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いとこな5
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清ちゃんはあたしの挑発を気にもせず、黙り込み、黙々と本を読む。
女の子みたいな顔をして、しっかりと男の子である彼は、あたしのスカートの中をチラ見して、どうでもよさそうな顔をする。
面白くない。酷くそれは楽しくない。さもあたしを女の子だと思わない、年上だとも思っていないだろう彼が、酷く憎くて悔しくて嫌だ。
「清ちゃん、あたしのパンツ見ようよ!」
「煩いなぁ、見たくないし」
そんな、いとこに対してあたしは不満をぶちまける。
切ない気持ちをひた隠して、怒るように言い放つ。ここで見てくれないと、あたしは女としての自信を無くしてしまう。あたしが女の子であることを、誰よりも知る彼に、女の子扱いしてほしいのに。
そんな我儘な事を、あたしはいつも思っている。
〇〇〇
「ペン太、返して」
「なら投げないでよ」
ぽいと、顔を上げた清ちゃんがあたしに人形を投げ返してくる。でもやっぱりスカートの中身には無関心だった。あたしのこれに、動揺する気配さえない。
少しも動揺して見せないいとこに、あたしはむかっ腹が立つ。
「ねぇ清ちゃんさー。何でオンナノコと付き合わないの?」
ベッドの上でごろごろとするあたしが、唐突にそんな事を言ってみる。
清ちゃんは一瞬言葉に詰まったような顔をした。けれど視線は雑誌に向けたまま、それ以上顔を動かさない。好きないとこが居るから、なんて言ったらどうしよう、なんて乙女心が想ったりして。
「何? 今度は僕の彼女を毒牙にかけようとか思ってる?」
「それもいいねぇ」
顔すら浮かばない相手に自分の身体を這わす姿を想像したりして、それを遠目にくやしがる清ちゃんを想像する。
ちょっと面白そうな感じだったりして……って思った辺りで、あたしは口元を歪ませた。とてつもなく、にやにやする。
「もしかして清ちゃん、男が好きなの? うわ、やだぁ。汚いって、やめときなよ男なんてさ」
「誰かと一緒にしないで。僕だって好きな女の子くらいいるよ」
ぽつり。
ふと零れた清ちゃんの言葉は、当たり前のように部屋に流れた。ピアノの音のように自然に流れた台詞に、あたしの頭は真っ白になる。
清ちゃんの目が、あたしを見てから、そっぽを向いた。その一瞬に、その視線の意味を感じて、いや勝手に想像して、胸がとくんと疼いたのは錯覚か、あるいは血の繋がりか。
「……へぇ、居るんだ? 何で付き合わないの? 告白は?」
「してないよ。っていうかする気もない。どうせフラれる」
あたしの問いに、清ちゃんは素っ気無くそんな言葉を返してくる。清ちゃんを振るのかー。それは、意外だな。だってこんなに、優しいのにさ。
あたしが知る限り、清ちゃんはとてもいい子で、素敵な男子だ。
「へー。清ちゃんを」
「それと……」
何を言っているんだこいつは。そんな雰囲気の顔をする清ちゃんの目が、やや苛立っているのが解る。
そんな彼にあたしは、次の手段に出る。
そっと、スカートを腹部付近まで持ち上げて、中に隠れているショーツを、ちらちらと見せてやる。わざとらしく、けれど全部ではなくちょっとだけ。
ちら、ちら。
そんなあたしの行動に、清ちゃんの瞳は、冷たさを増した。
「パンツ見えてる。寧ろ見せないで」
「きゃ、清ちゃんったらエッチ」
と、あたしは妙に高い女声で言った。やっと反応してくれたことが嬉しい。
あたしは内心でいとこに語る。あたしを放置するのはダメなのだ。あたしは不安になるとここに来る。嬉しくても来るけれど、特に辛い時はここに、清ちゃんのところに来る。
お父さんが死んだ時もそうだった。お母さんに怒られた時も、最初に出来た彼氏にフラれたときもそうだった。
あたしは泣きたくて、心が辛くて、眠れないくらいに怖い時も、絶対に人前では感情を表に出せなくて、でも一人になってもどうしようもなくて、でも感情は溢れそうで、どうしようもなかった。お母さんにの前ですら、感情を吐き出したことはない。あたしはいい子だから、悪い子しちゃいけない。
あたしはだから窮屈な世界で生きていた。
あたしはたぶん、清ちゃんが居なければ、泡になって消えていたのではないかと、今でも思う。
あたしは誰かと一緒でないと消えそうで、溶けて泡になってしまいそうになることがある。それくらいに心が不安定になってしまうから、誰かの肌が恋しいのだ。でも身体を預けても、心までは預けられない。そんな、誰かに甘えたいのに甘えたくないという矛盾で、あたしは何度も壊れそうになった。
でもそんな時、あたしは必ずここに来た。
清ちゃんはいつもあたしを迎え入れてくれた。清ちゃんはあたしを許してくれる。清ちゃんが居れば、消える前に引き上げてくれると信じていたから、今日もこうやってここに来た。そうして清ちゃんはいつも通りにあたしに接してくれて、頭も撫でてくれたから、あたしはいつもの通りで居られた。
もうフラれたことは仕方ないと納得できている。
あたしはいつだって清ちゃんに慰めてもらわないと、何だかダメな女の子になっていた。
清ちゃんと一緒に居るのは楽なのだ。弟は居ないけれど、清ちゃんはお兄ちゃんのような感じで、何も考えなくていい男の子で、嫌われるかもとか考えなくていい。
何よりこの部屋と清ちゃんの傍は、あたしが居てもいい大事な場所なのだ。あたしの世界が変わっても、この部屋と、彼の傍は不変だった。今後の事を考えたらどうなるかはわからないけれど、今はそれで十分だった。
そんなちょっとオセンチな事を思いつつ、あたしはさらにスカートを捲し上げた。
ちら、ぺら。
あたしはあくまでちらちらと、清ちゃんにスカートの中身を見せびらかせる。黒のレースの下着は大人のムード全快で、清ちゃんの反応が悪いので、制服を持ち上げて、お腹というかお臍まで見せる。ブラはさっきとったので、下乳も見えそうな、半ばセミヌードである。どうだ、欲情しろー。
そんな事を思いながら、しかしそこでふと気付く。
これ、相手が相手なら、際どいなんて話ではない。どう考えても、誘ってるな。
「どう? 色っぽくない?」
「……ハシタナイ」
「そうじゃなくてさ」
小さい頃に一緒に風呂に入った仲ではあるけれど、それは遠い昔の話だ。
引き締まった身体にフィットした勝負下着に、あたしはにへへと笑いを零す。けれど観客は、どうやらお気に召さなかったようで、眉間に皺を寄せて嫌そうだった。
ぞくぞくとする程に、彼は不愉快そうにあたしを睨みつけてくる。怒っているのかもしれないけれど、本心ではない。安心はやっぱり安心だった。
そんな彼の反応が、嬉しくて楽しくて良い。
「黒のレースより白いのが似合うと思うけど?」
「うわ、なんかむかつく」
特に顔を赤らめるわけでもなく慌てるわけでもなく、清ちゃんは静かにそう告げてきた。
あたしは手に持ったスカートをはらりと落とし、制服を正すと、ベッドの上を歩み寄り降りる。そのままに床上を猫のように四足で歩き寄って、清ちゃんの目の前でぺたんと座る。
清ちゃんは、いつもの通りの彼だった。
「なに?」
「……別に」
じぃと清ちゃんを見つめるあたしは、ふと思う。
そういえばあたしは、清ちゃんが動揺する様子をあまり見た事がない。
数年前、自分の初めては女の子とだったことを告げた時も、今もこうして女の子とえっちしようとしたことを報告しても、服を着替えていたって気にしない。お金がなくてこの部屋を勝手に借りて、えっちの真っ最中だったのを目撃された時もそうだ。
さすがにこれはやばいとあたしは思ったものの、清ちゃんに言われた台詞は「次からは先に連絡しておいて。入らないから」とだけ言って部屋を出て行った。
清ちゃんはだから、安心だった。
落ち着いた態度で部屋を出てくれて、あたしは事なきを得てしまった。
もっともその時の相手は、冷静で物静かな清ちゃんに惚れてしまい、あたしがフラれたというのは清ちゃんも知らないことだけれど。
あたしは更に考える。
「何?」
「ちょっと考え事」
清ちゃんは女の子にモてる。本人はあまり気にしていないけれど、一般男子からすると惚れられる数は多いと思う。
それが証拠に、清ちゃんは入学してすぐにラブレターを貰ってきたくらいだ。その数はあたし程ではないにせよ、たぶん今も、清ちゃんを好きな女は絶対に居る。
ちなみにラブレターについては清ちゃんから聞いたわけではなく、部屋の中のエロ本を漁っていたらゴミ箱の中に手紙を見つけてしまい、盗み読んだだけなので、その後の展開は知らない。
そんな清ちゃんは頭も悪くない。
だから中学の時、今の高校よりも一、下手すれば二つランクの高い学校へ行くと思っていた。寂しいけれど、ここに来れば会えるから心配はしていなかった。
けれどなぜか清ちゃんはあたしと同じ学校を受けた。
その理由を聞いても、清ちゃんは笑うだけで答えてはくれなかった。
あたしが居るから?
それを聞きたかったけれど、違うと言われるのが怖くて、あたしはその質問をしなかった。
《続く》
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