ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる

野犬 猫兄

文字の大きさ
上 下
15 / 51

何者ですか?!

しおりを挟む
 押し倒された上半身を持ち上げ、なんとか体勢を整えようとするが、背中にしがみつく青年のせいで立つことはできない。

「おいっ、ウルフを何とかしないとっ!」

「あんな犬っころ無視しとけばいいよ。俺の子種を欲しがって、ウロウロしてたんだ。いい迷惑だ」

 ──いい迷惑なのはお前だぁぁぁっ!!

 後頭部に顔を擦り寄せてくる青年に、ウルフが襲いかかってくる様子はない。青年を気にするようにウロウロしている。

「さっさと散れっ」

 青年が威嚇するとウルフはすごすごと尻尾を丸めて去っていった。

 ホッとするものの有り得ない事態に、この青年の正体はなんなのかと気になる。

 魔獣を従えているわけではなさそうだが、立場的にウルフよりも上なのだろうか。

 でなければ、先ほどどこかへ去っていったウルフの説明がつかない。

「ベルー、ベルー、やっと話ができる!」

 ──だから、お前は何者なんだ!

 身体全体で愛情を表現するように擦り付けられる。

 下半身まで擦り付けられていた。

 その主張する存在が尻に押しつけられ、硬さとして伝わり恐怖する。


 ──いーーーやーーーー!!!



 突如、ゴンッと背後から聞こえ、青年のしがみついている身体から俺にまで少しの衝撃が伝わってくる。

「このバカ犬! バカ、バカ、バカッ! クラウ師団長、大変失礼いたしました!」

 俺を抑え込んでいた青年を持ち上げている痩身の青年がいた。こちらも第七師団の隊服を着ている。

 彼は見たことがある。

 中隊に所属する工兵のラズロ・ハーバーだ。

「やめて! せっかくベルの近くに居るのになんでこんな酷いことするの?!」

 青年は泣きそうになりながら、持ち上げられた身体を捻って逃れようと必死だ。俺は何とか身を起こし、剣を鞘に収める。

「酷いことしてるの君だからね?! ベルなんて呼び捨てにしちゃダメなの! ちゃんとクラウ師団長って、呼ばないとダメだって言っているでしょう?!! ちゃんと出来るまでは話しかけちゃダメってお約束したじゃない!?!……なんで? なんで!? そんな立派に勃ったモノを出してんの?! そんなグチュグチュにして……もうやっちゃっ……たの?! 無理にそんなことしたら犯罪だよ?! クラウ師団長に突っ込みたいのは君だけじゃないんだからね?!」

 至極真面目な説教をしていたのに、だんだんと聞きたくない内容まで耳に入ってくる。

 ──俺は聞いてない。

 バカ犬と呼んだ青年の襟首を引き上げ懇々と話しているハーバーを見る。

 大の男を軽々と持ち上げるほどなのに見た目の線は細い。

 平凡そうなソバカスの散る顔に焦げ茶色の髪はふわふわと寝癖までつけている。

 それなのにどこか異質な雰囲気を感じた。以前に一度目にした時はそんなことは無かったのだ。

 こちらの視線に気づいたのかハーバーが、申し訳なさそうに微笑む。それだけで、ギクリと身体が固まる。

 なんでこうも少し目を離しただけで一個人の成長が著しく変わるのか。

 どちらにしても、本能的な部分で関わり合いになりたくない種類のものだ。

「とぅっ!」

 そんなハーバーを探っているうちに、青年がいた所には大きな獣がいた。

「あぁっ! バカ犬! なんてことしてんのっ?!」

 わふわふ言いながら、嬉しそうにして俺にのしかかってくる。

 身体全体でピョコピョコと押してくるから押し負けて再び地に転がった。

『どこか痛い?  顔痛いの? さっき僕が押し倒しちゃったから、ぶつけちゃったのかな? 痛いの、痛いのとんでけしてあげるからね!』

 ──いまも押し倒されて、背中を打ち付けたところだがな?!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

処理中です...