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魔法を解くには
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暗殺者の目をそらすためになんとかしてみようという目的の元、ルストに施してもらった変装は至ってシンプルだった。
焦げ茶の髪はサイドに垂らした長い三つ編みに、碧い瞳を茶に変えるメガネをかけて、口の横にホクロを描く。
服装も普段着のように着ている隊服ではないし、生成のシャツにベージュのスラックスに焦げ茶の革靴。出かける時は薄手のコート。これもベージュ系の色だ。
それだけで、ずいぶん印象が変わる。
なにより景色に馴染んで目立たないのだという。
「すげー。ベルには見えねぇな。目も茶色だし、金の髪じゃないからかな。匂いは変わらないからわかるけど」
どんな匂いなのか気になる。
リルは俺の前をウロウロと落ち着きがない。
いつもの事だが。
リズウェンも赤茶色の髪に、そばかすをうっすら頬に散らしている。服装も似たり寄ったりだ。
前髪が長いからアーモンド型の目は隠れ気味だが、可愛らしさは変わらないし、なんだか新鮮だ。
新たな可愛さのリズウェンを発見できた嬉しさにドキドキする。
「リズ、可愛いね。赤茶色の髪も似合ってる」
「そ、そうですか? ありがとうございます。ベルも可愛いですよ」
照れたリズウェンは最高に可愛い。
しかしながら、5歳児の対応のため騙しているようで心が痛い。
5歳児という状況でないと、素直に言葉にのせられるか怪しいので許して欲しい。
迷子にならないようにと、リズウェンに手を繋がれてサラのお店に向かう。
──はぁ、幸せ。
手を繋いでいても誰も俺たちだとは気づいていないようで、知り合いとすれ違っても声をかけられることは無かった。
リルはお留守番で、後ろにはルストが何気なく着いてきている。
サラのお店に行けば、至極真面目に「仮装の季節かしら?」という反応をもらった。
──なぜバレた??
ルストは店の外で待機している。
「正体がわかっているなら、話は早いです。いきなりで申し訳ないのですが、この瓶に残った薬の効能を知りたくて伺いました」
サラはカウンターから乗り出すようにして、リズウェンが差し出した小瓶を受け取る。
「ふぅん、この薬ねぇ。薬師の領分というよりは、魔術師の領域かしらぁ。そうねぇ、これは高濃度の魔力が含まれている液体ね」
「魔力ですか? 呪いの解除の薬ではないのでしょうか」
リズウェンの声に不安そうな色が含まれる。
「うーん、入っているとしても解呪というより簡単な魔除けだと思うわ」
「そんな……この薬で呪われた方が回復したんですが効力が切れてしまったのでしょうか」
「効力ねぇ。同じ症状の人がこの薬でもとに戻ったのなら、必要なのは解呪ではなく高濃度魔力の方だと思うわ」
サラがこちらを見るので目を泳がせる。
「詳しくは申し上げられないのですが、その薬がないと、ベルの呪いが解けないようなんです。魔力を液体にするというのはどうしたらよいのでしょうか」
「呪いを解きたいの? へぇー、ふぅーん、そうなのぉー、それは大変ねぇ」
ニヤニヤとこちらを窺うサラの反応はあきらかに、「どこが呪われているの?」と目で問いかけている。
薬師というよりも、魔女のようなサラは、すべてを見透かしているかのように感じる。
俺は自分の心根の貧しさに思い至り、サラから視線をはずす。
もう少しリズウェンに甘えたいという、子どもじみたわがままから心配してくれているリズウェンの気持ちを優先することなく黙っているのだ。
リズウェンの手をギュッと握る。
それに気づいたリズウェンが、俺の背中を優しくなでる。
「大丈夫ですよ。私がついていますから」
リズウェンが健気すぎて泣きそうだ。やはり騙しているのは良くなかった。
「ごめん、リズ。実は……」
「キスかしらね?」
唐突にサラは切りだす。
「「はい?」」
二人の疑問がハモった。
「だから、濃厚なちゅーよ。軽いキスじゃなくて、高濃度の魔力でそのかかっている魔力を相殺するの。恋人同士だし、難しいことではないでしょう? 二人とも魔力なら有り余るほどあるでしょうし。口からの摂取なら、すぐに解けるんじゃないかしら。と言うか解けていない方が不思議よ?」
そういえば、俺が5歳児であるという前提を話していなかった。
「「………」」
それとも、新手の嫌がらせだろうか。サラは俺が呪われていないことを理解しているはずなんだが。
「なぁに? その方法はイヤなの? 手まで繋いでるし恋人同士よね?」
むしろ大歓迎だが、5歳児と偽っているのでどのようにして話を持っていけばいいのか考える。
「その薬と同じものを作るにはどのくらいの期間が必要ですか?」
「………そうね。半年くらいかかっちゃうかも」
いや、うそくさい。サラの話し方がすでにからかっている感じがする。
「そこをなんとか早めてもらえませんか?」
胸が痛い。こんなにも俺のために必死にお願いをしてくれている。
「残念だけど、魔石から魔力の抽出を行うには時間と手間がかかるのよ」
「なるほど。そうなんですね、わかりました。それでもいいので、作成をお願いします。とりあえずこれでお支払いします。今はそれしか持ち合わせがないので、足りなければ必要な分をお支払い致します。それで治るなら安いものですから」
リズウェンは深い苦悩のため息を吐いた。
俺が子どもでなければと思っているのかもしれない。
何気なくリズウェンが出した金額を見て震え上がる。
カウンターに乗せられたのは白金貨十枚。
俺の給金10年分はある。
師団長レベルの給金を貰っているとはいえ、貴族ではないので平民の給金など高が知れているが。いや、貴族でさえ、こんな大金持ち歩かない。
サラは呆然としていた。
俺はサラにぶんぶんと首を振る。
気づいたサラも俺にぶんぶんと首を振り返す。
サラを茶番に巻き込んだのは俺であるので、緊急事態をわかりあえるのは俺とサラだけだ。
こんな大金をリズウェンが用意しているだなんて思わない。
どうしたらいいんだと目でサラに訴える。
なんとかしろとサラは目で訴えてくる。
リズウェンがそんな俺たちを見て不審そうな視線を向けてきた。
二人で顔を引き攣らせる。
しかし、自分の蒔いた種は自分で刈り取らなければならない。
因果応報、自業自得の法則だと古の人は言っていた。
「リズ、少し記憶が戻ってきたから薬は要らないかな。お金はしまうぞ」
リズウェンの財布というにはでかい袋に白金貨を全部戻した。
「え、でも……」
ここまでしてくれると、愛されている感が半端ない。
「ごめん。いいんだ」
リズウェンの肩口にぐりぐりと顔を埋めながら、「ありがとう、ありがとう」と呟く。不謹慎にも同じ匂いに包まれていることに気づきシャワーの一件が頭をよぎった。
甘える種類はいろいろあるが、5歳児の甘え方だけでは物足りない。
ちらりとサラを見れば、呆れた顔をしている。
「では、バードキスをできるくらいには戻ってきているんですか?」
リズウェンは訝しがりながら聞いてくる。まだキスにこだわっているのだろうか。
「う、うん? どうだろう……できる……かな?」
精神がすでに5歳児じゃないんだな? と、問いただされているようで心苦しい。
その通りなので誤魔化すような言葉しか出てこない。
リズウェンから視線をはずしてサラを見た。
サラは生ぬるい視線を返し頑張れと頷く。
そして、早く帰れとドアに視線を移してあごで指した。
「リズ、そ、そろそろ帰ろう」
「そうですね。サラさん、ご迷惑をお掛けしました」
「力になれなくて、ごめんなさいね」
ドアを出る時、振り返ると面白そうなことをしてるねとでも言うかのように、口の端を片方だけ持ち上げて手を振っていた。
薬の成分は教えて貰えたが、その代金は今のやり取りでウヤムヤになってしまった。
事がすんだら支払いにこよう。
そして、リズウェンに不審がられながら、すごすごとサラの店をでる。
少し離れていたのか丁度ルストが店の前に戻った所のようだ。
俺を護衛なんぞしなくてもいいとわかっているからな。
ルストから「効果はわかりましたか?」と、聞かれたので、呪い解除の他に高濃度の魔力が入っていたと説明した。
解けている魔法に高濃度なチューが必要だとは、さすがに言えなかった。
焦げ茶の髪はサイドに垂らした長い三つ編みに、碧い瞳を茶に変えるメガネをかけて、口の横にホクロを描く。
服装も普段着のように着ている隊服ではないし、生成のシャツにベージュのスラックスに焦げ茶の革靴。出かける時は薄手のコート。これもベージュ系の色だ。
それだけで、ずいぶん印象が変わる。
なにより景色に馴染んで目立たないのだという。
「すげー。ベルには見えねぇな。目も茶色だし、金の髪じゃないからかな。匂いは変わらないからわかるけど」
どんな匂いなのか気になる。
リルは俺の前をウロウロと落ち着きがない。
いつもの事だが。
リズウェンも赤茶色の髪に、そばかすをうっすら頬に散らしている。服装も似たり寄ったりだ。
前髪が長いからアーモンド型の目は隠れ気味だが、可愛らしさは変わらないし、なんだか新鮮だ。
新たな可愛さのリズウェンを発見できた嬉しさにドキドキする。
「リズ、可愛いね。赤茶色の髪も似合ってる」
「そ、そうですか? ありがとうございます。ベルも可愛いですよ」
照れたリズウェンは最高に可愛い。
しかしながら、5歳児の対応のため騙しているようで心が痛い。
5歳児という状況でないと、素直に言葉にのせられるか怪しいので許して欲しい。
迷子にならないようにと、リズウェンに手を繋がれてサラのお店に向かう。
──はぁ、幸せ。
手を繋いでいても誰も俺たちだとは気づいていないようで、知り合いとすれ違っても声をかけられることは無かった。
リルはお留守番で、後ろにはルストが何気なく着いてきている。
サラのお店に行けば、至極真面目に「仮装の季節かしら?」という反応をもらった。
──なぜバレた??
ルストは店の外で待機している。
「正体がわかっているなら、話は早いです。いきなりで申し訳ないのですが、この瓶に残った薬の効能を知りたくて伺いました」
サラはカウンターから乗り出すようにして、リズウェンが差し出した小瓶を受け取る。
「ふぅん、この薬ねぇ。薬師の領分というよりは、魔術師の領域かしらぁ。そうねぇ、これは高濃度の魔力が含まれている液体ね」
「魔力ですか? 呪いの解除の薬ではないのでしょうか」
リズウェンの声に不安そうな色が含まれる。
「うーん、入っているとしても解呪というより簡単な魔除けだと思うわ」
「そんな……この薬で呪われた方が回復したんですが効力が切れてしまったのでしょうか」
「効力ねぇ。同じ症状の人がこの薬でもとに戻ったのなら、必要なのは解呪ではなく高濃度魔力の方だと思うわ」
サラがこちらを見るので目を泳がせる。
「詳しくは申し上げられないのですが、その薬がないと、ベルの呪いが解けないようなんです。魔力を液体にするというのはどうしたらよいのでしょうか」
「呪いを解きたいの? へぇー、ふぅーん、そうなのぉー、それは大変ねぇ」
ニヤニヤとこちらを窺うサラの反応はあきらかに、「どこが呪われているの?」と目で問いかけている。
薬師というよりも、魔女のようなサラは、すべてを見透かしているかのように感じる。
俺は自分の心根の貧しさに思い至り、サラから視線をはずす。
もう少しリズウェンに甘えたいという、子どもじみたわがままから心配してくれているリズウェンの気持ちを優先することなく黙っているのだ。
リズウェンの手をギュッと握る。
それに気づいたリズウェンが、俺の背中を優しくなでる。
「大丈夫ですよ。私がついていますから」
リズウェンが健気すぎて泣きそうだ。やはり騙しているのは良くなかった。
「ごめん、リズ。実は……」
「キスかしらね?」
唐突にサラは切りだす。
「「はい?」」
二人の疑問がハモった。
「だから、濃厚なちゅーよ。軽いキスじゃなくて、高濃度の魔力でそのかかっている魔力を相殺するの。恋人同士だし、難しいことではないでしょう? 二人とも魔力なら有り余るほどあるでしょうし。口からの摂取なら、すぐに解けるんじゃないかしら。と言うか解けていない方が不思議よ?」
そういえば、俺が5歳児であるという前提を話していなかった。
「「………」」
それとも、新手の嫌がらせだろうか。サラは俺が呪われていないことを理解しているはずなんだが。
「なぁに? その方法はイヤなの? 手まで繋いでるし恋人同士よね?」
むしろ大歓迎だが、5歳児と偽っているのでどのようにして話を持っていけばいいのか考える。
「その薬と同じものを作るにはどのくらいの期間が必要ですか?」
「………そうね。半年くらいかかっちゃうかも」
いや、うそくさい。サラの話し方がすでにからかっている感じがする。
「そこをなんとか早めてもらえませんか?」
胸が痛い。こんなにも俺のために必死にお願いをしてくれている。
「残念だけど、魔石から魔力の抽出を行うには時間と手間がかかるのよ」
「なるほど。そうなんですね、わかりました。それでもいいので、作成をお願いします。とりあえずこれでお支払いします。今はそれしか持ち合わせがないので、足りなければ必要な分をお支払い致します。それで治るなら安いものですから」
リズウェンは深い苦悩のため息を吐いた。
俺が子どもでなければと思っているのかもしれない。
何気なくリズウェンが出した金額を見て震え上がる。
カウンターに乗せられたのは白金貨十枚。
俺の給金10年分はある。
師団長レベルの給金を貰っているとはいえ、貴族ではないので平民の給金など高が知れているが。いや、貴族でさえ、こんな大金持ち歩かない。
サラは呆然としていた。
俺はサラにぶんぶんと首を振る。
気づいたサラも俺にぶんぶんと首を振り返す。
サラを茶番に巻き込んだのは俺であるので、緊急事態をわかりあえるのは俺とサラだけだ。
こんな大金をリズウェンが用意しているだなんて思わない。
どうしたらいいんだと目でサラに訴える。
なんとかしろとサラは目で訴えてくる。
リズウェンがそんな俺たちを見て不審そうな視線を向けてきた。
二人で顔を引き攣らせる。
しかし、自分の蒔いた種は自分で刈り取らなければならない。
因果応報、自業自得の法則だと古の人は言っていた。
「リズ、少し記憶が戻ってきたから薬は要らないかな。お金はしまうぞ」
リズウェンの財布というにはでかい袋に白金貨を全部戻した。
「え、でも……」
ここまでしてくれると、愛されている感が半端ない。
「ごめん。いいんだ」
リズウェンの肩口にぐりぐりと顔を埋めながら、「ありがとう、ありがとう」と呟く。不謹慎にも同じ匂いに包まれていることに気づきシャワーの一件が頭をよぎった。
甘える種類はいろいろあるが、5歳児の甘え方だけでは物足りない。
ちらりとサラを見れば、呆れた顔をしている。
「では、バードキスをできるくらいには戻ってきているんですか?」
リズウェンは訝しがりながら聞いてくる。まだキスにこだわっているのだろうか。
「う、うん? どうだろう……できる……かな?」
精神がすでに5歳児じゃないんだな? と、問いただされているようで心苦しい。
その通りなので誤魔化すような言葉しか出てこない。
リズウェンから視線をはずしてサラを見た。
サラは生ぬるい視線を返し頑張れと頷く。
そして、早く帰れとドアに視線を移してあごで指した。
「リズ、そ、そろそろ帰ろう」
「そうですね。サラさん、ご迷惑をお掛けしました」
「力になれなくて、ごめんなさいね」
ドアを出る時、振り返ると面白そうなことをしてるねとでも言うかのように、口の端を片方だけ持ち上げて手を振っていた。
薬の成分は教えて貰えたが、その代金は今のやり取りでウヤムヤになってしまった。
事がすんだら支払いにこよう。
そして、リズウェンに不審がられながら、すごすごとサラの店をでる。
少し離れていたのか丁度ルストが店の前に戻った所のようだ。
俺を護衛なんぞしなくてもいいとわかっているからな。
ルストから「効果はわかりましたか?」と、聞かれたので、呪い解除の他に高濃度の魔力が入っていたと説明した。
解けている魔法に高濃度なチューが必要だとは、さすがに言えなかった。
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