恋とレシーブと

古葉レイ

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恋とレシーブと16

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「いらっしゃい」
「こ、こんばんは」

 家に着くと、恭介君のお母さんが居た。「彼女のあさみ」と恭介君は簡単に告げて、お母さんは私を見るなりお辞儀をくれた。「恭介がいつもお世話になっています」なんて丁寧にあいさつされて、私もしどろもどろで挨拶を返した。

 私たちはすぐに恭介君の部屋に行った。その後お母さんが来て、お茶菓子とお茶を出してくれた。それからしばらく無言が続いて、私は彼と共にベッドの上に座って、押し黙っていた。

 そうしてようやく、彼は言葉を告げた。
 彼は、静かに心中を私に告げてくれた。

「負けていたらどうしようと思った。でもそれ以上に、戻ってももう俺は、試合に出られないかもと思うと……ただ怖かった」

 赤裸々に告げられる言葉は彼の本心だった。いつも優しくて大きい背中が、今は少しだけ小さく見えた。ほんの少しだけど。

「みんなを信じていたんだけど、戻って、試合が終わっていたらどうしようって。でも、それだけじゃないんだ」

 恭介君が私の方に倒れてくる。頭が私の肩にのってきて、私はそんな彼の頭を撫でてあげる。他に何もできないけれど、傍に居るならできるから。必死に彼の気持ちを汲もうと頷く。

「村上先輩が活躍してて、俺なんて居なくても大丈夫で、戻ったのに、コートの端で応援している姿を想像したら、このまま戻らない方がいいんじゃないか、なんて」

 そんな風に思っていたんだ。彼の少し暗い部分が見えて、私は何も言えず、ただ黙って聞いている。恭介君も特に言葉を待っている風ではなく、一方的に語ってくれる。私はたぶん、ただ聞くだけでいいらしい。

「薄情だよな。村上先輩だって頑張ってるんだ。活躍して欲しいって思うんだ。思ってるんだ。でもあの時、俺は……俺が入りたいって、戻りたいって思ったんだ。コートの中に、また」

 恭介君が弱音を吐いている。いつも飄々として誰とでも分け隔てなく話、とても純粋でできた子だと思っていた。けれど彼もまだただの一年生で、成長している最中なのだ。
 まだまだ子供で、私と同じ高校生なのだと思い知る。

「当たり前だよ。君は勝負をしていたんだから。戦場からあんな形で途中退場しちゃったら、悔しくて当然だよ」
「三年はこれが最後の試合になるかもしれないのに」
「そんなの関係ない。むしろ勝ったんだから」
「村上先輩、頑張ってくれたのにな」
「うん、でもやっぱり、きょー君が来てくれてよかった」

 きっと彼が戻らなかったら、今日の試合は負けていたかもしれない。たとえ恭介君が戻って負けていたとしても、それは全力を出し切った後だと割り切れたはずだ。

「よしよし。きょーくん、今日はがんばった」

 頭を何度も撫でてあげる。恭介君が少し驚いた様子で、けれど私に頭を撫でられてくれるのは嬉しかった。ふと恭介君の体重が私に圧し掛かってきて、顔が近づいてくる。
 唇が、唇に触れた。

「んっ……きょーくん?」
「いま、したいって言ったら怒る? 明日試合なのに」

 とても切なそうに告げられて、思わず吹き出しそうになった。いやわかっていましたとも。そもそも最初からそれが目的で言われたのだと思っていたので、私は驚くやら可笑しいやらで押し黙ってしまった。彼が少し不安そうに顔を歪ませているのが、可愛いったらなかった。

「今日じゃなきゃダメ? 明日とかでも、いいよ?」
「でも明日、勝っても負けても、なんかそれのご褒美とか慰めとか、そんな気がして嫌だ」

 彼は我がままだった。
 けれど彼なりの本音を私が受け取らないでどうするのか。私は彼の頭を撫でながら、仕方ないなとばかりに肩を竦めた。

「ここで拒否したら彼女失格じゃない?」
「……今の俺、彼氏失格なんじゃ?」

 恭介君が呟き、私はこっそりと思った。いやそれ彼氏の特権だから。それ使えるから彼氏で、彼女なんでしょうと思ってしょうがなかった。

「応援ありがとう。あさみが居てくれたら、俺、今日頑張れた」
「うっそだ、そんなわけない」
「ううん。本当、あさみのおかげだよ」

 始めて訪れた恭介君の部屋で、彼が静かに想いを語る。その言葉は彼の本心かはわからない。でも言われて嬉しいとは思うので、照れてしまう私に罪はない。彼は静かに、私の体を抱きしめてきた。

「あさみがさ、早く戻れって言ってくれたから。みんな待ってるって、言ってくれたから。自分も信じられなくなった時、一つだけ思ったんだ。ああ、あさみはきっと、俺が戻ってくるのを待っているって。ちゃんと、待ってるって言ってくれたから。じゃあこの気持ちは俺の我がままだけど、あさみにいいところ見せたいって気持ちがあるから平気だって」

 彼がそっと私の顔に唇を寄せてくる。私はそっと瞼を閉じて、彼の唇の温度を測る。少し熱っぽい気がした。たぶん、心の温度。

「最低だな、俺」
「ううん。正直に話してくれて嬉しい。私はきょーくんの雄姿が見たかったです」

 恭介君が私の上に倒れてくる。制服は脱がず、着衣のまましちゃう方がいいかもしれない。誰か来たら困るし。そもそも一階に、お母さんが、居るわけで。
 声押し殺せるかな。大丈夫かな。不安は尽きない。けれど今、目の前の彼は弱っていた。私から見ても、救済が必要だと思う程に。

「いいよ、したいなら、しよう?」

 私は胸元のリボンを緩めながら、彼の唇を優しく奪う。少し舌を這わせるような濃厚なキスをして、顔を少し放す。恭介君の目は、驚くほど優しさに満ちていた。

「ありがとう」
「どういたしまして。でも今日は私が動くから、ね? 動かないで? そっとしたら、たぶん声は出ない、と思うの」
「あ、そっか……ごめん、考えなしで」

 恭介君も一階にお母さんが居る事を思い出したらしい。私は首を振って、彼の傍に寄る。彼の体をベッドの上に倒す。そっと手を伸ばすと、彼の股間はすでに固く、大きくなっていた。
 うっわ、制服の上から触っただけで熱いし、硬い。

「あさみ、ごめんな、変態で」
「いいえ、私も気持ちは同じだよ。それとも破廉恥な私は嫌いですか?」
「いいえ」

 恭介君が照れた様子で私を見つめ、そっぽを向いた。あ、可愛い。私は少しおかしくなって、悪ノリしたくなってきた。彼のズボンに手をかけて、ベルトを外しにかかる。恭介君が少し驚く中、私は構わず彼のズボンを半分下ろした。そして下着も、少しだけ下ろす。

「あ、あさみ?」
「黙って」

 ぱんぱんに張れあがった彼の熱を、そっと舌で撫でてみる。しょっぱくて、決して美味しいとは思えない。けれど、これが彼の味。そう思うと、少しくらいは我慢できた。

《続く》
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