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第一章
王女殿下の誕生日(下)
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暫くの沈黙。部屋にはティターニアのすすり泣く声だけが響いている。
そんな沈黙を打ち破ったのはアロンダイトだった。
「…俺は傷つきません。」
アロンダイトは力強い声でそう言い切った。
思わず顔を上げたティターニアの瞳に映ったのは、普段のチャラチャラした態度と打って変わっていつになく真剣な眼差しのアロンダイト。
「俺はあんな風に噂されたくらいでは傷つかない。…それは、王女殿下もご存知でしょう?」
「…え?」
「…ローザ嬢から聞きました。ティターニア様は俺の噂など全てご存知だと。」
「…。」
ティターニアは先日のローザとのやり取りを思い出す。別に隠そうとしていた訳では無いのだが、何となく気まずくてティターニアは俯き黙ってしまった。
「…そんな顔をしないで。俺は貴女を責めてる訳じゃない。」
アロンダイトは、俯いてしまったティターニアの顔を両手で優しく包むとゆっくり顔を上げさせた。おずおずと顔を上げたティターニアの瞳とアロンダイトの瞳がかち合う。
穏やかに微笑んでティターニアを見つめていたアロンダイトの瞳は、目が合ったことでさらに優しげに細められた。
「俺が言いたいのは…ちょっとやそっとじゃ俺は傷つかないということです。」
「アロン様…?」
「噂とか陰口なんて言われ慣れてるので。…まぁ、ティターニア様と違って俺の場合は噂が事実であることも多いんですけど。」
アロンダイトは自虐的に言っておどけて見せたが、ティターニアは返答に困った様子で眉尻を下げて彼を見る。
否定も肯定も出来ずにオロオロしているティターニアをアロンダイトは可笑しそうに見つめていた。
「…ティターニア様は噂を知っていたのに、どうして俺みたいなのと親しくされていたんです?」
おどけた表情から一変、眉を寄せて硬い真剣な表情で問いかけてきたアロンダイトに、ティターニアは上目遣いに暫し思案したのち口を開いた。
「わたくしは自分自身が見たアロン様の姿を信じただけですわ。…貴方がそうしてくださったように。」
穏やかな声で、しかしハッキリと言い切ったティターニアの瞳は穏やかな微笑みをたたえている。
そんな彼女の言葉に、目を見開いて驚いた猫のような表情を浮かべたアロンダイトは、何か言いたげに口を開くが上手く言葉が見つからないのかモゴモゴと口ごもってしまった。
ティターニアは黙ったままゆっくりとアロンダイトの言葉を待った。
「でも…俺は…貴女を利用しようとしていたのに…っ…。」
アロンダイトの瞳には、悲哀の色が浮かんでいた。彼の告白に、ティターニアは怒るでも悲しむでもなく、ただ穏やかにじっとアロンダイトを見つめている。
「俺は…打算的に貴女に近づいた。王女であるティターニア様の立場を利用しようとしたんです…。」
「…?それがどうしたんです?」
苦しげに顔を歪めながら言葉を吐き出したアロンダイトに対し、ティターニアはきょとんとした表情で首を傾げていた。
予想外なティターニアの反応にアロンダイトは間の抜けた顔をしている。
「そのようなこと…貴族ならば普通のことでしょう?」
平然とそう言ってのけるティターニアを鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で見つめるアロンダイト。
確かにティターニアの言う通り、貴族社会において他者との交流…特に貴族同士や王族との交流なんていうものは、それが自分にとって利益になるかどうかを重視して行われることがほとんどであるのだが。
それでも面と向かって「利用しようと思って近づいた」と言われれば多少は傷ついたり腹を立てたりするものではないのだろうか。アロンダイトのそんな思いを読み取ったのか、ティターニアは真っ直ぐに彼を見つめたまま更に口を開いた。
「…それでは、今までにアロン様がわたくしにかけてくださった言葉は、してくださった行いは、全て嘘ですか?」
「!それは…、それは違います!」
投げかけられた疑問をアロンダイトは即座に否定した。未だアロンダイトを見つめたままのティターニアの瞳は心を覗き込むような澄んだ色をおびている。
そしてティターニアはアロンダイトを見つめる目尻をふっと下げて、穏やかに微笑んだ。
「…わたくし、アロン様はもっと器用な方だと思っていましたわ。意外と不器用なんですね。」
そう言いながらクスクスと笑うティターニアに、アロンダイトは何も言い返せずにバツの悪そうなイジけたような表情を彼女に向けた。
ティターニアの言う通りだった。
器用に生きているように見せているが本来のアロンダイトは不器用な人間なのだ。
「わたくしはアロン様のそんな不器用なところを素敵だと思います。…アロン様の不器用さは優しさからくるものだから。」
ティターニアはまるで陽だまりのような暖かな微笑みを浮かべていた。
そんなティターニアの言葉に、笑顔に、アロンダイトは今までの胸の使えがとれて一陣の風がすっと通り抜けたかのような清々しい感覚を感じていた。
「…ティターニア様。これからも今まで通りに俺と仲良くしていただけますか?」
アロンダイトはティターニアのそばに跪き、彼女の右手を取った。
ティターニアは一瞬目をみはったが、すぐに泣きそうな笑顔を浮べて頷いた。
「…はい。」
ティターニアがそう返すと、アロンダイトは微笑んで彼女の右手の甲にそっと口付けを落とした。…その時、部屋にノックの音が響くと同時にがチャリと扉が開いてメイドのサラが入ってくる。
「…ティターニア様!そろそろお時間が…って、まぁ…お邪魔してしまったみたいですねぇ…。」
サラは悪びれる様子もなくニヤニヤと2人を見つめている。ティターニアは顔を完熟したトマトのように真っ赤に染めて言葉にならない言葉を発していた。
そんなサラとティターニアに、アロンダイトは苦笑いを浮かべるしかなかった。
そんな沈黙を打ち破ったのはアロンダイトだった。
「…俺は傷つきません。」
アロンダイトは力強い声でそう言い切った。
思わず顔を上げたティターニアの瞳に映ったのは、普段のチャラチャラした態度と打って変わっていつになく真剣な眼差しのアロンダイト。
「俺はあんな風に噂されたくらいでは傷つかない。…それは、王女殿下もご存知でしょう?」
「…え?」
「…ローザ嬢から聞きました。ティターニア様は俺の噂など全てご存知だと。」
「…。」
ティターニアは先日のローザとのやり取りを思い出す。別に隠そうとしていた訳では無いのだが、何となく気まずくてティターニアは俯き黙ってしまった。
「…そんな顔をしないで。俺は貴女を責めてる訳じゃない。」
アロンダイトは、俯いてしまったティターニアの顔を両手で優しく包むとゆっくり顔を上げさせた。おずおずと顔を上げたティターニアの瞳とアロンダイトの瞳がかち合う。
穏やかに微笑んでティターニアを見つめていたアロンダイトの瞳は、目が合ったことでさらに優しげに細められた。
「俺が言いたいのは…ちょっとやそっとじゃ俺は傷つかないということです。」
「アロン様…?」
「噂とか陰口なんて言われ慣れてるので。…まぁ、ティターニア様と違って俺の場合は噂が事実であることも多いんですけど。」
アロンダイトは自虐的に言っておどけて見せたが、ティターニアは返答に困った様子で眉尻を下げて彼を見る。
否定も肯定も出来ずにオロオロしているティターニアをアロンダイトは可笑しそうに見つめていた。
「…ティターニア様は噂を知っていたのに、どうして俺みたいなのと親しくされていたんです?」
おどけた表情から一変、眉を寄せて硬い真剣な表情で問いかけてきたアロンダイトに、ティターニアは上目遣いに暫し思案したのち口を開いた。
「わたくしは自分自身が見たアロン様の姿を信じただけですわ。…貴方がそうしてくださったように。」
穏やかな声で、しかしハッキリと言い切ったティターニアの瞳は穏やかな微笑みをたたえている。
そんな彼女の言葉に、目を見開いて驚いた猫のような表情を浮かべたアロンダイトは、何か言いたげに口を開くが上手く言葉が見つからないのかモゴモゴと口ごもってしまった。
ティターニアは黙ったままゆっくりとアロンダイトの言葉を待った。
「でも…俺は…貴女を利用しようとしていたのに…っ…。」
アロンダイトの瞳には、悲哀の色が浮かんでいた。彼の告白に、ティターニアは怒るでも悲しむでもなく、ただ穏やかにじっとアロンダイトを見つめている。
「俺は…打算的に貴女に近づいた。王女であるティターニア様の立場を利用しようとしたんです…。」
「…?それがどうしたんです?」
苦しげに顔を歪めながら言葉を吐き出したアロンダイトに対し、ティターニアはきょとんとした表情で首を傾げていた。
予想外なティターニアの反応にアロンダイトは間の抜けた顔をしている。
「そのようなこと…貴族ならば普通のことでしょう?」
平然とそう言ってのけるティターニアを鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で見つめるアロンダイト。
確かにティターニアの言う通り、貴族社会において他者との交流…特に貴族同士や王族との交流なんていうものは、それが自分にとって利益になるかどうかを重視して行われることがほとんどであるのだが。
それでも面と向かって「利用しようと思って近づいた」と言われれば多少は傷ついたり腹を立てたりするものではないのだろうか。アロンダイトのそんな思いを読み取ったのか、ティターニアは真っ直ぐに彼を見つめたまま更に口を開いた。
「…それでは、今までにアロン様がわたくしにかけてくださった言葉は、してくださった行いは、全て嘘ですか?」
「!それは…、それは違います!」
投げかけられた疑問をアロンダイトは即座に否定した。未だアロンダイトを見つめたままのティターニアの瞳は心を覗き込むような澄んだ色をおびている。
そしてティターニアはアロンダイトを見つめる目尻をふっと下げて、穏やかに微笑んだ。
「…わたくし、アロン様はもっと器用な方だと思っていましたわ。意外と不器用なんですね。」
そう言いながらクスクスと笑うティターニアに、アロンダイトは何も言い返せずにバツの悪そうなイジけたような表情を彼女に向けた。
ティターニアの言う通りだった。
器用に生きているように見せているが本来のアロンダイトは不器用な人間なのだ。
「わたくしはアロン様のそんな不器用なところを素敵だと思います。…アロン様の不器用さは優しさからくるものだから。」
ティターニアはまるで陽だまりのような暖かな微笑みを浮かべていた。
そんなティターニアの言葉に、笑顔に、アロンダイトは今までの胸の使えがとれて一陣の風がすっと通り抜けたかのような清々しい感覚を感じていた。
「…ティターニア様。これからも今まで通りに俺と仲良くしていただけますか?」
アロンダイトはティターニアのそばに跪き、彼女の右手を取った。
ティターニアは一瞬目をみはったが、すぐに泣きそうな笑顔を浮べて頷いた。
「…はい。」
ティターニアがそう返すと、アロンダイトは微笑んで彼女の右手の甲にそっと口付けを落とした。…その時、部屋にノックの音が響くと同時にがチャリと扉が開いてメイドのサラが入ってくる。
「…ティターニア様!そろそろお時間が…って、まぁ…お邪魔してしまったみたいですねぇ…。」
サラは悪びれる様子もなくニヤニヤと2人を見つめている。ティターニアは顔を完熟したトマトのように真っ赤に染めて言葉にならない言葉を発していた。
そんなサラとティターニアに、アロンダイトは苦笑いを浮かべるしかなかった。
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