祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄

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お嬢様とメイド

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 人の気配がしたかと思うと、隣の部屋にいるディルカのところまで甲高い声が耳に届いた。

「せっまい部屋ですこと、こんなところに部隊長ともあろうお方が生活しているなんて信じられませんわ」
「お、お嬢様! お声が大きいです!」

 侵入してきたのはどこかのお嬢様と側付きのメイドらしい。

 男の部屋に侵入する理由などディルカには思い当たらない。カギを使用して入ってきたところを見ると間違って入ってきたわけではないだろう。

「誰もいないわよ。祝典で出払っているでしょうし、一人部屋でしょう? カギだって壊して入ってきているわけではありませんもの。ちゃーんと借りておりますの」
「ある程度の額を握らせてますけどね……」
「わたくしの都合のいいように融通させるには、多少の懐柔はやむを得ませんわ」
「左様ですか……」

 話を聞いていると、ミハエルに関係のある人物らしい。それともミハエルに憧れているご令嬢だろうか。

 ディルカから見ればミハエルは世話の焼ける弟分だが、世間一般では金髪碧眼の麗しの王子様のようだと噂をされているというのを聞いたことがある。

 見慣れているから話題には出さないが、以前からミハエルの涼やかな目元も、形の良い唇も、剣だこのできた手のひらや、足が長いところもディルカは羨ましく思っていた。

 恰好良いことはディルカも認めるところだ。なにぶん兄弟のように育ってきてしまったので、他の人がキャーキャー言うような気持ちにはなれない。

 手も足も出ないので息を潜めながら、お嬢様たちの行動を静観していると聞いたことのある声がディルカの耳に届いてきた。

「部外者が城内の禁止区域に立ち入るのは処罰の対象だ」

 くぐもった男の声だ。声の主はおそらく朝に会う蒼の部隊の彼だろう。なぜ蒼の部隊の隊員が個人的な部屋に出没しているのかわからないが。

「な、何者よ?! いきなり目の前に現れて怪しいやつね!」
「お嬢様、怪しいのは我々の方ですよ」
「だまらっしゃい! わたくしはこの部屋のカギをもっているのよ! 主から渡されたとは思わないのかしら?」

 諌めるメイドを叱るお嬢様の姿はカーテンの向こう側のため、ディルカには見えない。

 ただ、胸を張っている姿が容易に想像できるのが言葉の端々から窺える。

「それでは、どちらからカギを預かったんだ?」
「ど、どちら?? そ、そんなのミハエル様に決まっていますでしょう!」

 慌てる声の主が言っていることは、先程話していた内容と違っている。

 それに、ミハエルがカギを渡すくらい仲が良い相手であれば二人部屋のことを知らないはずはないし、そもそも同室のディルカに相談するだろう。

「なるほど。当事者に尋ねればすぐにわかるだろうが、今は不在だ。のちほど回答をもらうから今すぐ退室しろ」
「は? わざわざ足を運んだというのに退室ですって?! わたくしが理由もなく殿方の部屋に忍び込むはずないでしょう? ミハエル様の婚約者と知らないのかしら?!」

 婚約者?! とディルカは驚きとなぜかもやもやとした不快な気持ちが込み上げてくる。

「お嬢様、忍び込むとみずから宣言しちゃってますよ。それに少しばかり気が早いかと存じます」
「だまらっしゃい。いずれそうなるのだから変わらないわ」
「あ、お嬢様、あそこに置かれているベッドを見ると本当に一人部屋ではないようですよ?」

 ディルカの横になっている二段ベッドのことを指して言っているのだろう。隣室に扉がないとはいえ寝室にまで入ってこないでほしい。

「ちょっと貴方、部屋の前に立ち塞がらないでちょうだい! ま、まさか部隊長が一人部屋ではないというのは、あ、あ、愛人?!」
「いい大人ですし、愛人のひとりやふたりいてもおかしくないかもしれませんね」

 そう無責任に言い放った後、メイドは独り言のように「愛人に二段ベッドを使用させる男がいるか疑問ですけど」と続けた。

「そんなはずないわ! 独り身だと聞いたもの! 今すぐ調べてちょうだい。でないと減給よ?!」
「はい、お嬢様! すぐに情報収集のためこれよりもうひとりの人物の特定に動きます! そこの顔をお隠しになっている方、部屋を調べるので邪魔はしないでください!」

 話を聞かないお嬢様たちに蒼の部隊の男は何度も注意するが持論を展開してくるので埒が明かない。

「聞き分けのないことだな……堂々と侵入されては我々の仕事が増えるだけだ」
「あ、貴方は! ま、まさか幻の蒼の部隊の方?!」

 メイドが今さらながら怯えたような声で叫んだ。

 幻?とディルカは首をひねった。

「蒼の部隊ってなによ」

 お嬢様も知らなかったようで、メイドが説明をはじめる。

「お嬢様は知らないかもしれませんが、蒼の部隊はこの国を裏から守護する部隊といわれておりまして、いわゆる国の縁の下の力持ちといわれる存在です。しかし、実際は拷問をしたり、王族の目障りとされたものはもれなく消されるという噂なんですよ?!」

 恐れるメイドにお嬢様は鼻で笑った。

「そんな部隊が存在しておりますの? 娯楽に飢えた大衆がつくった噂話でしょう?」

 お嬢様がいうように、一部は噂でしかないのだろう。もし、消されたなら誰が噂を広めているのかという矛盾が生じる。

「さすが、お嬢様! まったく信じていらっしゃいませんね!?」
「とにかく! 私も引いていられませんの! あるものを返していただくために参ったのですからね!」
「返す? それはなんだ?」

 彼の声は常に淡々としている。蒼の部隊の人たちは怒ったりしないのだろうか。
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