舞葬のアラン

浅瀬あずき

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第1章 剣闘大会編

9話 

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結局、緊張しすぎてあまり眠れなかった。

俺は、朝早くに目覚めると、荷物をまとめて、会場へと向かった。街では、お祭りの準備をしているようだった。屋台の設営や、街の飾り付けが行われ、パレードの道が整備されていた。

お祭りが始まる様子を想像するだけで、心が弾む。やっぱりお昼のパレードを見に行こうっと。
 
そして、受付の会場にはなんとか地図を見ながら迷わずに辿り着いた。そこは真っ白で巨大な円形ドーム型の競技場で、三層の柱からなるシンプルな作りだ。どこか厳粛な雰囲気が漂っていて、ただただ圧倒される。

しかし、早く着きすぎたみたいで、受付開始までまだ時間がある。

俺は、近くの喫茶店で本を読みながら朝食を食べたり、街をぶらぶらしたりして時間を潰すことにした。

その後、俺は無事に受付を済ませた。
トーナメント発表までに戻ってきさえすれば、それまでは自由にできる時間がある。

俺は、お待ちかねのパレードを観に行くことにした。


ーーー


街の中心にある広場まで戻ってくると、大勢の人が集まっていた。そして、その中心で何か演説のようなものが始まっていた。

「みなさん、本日はお集まりいただきありがとうございます!今から解説いたしますのは、この国の歴史、そして英雄カラム・マルティアの成し遂げた偉業です!それでは始めます!」

観客の歓声があたりに広がり、俺も少し興味が沸いてきたので、演説に耳を傾けてみることにした。

「昔々、今から500年ほど前のこと。この国ケルティネにも、負の歴史が存在しました。

この国はかつて、世界でも有名な奴隷大国であり、奴隷を労働力として積極的に使っていました。当時は、戦争捕虜を奴隷にするだけでなく、子供を攫う奴隷商人も多く往来していました。

奴隷に人権はなく、市民も圧政を強いられ、階級差別が大変ひどい時代でした…。

そんな中、立ち上がったのがカラム・マルティアという男です!
彼は剣闘奴隷、通称剣奴と呼ばれる存在でした。剣奴とは、貴族や市民の見世物として、互いに剣で闘うことを強要された奴隷のことです。

ケルティネでは、当時から剣術が好きな者が多く、剣奴同士を戦わせる剣闘は、貴族や市民から熱狂的な人気を集める娯楽となっておりました。

さて、話を戻しましょう。
その剣奴出身のカラムは、革命のリーダーとなり、市民や奴隷を集めて、貴族階級と勇敢に戦い、奴隷制度の廃止、圧政の解消を訴えました…!そして…!

その結果、自由と平等の新しい政権が誕生し、全ての国民の人権を勝ち取ったのです!」

力強い演説に合わせて、観客の大きな歓声が響いた。今ではこんなに豊かで平和な国なのに、そんな歴史があったなんて思いもしなかった…。

「えー、本日から開催される剣闘祭は、そんな英雄カラムを称え、代々続く歴史あるお祭りになっております。間もなく始まるパレード、そして15:00から会場コロセウムにて行われる剣闘大会も、ぜひ皆様!楽しんでいってください!剣闘大会のチケットは、各売り場で販売していますので…」

演説が終わると、街中がさらに活気づいてきた。
観客たちがパレードのために位置取りを始め、広場は人で溢れかえっていた。
俺もその流れに乗り、ワクワクしながらパレードの始まりを待った。

パレードはとても素晴らしかった。
色とりどりの衣装を身にまとった人々や、美しい装飾物を載せた馬車が通り過ぎるたびに観客の歓声が沸き起こった。

演奏される音楽に合わせて踊り手たちが華麗に剣舞を舞う光景は思わず声が漏れるほどかっこよく、お祭りの醍醐味を存分に味わうことができた。


ーーー


パレードを見て屋台を回ったりして一通り楽しんだ後、俺は再び競技場へと向かう。
会場にはすでに強そうな選手が大勢集まっており、一気に身が引き締まった。
俺は受付へと向かう。

「アランさんですね。まもなくトーナメントの発表となりますので、少々お待ちください。それと…」

受付の人はベルトを手渡してきた。
ベルトのバックルの部分は、小さめの陶器のような物がついていて、薄くて割れやすそうだ。

「これは大会で使用するベルトになります。
試合の際には、必ず装着してください。つけ忘れた場合失格になるので、ご注意ください。」
「なるほど、わかりました…。
でも、このベルトは一体何のためにつけるのですか?」 
「ベルトのバックルの部分に、楕円形の、割れやすい小さな陶器が見えますか?それを相手に割られたら敗北です。逆に、あなたが相手の陶器を割れば勝利となります。」
「あ、なるほど。それが試合のルールなのですね。」
「その通りです。…ところで、あなたは割と軽装備のようですね。もし鎧など装備の貸し出しが必要であれば、スタッフにお申し付けください。有料ですが貸出可能ですよ。」
「えっと、貸し出しは結構です。」
「そうですか。ああそれと、ベルトは必ず装備の外側、見えるようにつけてくださいね。説明は以上になります。」
「わかりました!ありがとうございます。」

本当は装備を貸し出ししたかったが、お金がないので諦めた。
そして、俺はベルトを身につけ、トーナメントの発表を待った。

「それでは、選手の皆様!お待たせいたしました!今から、トーナメントを発表いたします!掲示板の前に張り出しますので、しっかりと確認してくださいね!」

そう言って、係の人が、掲示板にトーナメント表を張り出した。
掲示板の前には、選手が勢いよく群がるように集まり、俺は人が少し時間が経って、人が少なくなってからようやく対戦相手を確認することができた。

少し視線を巡らせると、すぐにトーナメント表の左端に書かれた自分の名前を見つけた。幸運なことに俺はバイになっているみたいだ。つまり、第一ラウンドの対戦相手がいないので第二ラウンドからの参加となる。

えっと、じゃあ俺の対戦相手は......うわっ、勝ち上がってきたらトマーじゃん...。まじか、トマー達のパーティーって確か冒険者ランクプラチナだし、あいつなら初戦ぐらい余裕で勝つよな。

見返してやるチャンスではあるが…だめだ、自信なくなってきた…。

「それでは、選手の皆さま!簡単に試合のルールと、流れを説明しますので集まってください!」

係の人が、説明を始めた。
説明を聞いていると、自分がルールの確認不足だったことがよくわかった。
試合は、ベルトの陶器を割るのがルールだが、なんと怪我なんかは全部自己責任らしい。
最悪それで死んでも、誰には文句言えないってことだ。

…やばいって。すごく怖くなってきた。いや...でももう引き返せない、やるしかない。何、陶器を割るのがルールなんだから、大怪我することなんてそうそうないはずだ。大丈夫、落ち着け、俺。

そして、試合の順番や待機場所などの説明を受け、各自解散となった。
順番が来るまでは、会場で試合を見たり、好きにしてていいらしい。

「それでは、みなさま!!大変お待たせいたしましたー!剣闘祭の目玉イベント、剣闘大会を開始いたします!!」
「うおおおおぉおおぉ!!」

アナウンスが会場に響き渡り、それに合わせて観客の大歓声も響き渡った。

俺の出場は第二ラウンドからだから、それまで他の選手の試合を見ることにした。トーナメント表の左のペアから順に試合をしていくらしい。

「では早速、第一試合を始めます!西側のゲートから入場するのは、エントリーナンバー35番、人族のライアン選手です...!」
「そして、東側のゲートから入場するのは、エントリーナンバー37番、爬虫類族のトマー選手です...!」

それぞれの入場に、また会場が湧いた。トマーは堂々としているが、ライアンはぎこちなく怯えた様子だ。…これはー、勝負は決まったようなものだな。トマーの動きをよく見て対策しておかなくちゃ。

「それでは、試合開始!!」

試合開始の合図とともに、両者が踏み込み、刀を合わせる。俺は身を乗り出し、食い入るように戦いの様子を見始めた。
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