6 / 9
いとこな6
しおりを挟むあたしのいとこは、年齢に合わず落ち着いた少年で、たまに年下だという事を忘れてしまう。彼はいつもあたしの相談相手で、たまには相談して欲しいなと思う事があっても、彼は滅多に愚痴をこぼさない。
感情麻痺してんじゃね? と思わなくもない。
ただし清ちゃんは昔からこうで、自発的に何かをするというのが最も合わない人種だと思う。勉強はできるので文句は言われないし、基本的には優しい。ただ誰にとっても優しいかは解らない。少なくとも、あたしにとって優しい人だ。
清ちゃんはよくみんなの相談を受けている。基本は話を聞いて頷くだけなんだけど、それって結構重要なのだ。
そんな一つ違いの、まるで弟のような彼は、とっても大事な友人で、と思って……そこであたしの思考が停止した。あれ?
「琴美、人の膝を枕にしないでよ」
「……うーん」
床の上に寝転がり、清ちゃんの背中に身を背中を預けて椅子変わりにしながら考える。彼の非筋肉質な身体は、なかなかに良い。
とそこで生まれる更なる違和感。
清ちゃんが弟?
そんな自分の認識の、何かが引っかかる。弟のように親しいのは間違っていない。清ちゃんとは血がつながっている。いとこだから。だから弟。
けれどそれは違和感だった。
本当の弟に、自分の恋愛関係の話を嬉々として語るだろうか。ましてやこんな事をするだろうか。ブラコンだったらあるか。あるなと思いながら考える。
弟を溺愛しているという感覚からすると、あたしはでは、清ちゃんを溺愛しているのだろうか。ないなと考え直す。目の前で清ちゃんが雑誌を読んでいる。彼を枕にして、考える。
あたしも清ちゃんも一人っ子だった為か仲は良い。けれど、ある程度の常識は知っている。今時の姉と弟は、そんなことはしない。
では何か。
あたしたちは友達なのだろうか。とすると女友達? いや、それも変だ。
さっき言った冗談のように、清ちゃんは男好きというわけではない。それには自信がある。たまに一緒に買い物する時も、見る対象は男ではなく女の子が多い。ちゃんと、美人限定で見ているし。胸も大きい方が好きだ。
むう。
あたしの事を気にしていないとは言うけれど、しっかりとパンツは見てくるし、エッチな本だって隠してある。女の子に興味がないとは思わない。
では……何だろう。
「清ちゃん、アタシのこと男友達だと思ってる?」
「うるさいなぁ。なんなのさっきから」
ぬぅと伸びる清ちゃんの手と殺気に、あたしは慌てて逃げようとする。しかしその巧みな手技は、あたしを逃がしてはくれなかった。
おでこに、清ちゃんの指が触れた。
とくん。
「ぁ、きゃひっ?!」
ぺちんと、狙い通りの額に、清ちゃんの指が弾かれた。
いわゆる、でこぴんを食らう。
「いったッ」
力がないくせに妙に痛いそのでこぴんは、昔から変わらない。
額を擦りながら、けれどめげずにあたしは言う。
「ほら、なんかあたしのことを女として見てくれてない気が……するんだけど。このでこぴんなんて手加減無しだし」
「そんなこといわれてもなぁ。女の子が好きな女の子だからなあ」
清ちゃんのそんな返答に、あたしは少なからずショックを受ける。よくよく考えれば、それはあたしとしては大問題である。
あたしが男と呼べる者の中で毛嫌いするのは年齢問わずだ。
超年下の可愛い子なら触れなくもないが、股間にあの変な禍禍しいものがついていると思うだけで嫌気が差す。
高校生なんてもう頭の中はそれ一色だろうし、大人の男も女子高生に対する感情は同じくそうだろう。だから痴漢は増えて、変質者も増える。
それほどに女子高生という職業は唯でさえ狙われ易く、電車やバスで受ける視線は何処であっても気持ち悪い。
吐き気すらする。
直ぐ間近にある清ちゃんの下半身部分を制服越しに観察しながら、更にうーんとあたしは唸る。
「女ねぇ……」
そんな悩み多きあたしを、清ちゃんはまじまじと見つめてくる。
あたしは身を起こすと、できるだけ女を強調するように髪を掻き上げ唇を舌で舐め、スカートをそろりと引き上げついでに胸を張る。清ちゃんとの距離は、手が届く間である。
そんなあたしに、清ちゃんは眉を歪める。
「ほら、女に見えるっしょ?」
「うーん」
腕を組み、清ちゃんは冷静に考える、ような唸りを上げる。
そんな、いとこの態度がもどかしい。
やばい。
まずい困ったどうしよう。
今のあたしは真剣に焦っていた。かなり本気で、危険な事態だ。
なぜなら清ちゃんは唯一、何の抵抗無く触れる男なのだから、そんないとこな清ちゃんに女扱いされないのは、非常にまずい。
もちろん清ちゃんにも、男たるアレがついてる。それはそうだろうけれど、昔から顔を合わせていた為かそれほど嫌悪感は沸かない。特に意識しないと言う方が正しいけれど、とにかく汚いとは思わない。
触れたくないと思った事も、見るなとか、一緒に居たくないと思った事もない。
喧嘩して嫌いになることはあっても、すぐに仲直りできる自信もある。
しかも清ちゃんは、あたしを無視することが多いからか、逆に気にしてくれないと腹が立つ。気にしてくれると素直に嬉しい。
……そうなのか。
あたしはようやくそれに気づく。
あたしはだから、清ちゃんに女として見られたいのだと、今さらながらに気が付いた。
《続く》
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる