チャラい系騎士と魔女と呼ばれた王女

灰猫あさ

文字の大きさ
11 / 13
第一章

王女殿下の誕生日(上)

しおりを挟む
(ついにこの日が来てしまったわね…。)

ティターニアは朝からそわそわしていた。
それは今日がティターニアの誕生日であり、また成人を迎える日であるからだ。
この国では成人を迎える時は盛大に祝うのが昔からの習わしである。成人を迎えるのが王女となれば、国の一大イベントだ。

ティターニアの部屋ではサラを筆頭にメイドたちが忙しなく動き回り、ティターニアの支度を進めていた。
地味な格好を好むティターニアも今日だけは煌びやかなドレスに身を包み、普段は軽くしかしないメイクもしっかりと施されている。残念ながら長い前髪でせっかくのいつもと違うメイクもあまり分からないのだが。

ティターニアがこうしてパーティーの支度に追われていた頃、アロンダイトは王城に到着し馬車から降りているところだった。
式典までにはまだ時間がだいぶあるのだが、始まる前にティターニアと会う約束をしていたからだ。

(少し早すぎたか…。)

まだ支度の途中であろうティターニアのことを考え、どこかで少し時間を潰そうとアロンダイトが思っていたその時。
アロンダイトの背後から声がかかる。

「ごきげんよう、アロンダイト様。ずいぶんお早いのね。」

アロンダイトが振り返ると、そこに居たのは…ローザだった。

「…ごきげんよう、ローザ嬢。そう言うキミもずいぶん早く来てるんだな。」
「あら、わたくしはアロン様をお待ちしていたんですのよ。貴方は…王女殿下にお会いするために早く来たといったところかしら…?」

嫌そうな顔で答えるアロンダイトをローザは鼻で笑う。そんなローザにアロンダイトはいっそう顔をしかめた。

「で、用件はなんです?何も用がないなら俺は……」
「王女殿下は全てご存じよ。」
「は?」

アロンダイトの言葉を途中で遮るローザ。その顔は挑むような表情をしている。
一方アロンダイトはローザの言葉の意味を謀りかねていた。

「…貴方の噂のことよ。ねぇ…、ノマドの騎士様?」
「!!」

あはははは…と嘲笑うような令嬢らしからぬ声で笑うローザ。アロンダイトはそんなローザをただ睨みつけることしか出来なかった。

「…わたくしの用は済みましたわ。では、またパーティー会場で。失礼…。」

一方的に言いたいことを言い去っていくローザをアロンダイトは唖然と見送る。
ひとり残されたアロンダイトの頭の中では、先ほどのローザの言葉がこだましていた。

アロンダイトも自分の噂をティターニアが知っている可能性は考えていた。でも社交の場にほとんど顔を出さないティターニアならもしかしたら自分のことなど何も知らないかもしれないとも思っていた。
否、知られてなければいいのに…と願っていたという方が正しい。

(…俺は彼女に自分の噂を知られたくなかった…のか…?)

自分で自分の感情に動揺するアロンダイト。
だがすぐにかぶりを振り、ティターニアに近づくのに邪魔になるから知られたくなかっただけだと自分を納得させた。チクチクとした胸の痛みには気づかないフリをして。

「ヤベ…そろそろ行かないと…。」

ローザと話していたせいで、アロンダイトが王城に着いてから結構時間が経ってしまっていた。本日の主役であるティターニアにはそんなに時間のゆとりは無いはずだ。アロンダイトは急いで王城の使用人にティターニアに取り次いで貰うように頼む。

しばらくして、アロンダイトはティターニアの部屋の前まで案内された。部屋の前で少し待つように言われ、素直に従っていると…。

「アロン様!」

部屋のドアが開き、ティターニアが顔を出した。髪は綺麗に結い上げられており、身にまとう華美になり過ぎない品の良い紫色のドレスはティターニアの漆黒の髪によく似合っていた。

「ごきげんよう、ティターニア様。普段も素敵ですが、そのような装いもよくお似合いですね。」
「まぁ…。…ありがとうございます…。」

社交辞令だとはわかっていても、このようなことは言われ慣れていないティターニアは照れて顔を赤らめてしまった。そんないつも通りのティターニアの様子にアロンダイトは少し安堵する。

「緊張しておいでですか?」
「…今からでも逃げ出してしまいたいくらいです。」

冗談なのか本気なのかわからない回答をするティターニア。その肩が少し震えていることにアロンダイトは気づいていた。
アロンダイトはそんなティターニアの手を握る。

「ちょっとだけ…俺について来ていただけますか?」

そう言うと、握ったティターニアの手を引いてアロンダイトは歩き出した。ティターニアはよく分からないまま言われた通りにアロンダイトについて行く。
ティターニアに合わせてくれているのか、アロンダイト歩調はゆっくりだ。

「…図書室…?」

さっきから歩いているのが毎日のように通っている道のりであることにティターニアは気づく。しかし何故このタイミングで図書室に向かっているのだろうか…ティターニアがそんなことを思っているとアロンダイトの足が止まった。
到着したのはやはり図書室だ。
扉を開けると、アロンダイトはいつもティターニアが座っている窓際の読書スペースへと向かった。ティターニアも後に続く。

「あの…アロン様…?」
「式典の前に2人きりでお祝いがしたかったのです。ここなら2人きりになれるでしょう?」

悪戯っぽく微笑むアロンダイト。
図書室で会う時はだいたいいつも2人きりだったのだが、改めてこんな風に言われると2人きりであることを変に意識してしまいティターニアは挙動不審になっている。
そんなティターニアにいつもの席に座るよう促して、アロンダイトは自分もその向かい側に座った。

「お誕生日、そしてご成人、おめでとうございます。」

アロンダイトはティターニアへの祝いの言葉を述べながら、綺麗にラッピングされた小さな箱を取り出しテーブルに置いた。

「…ありがとう…ございます…。えっと、これは…?」
「俺からのプレゼントです。」
「…!開けても…良いですか…?」
「もちろん。」

目の前に置かれた箱を手に取り、丁寧に包装を解いていく。そして、箱を開けてみるとそこには…。

「これは…しおり…?綺麗…。」

中に入っていたのは本に挟んで使うしおりであった。薄い金属のプレートで出来たしおりには食刻によって美しい女神が描かれていた。
ティターニアの小さな手のうえに乗せられたしおりは、窓から差し込む太陽の光に照らされてキラキラと輝きを放つ。

「読書がお好きなティターニア様に贈るならしおりが良いと思って。」
「嬉しいです…とても。ありがとうございます、アロン様。」

誕生日プレゼントそのものも嬉しかったが、何より自分のことを考えて選んでくれたことが本当に嬉しかった。
王女であるティターニアは贈り物を貰うこと自体は多いのだが、家族以外からのものはだいたい儀礼的に贈られてくるだけのものばかりだったのだ。

「…実は、もうひとつ贈り物があるんです。」

アロンダイトはふいに、顔を綻ばせて手のひらの上のしおりを見つめていたティターニアの長い前髪に触れた。そしてその髪を横に流して髪飾りで留める。
着けているティターニアからは見えないが、髪飾りは美しい蝶のデザインで真ん中には一石の宝石が嵌め込まれている。その宝石の色はティターニアの左目とアロンダイトの髪の色…。

「…っ!?あの…これは…?」

いきなり明るくなった視界に事態がよく飲み込めないティターニア。

「前が見えない方がよけいに恐ろしく感じてしまうものですよ。見えない分、余計な音(こえ)まで拾ってしまいますから。」
「……。」
「恐ろしいと感じていたものもよく見てみると全然怖くなかったりするものです。狼だと思っていたものがただの仔犬だったりね。」

ティターニアはただただ黙ってアロンダイトの言葉を聞いていた。聞きながらアロンダイトの言葉ひとつひとつをしっかりと咀嚼していく。

「胸を張ってしっかりと前を見据えて…それでも目の前の世界が恐ろしかったら、俺の姿を探してください。俺だけは貴方の味方ですから。」
「…アロン様…。」

たったひとりの人間に「味方だ」と言われただけなのに、こんなに心強いのは何故なのだろうか。さっきまでは式典で皆の前に立つことが逃げ出したい程に嫌だったのに。
どんなに大勢の人々が自分を蔑み笑ったとしても、アロンダイトは味方でいてくれる。それだけで強くいられる気がしたー…。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...