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そういうこともあります…よね?
しおりを挟む──手紙を書こう。
そう考えていたら本日の野営場所である森のすぐ横の平地に到着すると俺の手元に手紙が届いた。
もちろん相手はリズウェンである。
リズウェンから届いた手紙には美しい筆跡で一言だけ書かれていた。
『ベルを待つのは嫌です』
「………」
「あーぁ、やっぱりお怒りじゃないですか」
後ろから覗き込むジルベルトは憐れみの視線を向けてくる。
「そんな事はない。待つのが嫌だなんて、早く帰ってきて欲しいというリズの可愛い気持ちが一文に込められていると思う」
たった一行だったが、愛称呼びを復活させてくれていることに気づいて口の端が上がる。思い出してくれたようでホッとした。
リズウェンは魔術にあかるく、属性も複数使えるため自分で手紙を飛ばせることができる。魔術師になるつもりだったそうだが、途中で路線を変更して騎士になったという。
魔術師になっていたとしたら、討伐や遠征の時に一緒になるくらいで接点があまりない。今回だってワイバーンなのに緊急性が低いからと魔術師の応援はなかった。
魔術師の数が少ないからと、出し惜しみしないで欲しい。
「……うーわー、なんかキモい超えて怖いっ! クラウ師団長。キモ怖です!」
ジルベルトの俺への評価がどんどんと地に落ちていっている気がする。
「き、キモ怖?! 裏の裏の読取り方でもあるのか?」
「何言ってるんですか。裏の裏は表なんです! クラウ師団長を待つほどの価値はないと……お可哀想に」
あまりの衝撃に胸を突き刺されたような痛みを感じる。
──そんなバカな。
「俺に価値などないと……?!」
──価値?
価値とはなんだ。
リズウェンにとって、価値あるものであると知らしめるにはどうしたらいいというのか。
「………ドンマイです」
応援する気があるのかないのか、ジルベルトは生温い視線を向けてきた。
その件については、しっかりと考えなければならない。
だから、野営地の真ん中でウロウロして考えごとをするよりは、野営地から少し離れた外周をウロウロしながら考えごとをした方が目立たないだろう。
ついでに、魔物避けの石が所定の間隔で設置されているか確認のため、野営地を見て回る。
価値を見出すためには、まずリズウェンが俺をどういう目で見ているかが大事になってくる。
そして、俺の良さをどう伝えるかが、最大のカギだ。
──うーん、少しでも好きだと思われているのだろうか。
ジルベルトの言葉さえなければ、多少愛されている自信はあったが、先ほど儚くも木っ端微塵にされたところだ。
5つ目の魔物避けの石を確認したところで数歩先から森、という場所の中から人の気配がする。
魔獣がうろつくような危険な場所だ。魔物避けの石がそばにあっても絶対に安全というわけではない。
一言気をつけるように声をかけようと森の中に足を踏み入れる。
近づいていけば荒い息づかいに、くぐもって聞こえる悩ましげな声。
断続的に聞こえる濡れた水音。
──あー、そうか。
何が行われているのか思い至って、進めていた歩が鈍る。
団体行動やパートナーといつも一緒に行動すれば、お互い生理的な欲求を満たすのも意外と苦労する。
野営している時くらいしかスッキリさせる時間はないのだろう。
水浴びのときに処理するものもいるし、だから、多少野営地から離れることがあっても、自分の身を守れるなら注意まではしない。
集合時間に居なかったらそれはまた別の問題だ。
気配をそっと消して、踵を返そうとすれば、魔獣の気配が濃厚になった。
方向的には森の中、人の気配がある近くだが当人は気づいているだろうか。
──そろそろ処理が終わっていて欲しい。
そう思いながら、魔獣の気配を追った。
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