ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる

野犬 猫兄

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大事なお話なんです

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 着崩した隊服を纏うリルは、たてがみのような黒髪に黒目をしている。

 やけに貫禄があり同じ師団長と言われても誰も疑わないかもしれない。

「お手っ! 伏せ! 待てっ! ちんちんっ!」

 人型になってしまったが、リルは俺に従順だった。──しかしなんで、ちんちんという言葉なんだろう。その姿が丸見えになるから??

 ジルベルトが憐れみの籠った目で、こちらを見ている。

「クラウ師団長、やめてあげてください。見ているこちらの胸が痛みます!」

 犬のしつけを大の男に施しているように見えるらしい。

 ──そんな風に見えていたのか。良く考えれば確かにそうかもしれない。今度遊ぶ時は獣型になってもらってからにしよう。丸見えだけどな。

 隣に座るリルの頭をよしよしと撫でると嬉しそうに擦り寄ってきた。

 俺からしたらリルは小さい頃と同じ大事な友達だ。

 それがソロプレイヤーという高難度の妄想にまで思考を及ばせていたのには驚いたが、それもまた成長であると喜ぶべきなのだろう。

 あんないかがわしい妄想プレイを教えた野郎を見つけたらタダでは置かないが。

 木のスプーンで野菜の入ったスープを掬っては、リルに餌付けをする。見えない尻尾がブンブン振られているように感じられた。リルもご機嫌だ。

「クラウ師団長、甲斐甲斐しく世話を焼かなくても、リルだってスープくらい自分で飲めますよ?」

 俺がやっていることをハーバーは羨ましそうな顔をして眺めている。飼い主だからリルの餌付けに参加したいのだろう。

 それに反応したのはジルベルトだ。

「独り占めですもんね」

 そう言われたハーバーは、ニコニコした笑顔なのに機嫌が悪そうだ。その気配が穏やかではないように感じるのはなぜだろうか。

「とにかく、嬉しそうでなによりですよ。いろいろと躾を教えたのは私ですし、責任もありますからね」

 もしかして、あっち方面を教えたのもこの男なのか?

「ハーバー、あとで俺とゆっくり話をしようか?」

 ──純粋な毛玉を弄んだ報いは受けてもらわねば!

「承知いたしました。私もお話をしたかったので丁度良かったです」

 頬を染め熱に浮かされたような表情をするハーバーに薄ら寒いものを感じる。

「一応言っておくが、リルの話だぞ?」

「なに? 僕の話? 混ぜて?!」

「そうだな。今は、リルの話をしようか。俺はすごくリルのこと知りたい」

「もちろんいいよ!」

 リルの明るい表情を見ると救われる気がする。

 当時、絶影を放ち意識を失った俺は、目覚めた先で毛玉を見つけることができなかった。

 だから、毛玉は俺の絶影に飲み込まれてしまったのだとずっと思っていたのだ。

 生きていてくれて嬉しい。心の底からそう思う。

 そして、リルから聞かされた内容は、気を失っている俺をいつも様子を伺っていた男が現れて馬車で連れて行ってしまった、ということだった。

 リルも追いかけたが、引き離され途中で迷子になり、ラズロ・ハーバーに拾われ面倒を見てもらうことになったという。

 一同の視線がハーバーに向く。ハーバーは微動だにせず笑顔でスルーしている。

「ラズロの匂いにベルの匂いが微かにしたんだ。逢いたくて逢いたくて、人化できたの。それでね」

 リルの話を遮るようにハーバーがあとを継いだ。

「そうでしたね。それでリルがクラウ師団長に逢いたいと言うので、人の世界の流儀を一から教えたという訳です。時間がそれなりに掛かったあげく、あんな出逢いを想定していた訳ではなかったのでハラハラしました」

 ──やはりエッチなことも教えたのか! 一言物申さねば!

「ジルベルト、ハーバーと話したいからリルの面倒を頼む」

いきなり二人にしてくれという言葉に、驚いた様子を見せたもののジルベルトは、リルの手を取ってテントの外に向かってくれる。

「え? えぇ、わかりました。リル行きますよ」

「大事なお話なの?」

「そうですよ。邪魔をしないようにしましょうね。きっと悪いことにはなりませんよ」

「わかった」

 コソコソ話しながら、二人はテントの外に出ていった。




 どういったことをリルに教えたのか知らなければ、前もって対処も心構えもできないし、一言物申したい。それに急に襲われでもしても困るのだ。

「俺に隠し事は頂けないな」

「クラウ師団長にはお見通しという訳ですか」

「当然だ」

「どこまでご存知で?」

 ──どこまでエロいことを教えたか知ってんのかって、こと? そんな破廉恥なこと知らないんだけど!? ソロプレイヤーだけじゃなく、リルはパーティープレイまで経験済みということか?! 俺なんてまだソロプレイしか経験したことないのに!

「ソロでいろいろとやらかしていたようだな。ずいぶん前から仕込んでいたのだろう? 楽しかったか」

 ──あのリルに仕込むなんてフワフワした顔に似合わず、あっち方面は百戦錬磨ってことだよな。リルが妄想ソロプレイしちゃうくらいだから……。

「おや、過去の私の事までご存知で。今回は容易いと思っていたのですがこれがなかなか、時間がかかる作業でしてね。貴方を知れば知るほど心が踊りましたよ」

 くつくつと笑うハーバーに、あの優しげな面影は見当たらない。

 ──リルが俺を探していると聞いたから調べていたという訳か。なにをそんなに心を躍らせていたのか知らないが、その間にもリルに調教という名の仕込みをしていたんだな!

 腹立たしい気持ちを落ちつかせるように、脚を組みかえながら、一息入れる。

「手を引く気はないか。技術を活かす先ならここでなくてもあるだろう?」

 ──これ以上リルに高度な技術を仕込まれても困るのは恐らく俺だ。それに、リルが一人の相手じゃ満足できない身体になってしまったらどうしてくれるんだ!

「いろいろと時間を掛けていますからねぇ。それに乗り換えにも手間がかかるんです。そうですね。貴方が私を受け入れてくれたら考えてもいいですよ」

 ──受け入れる? ナニを??!

「それは少し難しい話だな」

 言葉じりに被せるよう返事をかえしてしまった。

 信じたくないが、こいつもなんだかんだ言って、俺に突っ込みたがっている奇特な相手のようなのだ。

「貴方なら造作もないことでしょう? 貴方の中にイレさせてくれれば、安らげると思うんです」

 ──は? ナカニイレル? ナニヲ?!

「簡単に言ってくれる」

 俺は安らげる気が全くしない。

「私の居場所を作っていただくだけで貴方の手中に転がり込むんですよ? お得だと思うんですよねぇ」

 急に話が変わったようだ。無駄にドキドキしてしまった。

 わかることと言えば、リルとハーバーの居場所がないから、作って欲しいという事だけだ。

 俺の家はリズウェンと二人だけで住みたかったが、婚姻すると守るものが増えると言うし、そういうことなのかもしれない。

「自分の身は自分で守るなら吝かではないが、俺の住処でいいか?」

「もちろんですよ。でも、結局貴方はお優しいから、守ってくれるんでしょうね。交渉成立です。まぁ、ご存知だとは思いますが、私の本当の名はルスト・ケルマと申します。以後、良しなに」

 そう言って、変装を解くようにして知らない顔が現れた。

 銀色の長い髪に白皙の肌。金色の眼。女性のように整った容貌。リルと少し似ているだろうか。

 俺の膝の上に乗り上げ、抱きついてくる。リルよりも華奢な体躯だが、締めつける力は男らしい。

 ──ちょっ、だれっ?! ふわふわなラズロ・ハーバーはどこに行ったんだ?!
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