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7.魔族Ⅰ

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「ここはルゴンの村か?」

真っ黒なローブを着た男が、村人のキーチに声を掛ける。
キーチは畑仕事がひと段落して、休憩中だった。

「あーそうだよ、商人さんか? 」

辺境にあるこのルゴンの村には、たまにではあるが商人が来て、いろいろな商品を売りに来る。
逆に言うとそれぐらいしか、旅人が来ないような辺境の村なのだ。

「そうか……お礼に殺してやる」

「へっ? 」

バシュッ

一瞬光ったと思ったらキーチの首と胴体が切り離れた。
なにが起こったのかわかっていないまま、キーチの生涯はここで終わった。

「『勇者』の職業ジョブを得た者がいると言ったルゴンの村がここか……探すのがめんどくさいから村ごとドラゴンを召喚して焼き払うか」

男の頭まで被ったローブを外すと、頭にはまるで牛のような尖った角が二本生えていて、まるで鬼のような姿だった。


ゼロ*************************************************

「ただいま」

「おかえりー」

弟のカイが飛び出してくる。

「早かったな、今日の夕方ぐらいかと思ったぞ」

薪を割っていた父親のゼンが薪割りを止めて、汗を拭きながら近寄ってくる。

「まあ優秀だから早めに終わっていいって」

優秀とは言われてはいたが、本心はイベントから二人を守るためだ。

「そっか……あれ? ダカンは? 」

「ちょっと用事があるからって、夕方には家に来るよ」

足の怪我が治り手が生えているから、会うのはイベントの後だ。

「兄ちゃん、どんなことした? 教えて? 」

「うーん秘密」

カイが俺の手を引き、ダカンとの修行の事を聞きたがる。
……だがしかし、ダカンの家でしたことはカイには教えられない。
ダカンとセックスしただけなんか言えるわけがない。

「えー兄ちゃんのケチ」

頬を膨らませ、すねるカイが可愛いな。

「代わりにいいものやる」

俺はズボンのポケットから、宝石の付いたペンダントを取り出した。

「うわっすげー、父ちゃん見て見て! 」

渡すと大喜びで飛び跳ね、ゼンに自慢する。

「高そうなもんだな、いいのか?」

「うん、修行中に倒した魔物から捕った魔石で作った奴だから、元手はタダだよ、父さんにもあるから受け取って」

同じようなペンダントを渡す。

「おーありがとう! もう魔物を倒せるぐらい強くなったのか! 『勇者』の職業ジョブは凄いな」

実はこれはアイテムボックスの中にあったもので、ゲームの終盤で手に入る『身代わりのペンダント』だ。
これを付けていたら身体の周りにバリアが張られて、例え一撃でHPが0になるような攻撃を受けたとしても、無傷でいられるという代物だ。
もちろんダカンにも渡しているので、これでとりあえずは死ぬことはない。
身に着けてステータスを見るとHPが+1000に増えているので、ドラゴンぐらい攻撃だと10回以上は耐えれるはずだ。


「なら今日は、お祝いだな。ご馳走作るためにいろいろと食材を買ってくるか!」

「やったー」

嬉しそうなゼンとカイ。

「あっ父さん、食材ならあるから」

俺はアイテムボックスの中から、肉と野菜などの食材を取り出す。

「なんだ?! 」

「兄ちゃんすげー! 」

「アイテムボックスだよ!『勇者』の職業ジョブにあるスキルで、これらは修行中に得た肉と野菜だからこれでご馳走作ろうよ」

村に買い出しに行かせるつもりは無かった。

「勇者は凄いんだな」

「まあね」

これで二人は守れる。
後はイベントが始めるまでは、二人から離れなければいい。






「ギャァー」
「助けてくれ」
「うわー」

村の方からそんな悲鳴が聞こえてくる。
ついにイベントが始まったか!

「なんだ? 」

父親のゼンが吞気に、声がする方に駆け出した。このバカ!

「父さん、行っては駄目だ」

俺はゼンの腕を掴む。

「どうした?」

「父さん、村が魔族に襲われている」

「えっ?なんだって!」

まあ驚くだろう。
魔族と言ったら魔物を操って、世界征服を狙うとんでもなく強い悪役だ。
知能の少ない魔物とは違い、魔法を使って普通の人間よりも強い肉体を持つ。

「俺はこれから魔族を倒しに行くから、カイと二人でここで待っていて」

「それが本当ならいくら勇者と言え、まだレベルが低いお前を危険な場所行かせれない、魔族は強いはずだぞ!」

ありがたい親心だろうが、今のは困る。
俺が行かないとみんなが死んじゃうからな。

「ごめん父さん」

俺はアイテムボックスから、『眠り玉』を取り出してゼンにぶつける。

「なっ……」

ゼンは一瞬で眠りにつく。
眠り玉はその名の通りぶつけると、相手を眠らせる道具アイテムだ。
地面に倒れる前に抱き寄せ、お姫様抱っこでゼンを抱えてカイに近づく。

「カイ」

「ひゃっい」

俺が突然、父親のゼンを眠らせたから、かなり驚いている。

「父さんとここで待っていろよ、絶対に付いて来るなよ」

「ふぁい」

家の中にゼンを寝かせると、あたふたとしているカイにそう言ってから、家を飛び出した。
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