7 / 22
恋文に告ぐ7
しおりを挟む結局、日野の告白は、その雨の日の三日後になった。
私に対するお礼の言葉を綴りたい。そう言った彼から受け取った手紙は昨日、何十回も読み直した。何度も何度も読んで、私は静かに嗚咽を漏らした。
自分を好きになれた。春さんから学んだ全てが、今の僕の自信に繋がっていると思います。僕は春さんのおかげで今の自分を好きになれました。ずっとね、嫌いだったんだ。こんな女々しい男が人を好きになっていいのかなって、不安にもなったし怖かった。男子たらん、っていうと今時かもしれないけれど、やっぱり男らしくありたいって思った。
だから男子高にも通ってるしね。でも君はいいって言ってくれたんだ。別にいいって、僕らしくていいって教えてくれたんだ。僕は自分が好きになれた。春さんのおかげです。春さんに出会えて本当によかった。
僕はひとつ、君に言えなかったことがある。
あの日、本当はラブレターを落としたわけじゃない。捨てたんだ。捨てて、何もかも投げ出そうとしたんだ。女みたいだなって思ったし、それが嫌だったから。そうしていつもに戻ろうとしたんだ。
それを君は拾ってくれて、読んでまでくれた。嬉しかった。読んで笑ってくれて、いろいろ教えてくれた。本当に感謝しています。ありがとう。お礼を言っても言い足りない。本当に感謝しています。僕の我がままで春さんの大事な時間を費やしてくれてありがとう。話を聞いてくれてありがとう。
手紙を読んでくれてありがとう。あなたが居てくれて本当によかった。
明日、あの子に手紙を渡します。あなたから学んだ全てを彼女に向けて送ります。そして本当の気持ちを、大切な人に贈ります。
今までありがとう。
……読んでいる間、私は何度か涙を零した。
「っ、あ、畜生っ。何でこんな……お別れみたいな……」
読んで知った。分かっていたから出さなかった百点を、告げたのは私だ。彼はだからこれで終わりだと言った。
手紙を捨てて拾った。忘れ物を教えた。そりゃ確かに立ち位置が違う。彼女と私の立ち位置の違いを今さらながらに知った。
そして気付く、本当の別れが迫っている。
それはそうだ。彼が百点を取れば、私らは会う必要がなくなるのだ。
彼からの手紙を読んだ私は、もう居ても経っても居られなくなって、夜の十時から朝の三時までもの間、延々と文字を書き記した。散々読んでいたくせに、手紙を書くのは久々過ぎて、文章が浮かばなかった。気持ちだけが渦を巻いた。
泣きながら、書いては消して、消しては書いて、破って捨てて、また書いた。中学生の頃に友達とやりとりをしていた便箋を引っ張り出して来て、使った便箋は二セット近くも消費した。そしてさらに知った。
彼は私にラブレターだけじゃない、何通もの手紙を見せる為に、いつも便箋を買い続けて記し続けていたのだと。それもまた凄いと思った。小遣いの大半をこれにつぎ込んでいたのかもしれない。彼の小遣いの値段は知っている。ただでさえ奢らせられていたのだから、もっと切迫していたはずだ。今さらながらに後悔した。
彼はこの三ヶ月、百日近くもの間、私に見せるためだけにラブレターを書き続けたのだ。全ては名前も知らない子の為に。
それでも。
彼を哀れとは思わなかった。楽しかったのだ。私は知っている。彼の想いは、実は別の人の心に届いていた。私は今の自分の気持ちに気付いていた。
私は彼が、好きだ。
隠すまでもなく好きだ。毎日、日野の事を考えていた。わざわざ文を読み返した事もある。疲れた時に、日野の手紙で心を温めた事なんてざらだ。
好きだ。日野が好きだ。そう思うともう駄目だった。文をしたためずにはいられなかった。
渡せなくてもいい。届かなくてもいい。
彼にごめんねと、ありがとうを伝えたかった。
だから十五枚もの文を、私は鞄に放り込んだ。
《続く》
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる