちょこちょこ帰ってくるだろう。本人たちもそう言っていたし。
眉間にシワを寄せながら、リズウェンとの情事を心の中で念入りに思い出そうと反芻しているところである。
ここは第七師団の執務室だ。
ジルベルトが深刻な雰囲気をぶち壊すように、バッサバッサと書類を渡してくる。
寝ていないのか、少し不機嫌だ。
「リルとルストから引き渡された男ですが、どうやらゼネラ帝国から送り込まれた暗殺者のようですね。どこかのギルドを経由して依頼を受けているのか、ゼネラ帝国の名前は出てきませんでしたけど、牢から逃がした貴族がゼネラ帝国と繋がっていたので裏を取ることができました」
「あの変態か」
どういう経緯でセキュリティ万全な家を解除したのかなど、さらに詳しく調べる必要があるだろう。
どんな手を使ってでも必要な情報は搾り取るつもりだ。
「街の外にいたヤツらも、雇われで詳しい話は聞かされていないようですよ。クラウ師団長の家に忍び込んだ男をさっさと回収できて良かったというか、よく一撃で殺しませんでしたね」
「じっくりと、殺すつもりだったからな。いろいろと情報も必要だし簡単に死んでもらわれても困る」
いつも毅然としているリズウェンを泣かせた男だ。何度殺しても足りないくらいに腹が立っている。
「バロル師団長を狙うとは驚きですが、あの程度ならひとりで撃退できそうなものですけど。体調でも悪かったんですか?」
ジルベルトの言葉はとても胸に痛い。
グサグサと核心を突き刺してくる。
俺が良かれと思ってした事が裏目に出たのだ。俺がもっとリズウェンと話し合っていれば、あんな目には合うことはなかっただろう。
「…………」
グズグズと落ち込んでいる俺を見かねたのか、ジルベルトが声を明るくして肩を叩く。
「とにかく、第六師団がこちらの利になる噂をばらまきました。大きな襲撃は今後ないでしょうが、しばらくは注意してくださいね」
「あぁ……」
第六師団が協力してくれるという。
それはありがたいことだが、個人的なことなのになぜ? とも思う。
「それにしても、第六師団の師団長と知り合いだなんて知りませんでしたよ。いつ知り合ったんですか?」
「第六師団の師団長なんて知らん。定例の集まりにも出たことないじゃないか」
だから、協力をしてくれる意味がよくわからないのだ。
「え? 昨日楽しそうに話していたじゃないですか」
ジルベルトと一緒にいた者のことを言っているのだろう。
「あれはサラだろ?」
「はい?」
「ん?」
首を捻ると驚愕した表情で返してきたジルベルトは数歩だけ後退る。
「なに? 本能?! 本能で会話してたんですか?!」
「魔女は何でもできるんだよ。すごいよな」
「すごいのは貴方の思考回路ですよっ?! 魔女ってなんなんですか?! 顔は隠していましたけど、明らかに男の声でしたよね?!」
「姿くらい変えられるんだよ。俺が変装していたようにな。それに、ジルベルトを持っていかれなくて良かった。生贄にされちゃっても困るし」
相手は魔女だからなと付け加える。
「クラウ師団長の頭の中では、どんな儀式が始まっているというんですっ?! なんていうか、ある意味近いものはありそうですけどっ!!」
儀式といえば、悪魔を呼び出すアレしかないだろう。
黒い霧に包まれた危なそうな悪魔が、魔法陣から呼ばれて、飛びでて、ジャジャジャジャーンだ。
なんだか、最近そんな感じのシチュエーションがあったような気もするが気のせいだろう。
「良かったじゃないか。いつも通りの仕事ができて」
「そうなんですけど! そうなんですけど、なんか悔しい! 僕の心を弄ばれたような気持ちになります!」
「俺はジルベルトがそばに居てくれて嬉しいよ」
そう言うと、両手で顔をおおいながら叫びはじめる。
「うーーーーわーーーーーーっ!!!」
この人たらしがぁ!!! と言いながら執務室を出ていってしまった。
一体どこへ行ったというのか。
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