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死に際を共に行く7
しおりを挟む「っ、く」
「感じてるんでしょ、何で喘がない、かな。あぁあ、あぁ、くぅ」
清十郎は決して喘がない。狭い膣内で擦られて、立ったままの繋がりは体勢が悪く、けれど繋がりは深い。くにくいとリリィに腰を振られ、清十郎が立ち続けられず床に尻餅をつく。それを嬉々として、リリィは彼を尻に敷き、騎上位でひたすらに施し続ける。
犯される状況に快楽を感じてはいるくせに、彼は決して気持ちいとは言わない。それを吐く相手は自分ではないのだと、思う度に歯を食いしばった。
清十郎が感じているのは解っている。快感が背筋を駆け抜けて、相手が気持ちいいと思う通りに、動きを変える。
リリィは静かに腰を持ち上げては沈めた。愛液が彼の腿をてらてらと濡らしていく。
「当時の萌香さん、僕と清十郎がこんなこと、してると知ったら泣く、かな。ああでも、記憶ないもんね。もう他の男の女だから、どうでもいい、だろうね」
「今なぜ、それを言う」
「今だから言うんじゃない? ふふ、気持ちい? 僕の膣」
清十郎はいい男で、けれど最低だ。女を相手にしているくせに、その相手を愛しく思わない。馬鹿な男は普通、その時くらいはその相手を想う。けれどこの馬鹿は一途過ぎて、自分を好きでもない女を想っている。けれど思い出させる努力もせず、むしろ忘れていてほしいとすら思う程の、馬鹿。馬鹿。バカバカバカ。
リリィは涙を流しながら、彼の腰に自身の尻を叩きつける。快感が憎い。沸き起こる甘美な刺激が憎くて辛い。
「気持ちいなら、イってみなよ。ほうら、イこうがイくまいが抜かないからね。っ、一緒の時間が欲しい、だけだからっ。あ、いま、イきそうな顔、したね」
「知らん。どうでもいい」
清十郎が苦痛に歪んだ顔を見せる。している時くらい嬉しそうにしろよ屑。リリィは腰を回しながら、清十郎の唇を奪う。清十郎は避けない。舌を絡ませながら、愛の味を流している。右から、左に流している。
「うそ、気持ちいって顔してる。萌香さんにその顔見せたら、何か思い出すかもよ?」
「っ、もうやめろ。言うな」
清十郎が言葉を吐き、リリィから逃げようとした。けれど上から乗られている状況でそれはままならず、リリィは膣を締めた。清十郎の喘ぎが小さく、漏れた。リリィの口元が緩んだ。
「止めちゃダメ。僕はこの後、君の姿でいつもの喫茶店に行き、萌香さんに会う。それから行きつけのバーに顔を出して、君のバイト先にも向かう。まだ時間、足りないから」
清十郎が身体を震わせている。射精が近い。リリィの腰に力が入る。ああこい、こいよ僕の中に吐き出しちゃえよ。リリィは嬉しさのあまり、頬に熱い液を垂らした。
「愛でも囁いておこうか?」
「やめてくれ」
そんな苦しむ、あなたが好き。リリィは静かに腰を沈めた。限界の予兆が膣から体内に伝わってくる。リリィはそれでも彼を責めた。大量に、熱い汚液が体内に流れていく。
どくん、どくんと混ざっていく。
「今くらいは萌香の事を忘れようよ。僕に心を揺るがせてみて」
「俺はもう、萌香の事なんて」
リリィに跨られた清十郎がようやく言葉を吐いた。その間も清十郎の腰が震え、びゅるるぶうとリリィの中で脈動する。リリィの体内に清十郎の気持ちが、嘘の気持ちがあふれていく。どくんどくんと脈打つそれを、リリィは味わう。神経系に伝う霊気が、彼女の体内に記憶として蓄積されていく。
彼の細胞が自分の中に収まっていくのが嬉しい。
リリィはこの力を得る為に、一つの傷を負った。それは子を宿せないという一つの傷。
「嘘だよ。嘘」
それでもこの人となら。一緒に一生を添えられるのにと思うリリィの乙女は、いつだって彼女の心の外から出た事はない。
……。
…………。
「二時間はしたか」
「そうだね。これだけすれば、しばらくは君に成り代われるね」
ふらつく意識の中で、着替えをし始める清十郎を呆然と見る。一時間ほどまでは意識があったのだけれど、とリリィは精液塗れの身体をタオルで拭った。気が付くといつも無我夢中になっていて、そもそもここまで本気でするのは清十郎くらいなので、他とするときは理性が働き、記憶が飛ぶ事はない。
リリィは他人に成り代われる。
そして過去の自分にも成り代われる力を持っている。それはいわゆる、老いとの決別である。数時間前、あるいは一日前までの状態に戻れるのだ。
リリィは即死しない限り、怪我をなかったことに出来るのだ。そのおかげで、今まで生きてこられたと言ってもいい。
リリィはすでに自分の年齢を忘れてしまった。それが能力の代償である。もちろん能力を使わなければいいだけである。しかしある能力は、半ば自動的に発動する。
しかしリリィは清十郎と出会って、行為をしてから、自らの身体を元の状態に写し戻す事を拒否するようになった。清十郎と致した時間こそが自分の時間であると、心が望んでいるのだと気付くのに時間はかからなかった。
故に彼女はいつまでも処女であるというステータスを失った。しかしてそれこそが自分の欲である。リリィに後悔はない。
「清十郎、途中から何か、僕ってされてる? 最近なんか、記憶飛ぶ率が高い気が」
「何の事だ?」
リリィの言葉を清十郎は理解しない。そもそも精液が身体に掛かっている時点で、その間は繋がっていないわけで、せっかくの成り代わり時間補充行為が何か、違う事をしているのではないだろうかと、思うような意味がわからない。
セックスの後半は頭が回らない。もともと普通の女の快楽の二倍なのだ。リリィはベッドに突っ伏したまま、着替える清十郎を見つめている。彼は静かだった。とても穏やかだった。
「任務の時間だ」
「行ってらっしゃい。後は」
清十郎が『十字瑕』を掴む。リリィはベッドに腰掛けて、そんな彼の背中を見る。彼の逞しい背中に飛びつきたい衝動を堪えて、リリィは瞼を閉じた。
「俺に任せてくれ」
次の瞬間、零れた声は中性的な声だった。清十郎が振り向き、苦笑う。
「気持ち悪いな。精液塗れの俺は」
「全てお前のだろう?」
部屋に二人の清十郎が居た。『十字瑕』を携えた清十郎が部屋を出る。残った清十郎はシャワーを浴び、静かに制服を着こむ。ここにはもうリリィは居ない。この時間から、リリィは消え、清十郎が二人居る。心も体も、清十郎になっていく。時間は緩やかに過ぎている。休みたい衝動を必死に堪えて、清十郎は靴底を鳴らした。
部屋のドアを潜った。作戦開始。微かに残るリリィの心が想う。彼のアリバイを、清十郎が作る。清十郎が仕事をする間に、清十郎が日常を歩む。
そしてぐらりと、清十郎の姿がリリィに戻る。眉間には皺が寄っている。
「ふぅむ、愛はないけれど、気持ちいいって思ってくれてるか。でも途中でやっぱり代理扱いされてるよなぁ。うーん、いや、最後の射精の後はリリィとして思ってくれたから、少しは進歩したか。っていうか途中からやっぱりされてるなぁ。男の子だなぁ」
部屋の外の廊下を歩きながら、そこにはもうリリィの姿はない。
清十郎が笑う。くっく、愉快過ぎる。自分の中にある萌香への愛を想えばこそ、不愉快な程に愉快だ。真っ先に喫茶店に向かう自分の足がうらめしい。
けれどそれこそが清十郎なのだ。理性が揺らぐ。鏡にリリィが写る。
「ふふ、僕の身体に魅力を感じてきてるんだね、くく、さすが男の子。ま、今はそこまでか。残念だけれどしょうがない。はっは」
リリィは肩を竦め、今度こそ姿が清十郎に成り代わる。
彼は笑いながら、現世にある、ごく普通の毎日へと躍り出た。
〇〇〇
ごごごごごごご。
大型トラックが公道を走る。荷台にしゃがんだ清十郎が、静かな呼吸を繰り返す。鞘の中にある刀身は青白く光りを放っている。風が轟音を立てている。少しも揺るがずに、車は加速している。
『君を拾ったのは僕だ。だからそれでも死ぬなら、僕を殺してからにして』
昔の言葉が脳裏に過る。頭に一瞬、女の顔が浮かんだ。売り女に化けたと言っていた。そんな彼女を哀れと思えばこそ、引導を渡すのは自分だろうと覚悟を決めている。
彼女はしかし、言葉に反して死を望んでなどいない。故に清十郎は動かない。
思考が凍る。心が凍る。清十郎の手が鞘を握る。強く、しかし優しく握り締める。景色が流れていく。風圧が身体を薙ぐ。
すれ違いまで、あと数秒。風が清十郎の制服をなびかせる。
『あと十秒で接触だ。清十郎、いけるかい?』
「問題ない」
車と車がすれ違う。黒塗りの外車。トラックが寄る。唐突に爆音。車は揺るがない。遠くの川に爆炎の柱が立った。黒塗りの車の、運転手がそれを見た。清十郎が立ち上がる。車の流れに反する一刀。一瞬。
フロントガラス越しに、運転手が爆発の方を向いているのが見えた。完全に立つ。爆発の規模と威力から、発破の達人こと磯崎で違いないと確信。清十郎の手が震える。膝から腰、肘へと気が伝う。力。
黒塗りの車がややこちらに寄った。すれ違い。気は漲っている。鞘に収刀された刃の柄を握る。呼吸。居合い。瞬殺。
目を凝らす。装甲の向こうに二人の影。霊体の輪郭が見えた。今。しゅん、と軽い音がした。
作戦は、呆気ない程に達成された。
〇〇〇
「今日も美味しいね」
「ありがとうございます、安部さん」
静かな喫茶店にまどろんだ空気。清十郎は肩を竦めて、小さな珈琲カップを傾ける。遠くで爆発の音がして、「何かしら」と萌香が窓を覗いている。
それを見ながら、清十郎は静かに、些細な吐息を漏らした。
〇〇〇
「完了」
『確実に殺したのか』
イヤホン越しに聞こえるヒューズの問いに、清十郎は頷かない。代わりに刀を収め、静かに助手席へと移る。隣に居る金髪のヒューズを睨みながら、清十郎は眉間にしわを寄せて吐き捨てた。
「依頼通り霊体だけを斬った。植物人間だろう」
『そうか、それは最悪だな』
清十郎のつまらなさそうな呟きに、ヒューズは笑い、それ以上の言葉を切る。その刃が自分に向けられることがないようにと祈りながら。
こんな男を愛する女が、果たして居るのだろうか、そう思いながら。
《終わり》
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