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二人には感謝を

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「あの場面で反撃しなかったメロウ宰相も我慢強いよね」

「あぁ、彼にとっては心の支えだったかもしれない。ただ、実用的には彼に残っていた髪がなくても問題はない」
 
「うん、クロさんはブレないね」

 ディルカがクロに視線を向けていると目の前に何かが降ってきた。

「ぎゃぁぁっ!」

 驚きのあまりディルカが叫び声をあげる。

「ちょっと、見てこの顔! 本当に悪逆非道なんだけど! ヤツに手加減って言葉を教えてやってよ?!」

 身体中が傷だらけで顔もアザがあちらこちらに見られ原型をとどめていないが、白い髪に蒼の部隊の隊服を着用している。

「え? シロさん?!」

「そうだよ! シーくんだよ……あいたたた。もう、立ってられないよー」

 シロは痛そうな表情を浮かべてディルカの足下にしがみついた。

「大丈夫? ひどい状態だね」

 心配をするディルカを尻目にニヤリと口の端を上げたクロが一言呟く。

「ふ、無様な姿だな」

 それを聞いたシロが面白くなさそうにディルカの脛に抱きついたまま唇をとがらす。

「なにが、『ふっ、無様な姿だな』だよ。あのヤキモチ焼きを前にしたらクロもこうなるんだよ!」

「こうしてても痛みが取れるわけじゃないんだから、さっさと戻って治療しよう?」

 ディルカは手を伸ばしてシロの手を引っ張りあげる。痛そうな表情をしているが、歩けないわけではないようだ。

「俺はシロのようにならない」

「ぜーったいなるね! っていうかさ、ディルカと一緒にいるときはイチャイチャ、デレデレした姿だったのに、『今すぐ本拠地を潰しに行くぞ』だよ? 信じられないでしょ。ヤツの頭の中はどうなってんのさ。潰すだけなら簡単だけど、あとの処理が面倒だから、ミハエルはしばらく戻ってこないと思うよ」

「えっ?! もう終わったの?! まだそんなに経ってないよね!? 早すぎじゃない? あ、それもそうだけど、僕がミハエルとイチャイチャしてるだって?」

「え? 今さらそこ聞いちゃう? 気づいてなかったの? いつもイチャイチャしてるじゃん。主にヤツがディルカにへばりついて甘えてるだけだけど、ディルカはヤツを受け入れてるでしょ」

「えぇっ?!」

「視点を変えて、二人の距離感を思い出したらいい」

「……え、えーと?」

 いつもの二人の距離感を思い出しながら客観的に視点を変えてみた。

 いくつもの場面が思い浮かぶ。

 そこでディルカはミハエルといる時、必ず体の一部がディルカのどこかに触れていることに気づいた。

(あれ? むしろ毎回僕を抱きしめてる?  なんで気づかなかったんだろう……)

 ふとした時、ミハエルにトキメク瞬間があったことを思い出す。

 ディルカは確信した。

 なぜここまで気を許すことができていたのか。そして、弟分だと思っていたために自分の気持ちを誤魔化していたことに。

 この気持ちが幼なじみに向ける愛情ではなく、好きな相手にだけ向ける愛情だったのだとようやくストンと腹落ちする。

 ディルカの顔はあっという間に赤く染まっていく。

「あー、敵に塩を送った気分……」

 シロは顔を手で覆い、ため息をついた。

「俺たちはシグマだ。いつ消えるかわからないような存在だからな」

 聞き捨てならない言葉を拾ったようにディルカは青ざめる。

「え?! クロさんもシロさんもどこかに行ってしまうんですか?!」

 シロとクロは顔を見合わせる。クロは肩をすくめ、シロは切れた唇の端を持ち上げ軽く微笑んだ。

「まぁ、そうだねー。どこかに行っちゃうこともあるかもねー?」

 ディルカは悲しそうに顔を俯け、目に涙を浮かべる。

「そんな、せっかく仲良くなれたのに……」

 ディルカの反応にシロは慌てる。

「え?! なんで涙浮かべてんの? クロが変なこと言うからぁー、あーぁ……消える時なんてわかんないのにぃ……ボクからは居なくならないよ。なんて言ったって、蒼の部隊のシグマだからね☆」

 クロは腕を組み、不思議そうに尋ねた。

「ディルカは俺たちが居なくなったら困ることでもあるのか?」

 ディルカは急いで涙を拭い、真剣な表情でクロを見上げる。

「あ、当たり前じゃないですか! 心が痛くなるし、大事な人が離れてしまったら悲しいでしょう?」

 クロは軽く頷き、顎に手を当てて考え込んだ。

「大事……なるほど。さきほど話していた大事なものがなくなると悲しいということだな」

 シロは驚いた表情でクロに向き直った。

「はぁー?! クロが人の気持ちを理解してるだって? なに? 天変地異でも起きるの?!」

 クロはシロを睨み返し、シロはディルカに向かって笑顔を向ける。

「ディルカはクロよりもシーくんの方が大事だもんねー? お揃いの『花祝紋』で結ばれてる訳だし☆」

 クロは対抗するかのようにシロへ言い返した。

「何を言っている、俺にだってディルカと同じ『花祝紋』はある。それに俺のほうがディルカに求められている」

 ディルカは二人のやり取りに呆れつつも、少し笑顔を取り戻した。

「シロさんも、クロさんも、どちらも僕にとって大事な人ですよ。僕と同じ『花祝紋』があることも、きっと理由があるのだと思います」

 ディルカの言葉を聞いた二人は信じられないものを見るようにディルカを凝視し、次いで顔を見合わせ微笑んだ。

「そ、そうか」

 クロは照れ隠しに咳払いをしながら頷く。

 シロもにっこりと笑い、ディルカの肩にすり寄る。

「そうだよね、ボクたちってディルカに愛されちゃってるもんねー☆」

「はい、一緒にいると心強いです」

 ディルカは任務であろうと同じ『花祝紋』を持ち、自分を守ろうとしてくれる二人に信頼と感謝を感じていた。
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