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いとこな6
しおりを挟むあたしのいとこは、年齢に合わず落ち着いた少年で、たまに年下だという事を忘れてしまう。彼はいつもあたしの相談相手で、たまには相談して欲しいなと思う事があっても、彼は滅多に愚痴をこぼさない。
感情麻痺してんじゃね? と思わなくもない。
ただし清ちゃんは昔からこうで、自発的に何かをするというのが最も合わない人種だと思う。勉強はできるので文句は言われないし、基本的には優しい。ただ誰にとっても優しいかは解らない。少なくとも、あたしにとって優しい人だ。
清ちゃんはよくみんなの相談を受けている。基本は話を聞いて頷くだけなんだけど、それって結構重要なのだ。
そんな一つ違いの、まるで弟のような彼は、とっても大事な友人で、と思って……そこであたしの思考が停止した。あれ?
「琴美、人の膝を枕にしないでよ」
「……うーん」
床の上に寝転がり、清ちゃんの背中に身を背中を預けて椅子変わりにしながら考える。彼の非筋肉質な身体は、なかなかに良い。
とそこで生まれる更なる違和感。
清ちゃんが弟?
そんな自分の認識の、何かが引っかかる。弟のように親しいのは間違っていない。清ちゃんとは血がつながっている。いとこだから。だから弟。
けれどそれは違和感だった。
本当の弟に、自分の恋愛関係の話を嬉々として語るだろうか。ましてやこんな事をするだろうか。ブラコンだったらあるか。あるなと思いながら考える。
弟を溺愛しているという感覚からすると、あたしはでは、清ちゃんを溺愛しているのだろうか。ないなと考え直す。目の前で清ちゃんが雑誌を読んでいる。彼を枕にして、考える。
あたしも清ちゃんも一人っ子だった為か仲は良い。けれど、ある程度の常識は知っている。今時の姉と弟は、そんなことはしない。
では何か。
あたしたちは友達なのだろうか。とすると女友達? いや、それも変だ。
さっき言った冗談のように、清ちゃんは男好きというわけではない。それには自信がある。たまに一緒に買い物する時も、見る対象は男ではなく女の子が多い。ちゃんと、美人限定で見ているし。胸も大きい方が好きだ。
むう。
あたしの事を気にしていないとは言うけれど、しっかりとパンツは見てくるし、エッチな本だって隠してある。女の子に興味がないとは思わない。
では……何だろう。
「清ちゃん、アタシのこと男友達だと思ってる?」
「うるさいなぁ。なんなのさっきから」
ぬぅと伸びる清ちゃんの手と殺気に、あたしは慌てて逃げようとする。しかしその巧みな手技は、あたしを逃がしてはくれなかった。
おでこに、清ちゃんの指が触れた。
とくん。
「ぁ、きゃひっ?!」
ぺちんと、狙い通りの額に、清ちゃんの指が弾かれた。
いわゆる、でこぴんを食らう。
「いったッ」
力がないくせに妙に痛いそのでこぴんは、昔から変わらない。
額を擦りながら、けれどめげずにあたしは言う。
「ほら、なんかあたしのことを女として見てくれてない気が……するんだけど。このでこぴんなんて手加減無しだし」
「そんなこといわれてもなぁ。女の子が好きな女の子だからなあ」
清ちゃんのそんな返答に、あたしは少なからずショックを受ける。よくよく考えれば、それはあたしとしては大問題である。
あたしが男と呼べる者の中で毛嫌いするのは年齢問わずだ。
超年下の可愛い子なら触れなくもないが、股間にあの変な禍禍しいものがついていると思うだけで嫌気が差す。
高校生なんてもう頭の中はそれ一色だろうし、大人の男も女子高生に対する感情は同じくそうだろう。だから痴漢は増えて、変質者も増える。
それほどに女子高生という職業は唯でさえ狙われ易く、電車やバスで受ける視線は何処であっても気持ち悪い。
吐き気すらする。
直ぐ間近にある清ちゃんの下半身部分を制服越しに観察しながら、更にうーんとあたしは唸る。
「女ねぇ……」
そんな悩み多きあたしを、清ちゃんはまじまじと見つめてくる。
あたしは身を起こすと、できるだけ女を強調するように髪を掻き上げ唇を舌で舐め、スカートをそろりと引き上げついでに胸を張る。清ちゃんとの距離は、手が届く間である。
そんなあたしに、清ちゃんは眉を歪める。
「ほら、女に見えるっしょ?」
「うーん」
腕を組み、清ちゃんは冷静に考える、ような唸りを上げる。
そんな、いとこの態度がもどかしい。
やばい。
まずい困ったどうしよう。
今のあたしは真剣に焦っていた。かなり本気で、危険な事態だ。
なぜなら清ちゃんは唯一、何の抵抗無く触れる男なのだから、そんないとこな清ちゃんに女扱いされないのは、非常にまずい。
もちろん清ちゃんにも、男たるアレがついてる。それはそうだろうけれど、昔から顔を合わせていた為かそれほど嫌悪感は沸かない。特に意識しないと言う方が正しいけれど、とにかく汚いとは思わない。
触れたくないと思った事も、見るなとか、一緒に居たくないと思った事もない。
喧嘩して嫌いになることはあっても、すぐに仲直りできる自信もある。
しかも清ちゃんは、あたしを無視することが多いからか、逆に気にしてくれないと腹が立つ。気にしてくれると素直に嬉しい。
……そうなのか。
あたしはようやくそれに気づく。
あたしはだから、清ちゃんに女として見られたいのだと、今さらながらに気が付いた。
《続く》
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