シンゴニウム

古葉レイ

文字の大きさ
上 下
28 / 30

シンゴニウム・28

しおりを挟む
 〇〇〇

「気持ちよかったね」

 山頂のベンチの上で、俺と相原は肩を寄せ合い、青空を眺めていた。

 二人とも、服が乱れてあちこちが泥に汚れてしまっていた。初めての野外での行為だったが、乱暴にし過ぎたかもしれない。互いに疲れ果て、相手の肩で支え合っている。肩で息をしながら呼吸を整える。かなり真剣なセックスは、心が溶ける程に強烈だった。

 菖蒲園へ行った後、俺は突然の申し出で山登りを願い出た。ほぼ手ぶらの状態で無理矢理上った山の中で、俺と相原は、人が居ないのをいいことに、青空の下で繋がりあった。

「頭飛びそうだった」
「山の上だと酸素が薄いのかもね。ふらふらする」

 相原が可愛く笑い、俺の肩に頭を乗せてくる。山頂でした生でのセックスはインパクトが強すぎて、なかなか射精まで行き付けなかった。途中で相原がそれに気付いて、騎乗位になってくれた。おかげで妙な緊張感が消えて、気持ちが入り、最後は俺が押し倒して正常位で果てた。

 そんな行為に、最初のセックスを思い出した。

「水分が足りないだけかもな」
「特に葛城は出したしね。ティッシュがなかったから危なかったね」

 初めての日、口内射精で泣きそうだった彼女は、いつの間にか俺の精液を平然と飲み込めるようになっていた。美味しいわけではなくて、気にならなくなったらしい。曰く、俺のだから、と言われてそれ以上は聞けなかった。

 そういえば先月、数日していない状態から、口でしてくれて、強烈に濃いのを咽ることなく飲み込んだ。そんな彼女は恐ろしく嬉しそうな顔で『精液飲めるようになった記念ケーキでも食べようか』とまで言い出したくらいだ。

 慣れって凄い。

「私は貰った側だけど。でも口の中がイカ臭いぞ。はー」
「ごめんっ、う」

 相原に息を吐き掛けられ、確かに臭いと苦悩。相原がうっしっしと子供のように笑っている。仲良くなった。俺と相原は、どんどん親密になっていく。

 これからも、これ以上に。

「膣内射精されるかと思ったんだけどなぁ」
「さすがにしませんよ」

 乱れた服を正しながら、俺は静かに首を振った。本当の事を言えばしてみたかったのだけれど、そんな軽はずみでしていい事では断じてない。これでもし、子供が出来ていたらその時は覚悟を決めようと思う。しかしだ。

「いやあ、あのまま妊娠して結婚もありかなーとか思ったから、出してもらって良かったんだけど」
「さすがに後先考えなさすぎ」

 このイケイケの状態の相原に全てを委ねてはいけないのだ。彼女と共に居て解っている。彼女の無鉄砲ぷりは、どこかで押さえないといけない時がある。暴走し始めた時、隣に居る俺が、窘めなきゃいけないんだ。

 それが俺の居る理由だと、今なら言える。

「この後、降りたらどこかいく?」
「さすがに部屋でゆっくりしたいな。晩御飯、何にしようか」

 ベンチから降りて、手を繋ぎながら会話する。
 さて、今から問題の下山だ。最大限の注意が必要なので、気を引き締めないといけない。俺は彼女の手を引き、一歩前に出る。彼女は来た時と同様に、俺の後ろに付いてくれた。俺に手を引かれて、ゆっくりと歩いてくれる。

「外食とかでもいいよ?」
「ううん、私が作る。何が食べたい? 葛城が食べたいものを私も食べたい。一緒に」

 相原が俺に続き、坂のような階段を下りて行く。ゆっくりと、けれど着実に、俺と一緒に歩いていく。二人とも、実はふらふらである。それでも絶対に、相原は守るんだ。

 そう思いながら、一歩一歩を着実に踏み出していく。相原の手を引きながら、肩に手を置かれながら、俺は遠くに見える自分の町をもう一度見直した。

 最初狭いと感じた町は、角度を変えるとそこそこに広かった。

「俺、相原と同じ景色を見る為に付き合いたいって言ったっけな」
「そうよ。もっとも最近は、順序がちょっと変わってきてるけどね。し過ぎて予定変更とかざらだもの」

 彼女の言葉に、俺は肩を竦める事しかできない。確かに最初は、二人仲良くなる為だけにセックスをしていたはずだ。途中から、それも一つの楽しみとして嗜むようになっていて、気が付けば二人、その為に行動する事もある。

 彼女は変わってきているのだろうか。
 俺は変わってきているのだろうか。

「嫌か?」
「まさか」

 俺の問いは、彼女の失笑で掻き消された霧散した。

 俺はもっと変われるのだろうか。強くなれるだろうか。自分を磨くために、俺も彼女と共に、いろいろと挑戦してみてもいいのだろうか。

「今度、免許取ろうかな」
「うん? バイクの話?」

 唐突に行った山登りを終え、何とか下山しきった俺ら二人は、泥だらけで車に乗り込んだ。もう疲労困憊、車に乗り込んだ時点で周囲は暗くなり始めていた。危険だったな。俺らはそのまま、一時間ほど仮眠を取った。

 そうして互いに少しの疲れを取り、俺の部屋へ移動していた。そんな最中に呟いた俺の『免許取ろう』発言だ。疲れた後に運転させて悪い、という気持ちで呟いたのだが。

「何? 大型二輪免許取るの?」

 彼女が目を輝かせてそう返してきた。俺は自動車のつもりだったけれど、相原の中ではバイクになっていた、というか大型?

「葛城って自動二輪持ってるよね。ってことは大型だよね? ナナハンとか乗るの?」

 ふいに出てきた言葉に、目が点になった。相原の笑顔はほくほくだった。俺が新しい事に挑戦するという行為を喜んでいるのだろうが、それにしてはテンションが高い。

 もともと今日の相原は、テンションが高い方だが。

「何で俺がバイクの免許持ってるの知ってるんだ?」
「いや彼氏の免許事情ぐらい知ってるでしょ、普通。わあ、いいな。バイクで二人乗りの旅行とか素敵。一度してみたかったけど、私はバイク、重くて挫折したから」

 それこそ聞いた覚えがない。俺らはまだまだ、知らない事が多々あるのだろう。彼女の横顔を眺めながら、俺は静かに決意する。もっと、知りたい。相原の喜ぶ姿を。

「言った覚えないんだけどな」
「どっかで免許証を見たんだと思うけど、どうやって知ったかは忘れた。で、取るの?」

 軽はずみな発言をした。
 けれど俺のそんな言葉に、相原の瞳は恋する乙女のようにきらきらと輝いていた。

<続く>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】禁断の絶頂

未来の小説家
恋愛
絶頂を我慢したい彼女の話

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R18】今夜、私は義父に抱かれる

umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。 一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。 二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。 【共通】 *中世欧州風ファンタジー。 *立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。 *女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。 *一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。 *ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。 ※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25

処理中です...