いとこな

古葉レイ

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いとこな9

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「う、あ」

 清ちゃんの口元から、可愛い声が漏れた。

 その唇が気になって仕方がない。女の子みたいに薄くてでもおいしそうな……いつものお気楽な感情よりも濃厚な気持ちがあたしの中を埋め尽くし、身体の奥が疼く。

「んっ、ふっ」
「何、やっ、琴、美」

 あたしはゆっくりと腰を降る。濡れかけたあそこを、清ちゃんのあれに押し当てる。
 瞼を閉じ、唇を噛み締める。

 頭の中に、糞野郎の赤黒いあれが浮かび、胸の奥が痛くなる。未だに怖い。犯されそうになって、二人きりの部屋で、逃げようとしたあたしの腕を、彼は捕まえ、手首に手錠を掛けられた。そしてもう一人、二人と、知らない人が現れて。

 怖かった。

 あたしは結局、処女を奪われる前に何とか逃げられた。その後、他の子も彼に襲われた事を知り、あたしの好きな人は、最低な男なのだと知った。男はみんな最低だと思った。嫌だと思った。

 だから、男が嫌いになった。
 いやだ。怖い。あれは、汚い、嫌っ。

『舐めろよ』

 酷く醜悪な笑みだった。あたしの過去は、未だにあたしを苦しめる。
 キスすらした事のないあたしがさせられたフェラチオは、あたしの中にある女心を引き裂く程の現実だった。あたしはあの時、気持ち悪さに吐き出して、泣きじゃくり、悲鳴を上げて逃げ出した。

 そんなあたしは、今もなお震える唇を。
 清ちゃんの唇に這わせた。

「お、おい琴……っ」
「ん、ふっ……んん」

 いっぱいになったあたしの頭は放熱を繰り返す。
 熱い。苦しい。

 清ちゃんの唇が震えた気がした。罪悪感があたしの胸を締め付ける。気持ち良い唇が心の棘を壊していく。清ちゃん、助けて、清ちゃん。溶けちゃう、溶かして、助けて。

「んふっ、ん」

 最初は見せた小さい抵抗も、舌が口内を這ううちにどんどんと無くなり、最後には対するようにお互いに口腔を撫で回す。

 その濃度は、清ちゃんに初めて飲まされたブランデーよりもアルコール度数が高い気がした。どんな女の子よりも喉に焼きついた。熱い。

「んっ、なぅっ、んっ」

 一心不乱に吸い付き、閉じた瞳をゆっくりと開いた先には、清ちゃんの瞳があった。

 ずっと目を閉じず、開いたままあたしを見ていた清ちゃんの視線は、怒っているわけでもなく、悲しげでもなく、優し気だった。
 まるで妹をあやす兄のような、慈愛の笑み。

「満足、した?」
「あ」

 あたしは、慌てて現実に引き戻される。

「あれ?」

 そこで慌てて、自分がした行為に気付いた。

○○○
 

 にちゅっ。

「ぷはっ」

 琴美の唇が、僕の唇から離れていく。しっかりと唾液の線を繋いだまま、自分のした事を反復してでもいるのか、琴美の顔が真っ赤にほてる。

 正直、ここまでされるとは思わなかった。

 キスはキスでも、濃厚なやつだった。ほとんど犯されるようにされて、勃起した部分を琴美の熱い部分で擦られた。ズボンの中は、たぶん透明な液が出てしまって、にちゃにちゃになっている。

 それでも僕は冷静だった。

 いや。
 素直に言う。

 琴美としたい。そう思う自分が居た。

 下半身が疼く。このおバカでいとこな琴美をベッドの中に押し込んで、ただでさえくしゃくしゃな制服をもみくちゃにしてやりたい。
 男嫌いだからいとこだからと押し殺していた感情が、急激にどうでもよくなっていく。

 しょせん、いとこ。
 
僕は琴美の躯を、自分の気持ちでいっぱいにして、やりたく、なる、のを噛み殺す。
 
 僕の中にある、いとこだからではない、男としての気持ちがそれを鎮める。不安に泣きながら、僕に全力で甘えてきた彼女を想いながら、次の行動を諦める。

だめでしょ。やっぱり。
 
だって琴美は、僕を男としてみてないんだから。

 僕はじゃあ、やっぱり手を出しちゃダメでしょうと。

○○○

「やりすぎ……」
「あ。あの、あたし」

 それは初めてだった。気がついたらキスしていたなんて。計画性も、相手の感情もそっちのけだった。
 あたしの動揺をよそに、清ちゃんは疲れた顔で股下に居た。よじよじとあたしの足元から抜け出る。
 そして言った。

「そこまでしなくても、別に男だなんて思ってないから。男嫌いのくせに、無理しないの」
「あ、そ、そか」

 そんな冷静な清ちゃんの言葉が、あたしの緊張を解していく。あたしはぺたんと床にしりもちをつき、疼く気持ちを外から押さえるように、落ちていたペン太を拾い、ぎゅぅと抱える。
 少しの沈黙の後、清ちゃんがゆっくりとあたしの方へ手を伸ばしてくる。

「ぁ」

 それに気付いたあたしは、相手が自分の嫌いな男であるが故に少し逃げようとして、でも見つめてくる清ちゃんの瞳に何故か、身体が無意識に、清ちゃんに傾けられて。

 ぽむ。

「今度は何?」
「へ? はぅ」

 あたしの体が抱かれた、わけではなく。
 清ちゃんの手に捕まれた、彼女の雑誌。

 琴美の肩ではなく、その傍にあった破れ気味の雑誌が、あたしの頭の上に持ち上がって。

「邪魔」
「うきゃうッ!」
 
 ぱんと、雑誌で額を叩かれ、あたしは大きくのけぞる。
 何が何だかもう解からない。あたしの頭は今、嵐で暴風雨真っ最中である。

 男なのにでも清ちゃんだから、そう。清ちゃんだからに決まってる。男は嫌い、やっぱり嫌い。でも清ちゃんは嫌いじゃない? 嫌いじゃないけどでもこれは。でもそれは。あ~これってでも。

 女の子は好き。汚くないし、かわいいし。清ちゃんもかわいい、汚くない……あ、あ、あれ? でも男。男だよ? 男なのにちゅーしたの? えー。

 どきどきと心臓が鼓動し、雑誌の下に隠された清ちゃんの下半身が気になる。
 アレが自分に?
 想像がだんだんと卑猥方向へ走らんとして、あたしのあそこが思い切り疼きだす。

 だ、駄目。

 堪えられない。

「と、トイレ行ってくる!」

 あたしはおもむろに床を立ち、どたどたと駆け出すように出て行く。

 ○○○

「はぁ」

 そんな琴美を見送った僕は、開け放たれた部屋のドアを閉める。
 琴美も、しばらくは戻ってこないだろうから。

 ベッドの上にあるティッシュボックスに視線を移しながら、最近やっと自制できるようになった筈の下半身の裏切りに溜息をつく。

「何だかなぁ」

 琴美としては、自分を女として見ろと、言いたいんだろう。だけど最初から、僕は彼女を男だと思った事は無い。

 初恋の相手は琴美だ。

 初めてキスをしたのも実は琴美だし、小さな頃、お医者さんごっこでお互いの裸を見てもいる。いや、診てもいる。股をくっつけてあれの真似事をしたこともある。さっきのだって、初めてかどうか怪しいのだ。

 僕が寝てた時に、琴美は僕のあれを指で弄った事もあるくせに、その逆も、あるというのに。

 好きにならない、わけはないよ。
 そんな、僕らの先は、正直何もわからない。

 そんないとこな、僕らである。

「あーあ」

 琴美が他の男に抱かれるのを想像するだけで腹が立つくらい、僕はあいつを女として見てやっている。

 もう既に僕は、彼女を男として見る努力は諦めている。無理過ぎるんだ。あそこまで魅力的でいとこなあいつを、好いて何が悪いというのか。

 いとこは肉親だけど、別にあれしてなにをなしてもいいわけで。
 次、されたら最後までしよう。

 僕は潔く、琴美を虐めてやろうと思う。

 だけど今の彼女は、女が好きで。
 僕としても、相手が女ならばそれほどに腹は立たないからと黙認しているわけで。
 つまり日々、我慢の連続で。

「アレ以上やられたら襲ってた、かな。自制心、自制心っと」

 最近ますます魅力度に磨きがかかってきたいとこに、あれほど変質者な彼女に惚れている自分に叱咤したい。

 この、変態好きめと。

「……ぁっ、ぅっ」
「人ん家でオナるなよなぁ」

 僕はトイレの中から聞こえる愛しいいとこの微かな喘ぎ声を聞きながら、同じく熱い熱情と溜息を吐いた。

 あーあ。

 いっそ僕も、ここでして、目撃でもされた方がいいんじゃないか、なんて錯乱している自分が、馬鹿過ぎた。


《終わり》
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