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回想(4):リズウェンside
しおりを挟む15歳の時に二番目の弟が当主を継ぐことになった。
精霊の愛し子と呼ばれるほどの魔力を弟が開花させたからだ。
バロル侯爵家は魔術師団の師団長を代々務めている。
すなわち、魔術師団の師団長がバロル侯爵家の当主となる。
自分とは次元の違う魔力量に恐怖を覚えるとともに、弟に負い落とされる形になり、兄としては不甲斐ないばかりであるが、肩の荷がおりたような気もした。
父の決断は早かったものの、まだ次期当主交代は公にされておらず、時期を見ているのだろうと思う。
跡取りとしての教育もなくなり、時間を持て余すようになった。
今後のヒントでもないかと考える。貴族籍を抜ければ平民だ。
平民になると言うことは、きっと大変なことかもしれない。スペアという事で貴族籍を抜けることは叶わないが、いずれ役に立つだろう。
平民と言えば貴族籍を返上した叔父だ。
伯爵相当の爵位があったにもかかわらず返上した。どういった心境になってそんな無謀なことをしたのか知りたい。
そういう訳で、身内が阿呆と言って憚らない叔父を訪ねることにした。
目指しているものが目の前から消えて、どのような方向に進んでいいのかわからなくなっていたというのもある。
叔父は第七師団の副師団長をしている。現在33歳で叔父を阿呆にした相手と仲良く暮らしているそうだ。
だから、という訳では無いがあれからあの第七師団に所属する青年がどうしているのか、ついでに聞ければと考えたからでもある。
しかし、訪ねてみれば、なにを誤解したのか民を守る第七師団という職業に興味を持ったと思われてしまったようで、ぐいぐいと師団の良さをアピールしてきた。
しかも、ついでにと考えていた青年の話も聞けずにいる。彼の顔など知らないし、どう説明していいかもわからない。
叔父が嬉々として第七師団を説明するので大人しく聞くことにした。
「リジーを狼の群れに近づけることはできないから、ここから見学をするといいよ」
そう言って三階にある第七師団の執務室から、訓練中の新人であろう人たちを眺めることを許可してくれた。
叔父は自分のことをリジーと呼ぶ。私の名前の愛称が愛しい人の愛称と似ているらしく、呼びずらいらしい。
可愛らしく照れる叔父を見て、だから、叔父は阿呆だなんて身内にも言われるのだと思った。
恋をするのが悪いとは思わないが、恋をすると阿呆になるなら恋なんてしたくないと思う。
見下ろせば二人一組になって激しく木剣を打ち合っているもの達がわらわらといた。
金色の髪の彼を見つけるのは容易な事だった。
険しい表情をしながら木剣を構え打ち合っている。
素人目から見ても他の新人とは動きが違うのがわかった。
おそらく強いのだろう。
「金髪の青年が気になるかい?」
「いえ、そういうわけではありませんが、素人目からも他の方より筋が良さそうに見えました」
「リジーも素質があると思うよ。騎士団に入ればいいんじゃないかな。リジーが入る頃にはボクは引退している可能性もあるけど、第七師団の団長にはいい男を師団長になるように見極めるし!」
「私が入るなら第一から第五のいずれかになると思います」
「そ、そうだよね。ボクは貴族籍を返上しちゃったから平民としてこの師団に入ったんだった。うっかりだったよ」
うっかりどころではないと思うが、叔父らしいのでツッコミを入れる気にはならない。なぜ副師団長などやっていられるのかも不思議に思う。
「第七師団の師団長はいらっしゃらないんですか?」
入室した時から執務室には叔父しかいなかった。
「あー、ラズは討伐に言ってるよ。日帰りだから夜には戻ってくると思う。また、日を改めて紹介するよ?」
「別にお会いしたい訳では無いので、お気になさらず」
結局、畑まで案内してくれた青年が誰だったのかもわからず、夕暮れになるまで叔父の話を聞くことになった。
叔父の話が長くなり、闇が迫っていた。遅くなったから送るというのを断り、三階の執務室から出るとすれ違う師団の人にジロジロと見られる。
不法侵入をしている訳では無いが、皆自分よりも大きく逞しい。急に心細くなった。
ローブのフードを頭に被り視線を遮断する。
多少の視線はこれで跳ね除けられるだろうと、ホッとして階段を降りようとした時に声をかけられた。
「お嬢ちゃんどっから迷い込んだんだ?」
声がした背後へ振り向く前に、ふわりと身体を持ち上げられ男の肩に担がれる。
「な、何をするんですか?!」
「こんな場所にいちゃ行けないなぁー、悪い狼さんに連れ去られちゃうぞー?」
そう言いながら近くにあった部屋へと入ってしまう。暴れてみたがまったく男は動じない。
ベッドがいくつか並んでいるのが逆さになった視界から見える。
どさりと落とされた先はベッドの上で、この部屋は仮眠室のようだった。
「私の叔父は第七師団の副師団長を務めています。今まで会っていたのでおかしな事をすれば貴方の身になりませんよ」
虎の威を借りているようで情けないが、どう考えても力では適わない。魔術を放つのは最終手段だろう。
侯爵家の人間だと知り、身代金を要求してくるのかもしれない。
そう思った。
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