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恋文に想う10
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「しかし日野と結婚ねえ? 役所に紙出すだけなのに、何でドキドキするんだろう」
「実感沸かないけどね」
布団の中。ご飯も食べてこの部屋最後での一戦と言って始めたエッチは軽めで終わり、段ボールに囲まれながらの二人である。「確かに沸かないよね」と日野の言葉に私は頷く。正直、一緒に居続けられるだけなら結婚なんてしなくていいとすら思える。
でも、それはそれだ。ケジメは大事だ。
「これから死ぬまで一緒か。毎日べたべたされるのかなあ」
「会社に行っている間はさすがにないと思うので」
「帰ったらおかえりのちゅーとかするのかな」
「いつもおやすみのキスはしていると思うけど。いらっしゃいのキスも」
言われれば確かにしている。もう少し回数を減らさないと、唇が渇いて大変になるかもしれない。もっとも新婚の時はまだしも、それから一年、二年と経てば変わるだろう。それまでは毎日、まったりと愛し合いたいな。ダーリン、と。
「そのままエッチになだれ込んだりね。別にいいけど、結婚したらほどほどにな」
「う」
そんな風に釘を刺しながら思う。
私らは変わるのだろうか。日野が私から少し離れても、それはそれで良いと思うような距離になるのだろうか。結婚という安心。毎日べたべたされたいわけじゃない。でも、今はしたいと思うので、素直に従おうと思う。
「でも不思議だね。明日からさ、もう『帰るね』とか『また明日ね』とかないじゃない? どうなんだろうね」
「もしかして『また明日』がしたくて帰れって言ってた?」
「かも? でもいいや。話すのはこれからの事でしょ」
私の言葉に、日野は小さく頷いた。たとえば子供とか。将来の事とか。考える事はたくさんある。でも、日野とならどうとでもなるさ。と思う。
「結構同棲っぽく泊まったりしてたと思うけど」
「でも帰ってたじゃない。嫌なものは嫌だったの。住まいは別だったから。もう傍に居て平気なんだなあって思うと、変な気分だよ」
私は我がままかもしれない。日野を自由気ままに扱いすぎたかもしれない。反省はする。でも結婚するので、もう遠慮はいらないと思う。
「たったの10年だね。まだ、ほんのちょっとだ」
そう、私らの時間はまだたったの十年しか経っていない。もっともっと、これから先は長いのだ。日野と私の、関係は墓まで一緒で、その先もきっと、一緒であって欲しい。
「これからもよろしく。結婚式はまだ先だけど」
「まあ、のんびりいこう。先は長いしね」
うんうん、いいね。そう思って、そういえば私も彼に手紙を書いていたのだけれど、と思ったところで日野がふと、「さて」と言った。
はて、またする気か? と思って身構える。けれど日野の目は真面目で、つまりエッチじゃないのだと気付く。凄く嬉しそうな顔で、とてもさわやかな笑顔で、
「頑張って二千通目指すよ!」
「いや、旦那からラブレターとかいらない。マジで」
いきなりこいつは、馬鹿な発言を吐いた。
「えええええええええええ?」
いや、さすがにイランだろう。布団の中、日野の絶叫がこだまする。いや煩いから、本当に。
「何で要るわけ? 同じ景色見て同じ時間過ごすじゃない」
「いえいえいえ、仕事行ってる間とか別行動じゃないですか!?」
仕事しろよ、と思う私は間違っていない。日野の苦悩っぷりが可笑しくて、私はしばらくお腹を抱えて笑う羽目になった。いやもう、何だかな。
「ダメ?」
「ダメというか嫌」
いつ読むんだよ。日野が居ない時がないんだから、読む時間をどう作ればいいのか。別に専業主婦になるわけではないので、私も仕事をする。まあ時間は取れるけれど、外で読めないから、家で読むしかないとして、じゃあ、どうなる?
とりあえず、読書の時間を作らないとダメか。いろいろ、考える事は多いらしい。
「言えばいいだろう? 好きだって」
「でもやっぱり、手紙は大事だと思うよ?」
日野が深々と頭を下げてくる。それは喧嘩が起こり、仲直りする度に見る光景の一つ。日野が頭を下げて、言うのだ。
「手紙、また書かせて下さい」
そう言われて、私はいつも溜息を吐く。好きですよりも、手紙を書きたいの方が良く聞く台詞とか、どうなのか。それは不思議で、とても私ららしい、大切な言葉。
「手紙でないと伝わらない事もあると思うんだ」
日野の言葉に、私は肩を竦めて首を振った。「はいはい」と零しながら。
そうだな。私も、そう思うよ。
大好きなダーリンの鼻の頭を指でつつきながら、私もたまには書いてやるかね。そう、心で呟いた。
<おわり>
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