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日曜日のわたしたち・1
しおりを挟む「ここ、どこだっけ?」
薄暗い部屋の中で、完全に開かない瞼を無理矢理に抉じ開けると、そこは見知らぬ部屋だった。むむ。むむむ?
乳白色のレースカーテンしかない窓を眺めながら、右頬を布団に埋めたまま考える。思考に靄が掛かっていて、意識がふわふわする。
記憶喪失にでもなったのかな、なんて呑気に考えていると、すぅすぅと優しい寝息が聞こえてきて、わたしは視線を少し持ち上げる。隣の布団には、大好きなりゅーちゃんが、気持ちよさそうに寝ていた。
ああ。
その光景だけで、わたしは安堵した。息が漏れる程に安心する。
りゅーちゃんが居れば、どこでもいいや。
そして冷静になったわたしは、ようやく思い出した。そうだ。ここは昨日引っ越してきた、わたしたちの部屋じゃないですか。
わたし『たち』の部屋。そんな風に桃色な気分で自分の心中の台詞を頭の中で五回くらい復唱したら、唇が緩んでどうしようもない。むふふ。少し冷たい布団に顔を埋めて、わたしは今を噛み締める。ふふふ。うふふふ。
「おはよー」
一足先に起きてしまったわたしの素朴なあいさつは、りゅーちゃんに届かず虚空に消える。それもいい。どうせ二人きりなんだし。
そう思うと、またも口元が緩んでしまう。
寝る前にりゅーちゃんと繋いでいたはずの手は、今は離れていた。わたしの寝相は決して良くはないので、自業自得に違いない。それでも伸びたままだったわたしの手はりゅーちゃんの布団に入っていて、嬉しかった。そっと手を伸ばして、りゅーちゃんの後ろ髪を梳く。
ちょっとくせっ毛のりゅーちゃんの髪が、わたしは大好きだ。何度かさわさわと撫でながら、指先に幸せの感触が伝ってくるのが嬉しくて楽しい。
二人の布団が何とか敷けた程の狭い寝室で、わたしはもっとりゅーちゃんの傍に寄ろうと、身体を持ち上げようとして、唖然。
「っ、げ」
ぐぎ。
「いたたたたた」
伸ばした身体の節々に、電撃のような痛みが走る。喉が悲鳴を漏らす。背に汗が伝う。全身が自分の身体でないような錯覚に、思わず布団に突っ伏してしまう。
腕立て伏せの姿勢から動けない。痛い。腕や太腿にびりびりと鈍い痛みが走り、疲労感よりも激痛が全身を駆け抜ける。痛い痛い。持ち上げようとしていた上半身は見事に動かず、指でこりこりと、りゅーちゃんの後頭部を浅く掻く。
「りゅーちゃん、たすけてぇ」
「……? どうした、なな?」
わたしの半泣き状態の呻きに、寝起きの良いりゅーちゃんが即座に目を覚ましてくれて、ぐんと頭を回してこちらを見てくれた。
「からだ、が、痛いの」
わたしは涙目でりゅーちゃんに助けを請う。長いまつ毛に釣り上がったりゅうちゃんの目元は凛々しくて、伸びてくる二の腕も筋肉質で逞しい。わたしの頭をわしわしと撫でてくれるりゅーちゃんの手が、ため息が出る程に幸せだったけれど、首が痛い。びき。
「いっ、いたいっ。痛いの。身体が、全身が痛いの」
「あー、ななは布団変えたら身体ばっきばきになるんやったな」
わたしの呻きと今の状況に、酷く納得したりゅーちゃんは、むくりと布団から起き上がる。そのまま滑るような動きでわたしの背中の上へと移動。上半身は薄いTシャツに隠れ、下も短めのハーフパンツ姿のりゅーちゃんは、妙に色っぽくて、男だというのに艶めいていて、とにかくえっち。背中に乗られた状態で、わたしの胸の奥が、とくんとくんと甘く鳴る。
対してりゅーちゃんはこちらの気持ちなんて気にもせず、身体ばきばき状態のわたしの背中に乗ったまま、わたしの背中に手を当ててきます。りゅーちゃんのお尻が乗って、優しい重みが腰に来て心地いい。つぅと、彼の親指と中指、人差し指が、わたしの肩に触れた途端、肩甲骨に甘い刺激を生む。
「っ、いったぁ、いぃ」
「相当凝っとるな。しゃあない。マッサージしたるさかい」
「お願い、します」
りゅーちゃんは訛りの強い口調でそう言うと、ぐいぐいとわたしの背骨や首元を優しい力で押してくれる。りゅーちゃんの指から伝ってくる優しい刺激が、凝り固まったわたしの身体を解してくれる。ぐい、ぐいと押される度に、身体が解れていく。
ついさっきまで寝ていたとは思えないりゅーちゃんが、背中から肩、腕から足を丁寧に解してくれる。わたしの身体が、優しい刺激と幸せの温度に包まれていく。
「あぁ、気持ち良い……あぁ、そこそこ」
「やっぱり布団は新調せん方が良かったんちゃう?」
「だって、っ、んっ、古かったし、ぁっ、どうせ慣れだし、だかっ、あっ」
りゅーちゃんの手のひらと指が、わたしの背中の上を移動して、腰や肩を揉みしだいていく。優しい指がわたしの身体を解していくのを全身で感じる。力強い親指や中指が、わたしに触れているのを感じる。腕や足の痛みが取れていく代わりに、別の感覚が増していく。
「んっ……ぁっ」
首元をマッサージしてくれるりゅーちゃんの手が、ふいに止まった。
「はぁ、ありがとぉ」
わたしは首を持ち上げて、背中にいるりゅーちゃんを横目に見ながらお礼を言った。対してわたしにマッサージを施してくれていたりゅーちゃんの顔は、少し赤くなっていた。
「りゅーちゃん?」
「その声は卑怯やわ」
りゅーちゃんの指がまた動き出して、彼の溜息と共に吐き捨てられた苦悩に首を傾げる。首の筋に絡んでくるりゅーちゃんの指が、少し前の方にまで来る。
「りゅーちゃんの指、柔らかくて、温かいね。気持ちいいよぅ」
「さよか」
りゅーちゃんの口調が少し淡泊な言い方になっている。わたしはりゅーちゃんの太腿に手を当てて、さわさわと撫でるように触れる。
りゅーちゃんの優しさに包まれたいなぁ。
ふと沸いた気持ちは純粋な愛なのだけれど、いっそ包むのはりゅーちゃんじゃなくてわたしの方がいいなとか、わたしのでりゅーちゃんを包みたいなとか、朝から思う。そんなわたしは淫乱なのだろうか。
そう思いながら、腰の上にあるりゅーちゃんの熱に気付く。身体はもう解れていて、思い通りに動くようになっている。っよし。
「ねー、りゅーちゃん?」
うざいって思われたら嫌だなぁ。朝から面倒くさいって言われたくないなぁ。そんな事を思いながら、わたしはりゅーちゃんの太腿を撫でていた手を、もう少し上に持ち上げていく。少しためらいながら、わたしは服越しに、りゅーちゃん太腿の奥にある、熱く固くなった部分に指を這わせる。すり、すりと指を這わせると、りゅーちゃんの股間がびくんと動いて、わたしの指を押し返した。
「なな?」
「りゅーちゃんのあそこも、熱いね。固いし」
「しゃーないやん。朝イチでななの躰触れたら、なんか盛ってしもたんよ」
気恥ずかしそうに呟くりゅーちゃんは酷く申し訳なさそうで、それが可愛いと言ったら怒るだろうか。わたしの胸の奥に、優しくて熱い気持ちが流れ込んでくる。
部屋の隅にある目覚まし時計をチラ見して、わたしはりゅーちゃんから視線を外した。
「入れても……えぇよ?」
「……ん?」
っかあああああ。あああ、恥ずかしい、台詞を零して布団に顔を埋める。りゅーちゃんの顔を、わたしは見られないくらいに照れている。くぅう、恥ずかしいよう。顔がから火が出る。わたしから誘うのは、やっぱり恥ずかしいですぅぅ。
「口調真似すんなや……朝から?」
「いやだったらしなくていいよ? わたしは、どちらでもいいから」
そう返しながら、ここでしないと言われたら寂しくなるだろうなと思う。そんな自分が淫乱だとも思うし、やだなぁとも思うけれど、りゅーちゃんはそんなわたしを好いてくれたのだから、隠しちゃダメだと自分に言い聞かせる。
ひと呼吸、ふた呼吸と押し黙る。背骨付近を押してくれていた手が、わたしの頭の上にきて、さわさわと撫でてくれた。
「……する」
「あはは。ちょっと悩んでたりゅーちゃん可愛い」
りゅーちゃんがわたしの身体の上に折り重なってくる。温かくて柔らかい唇が、わたしの首筋を撫でてくる。朝一番、わたしとりゅーちゃんは、幸せな時間に包まれる。
《続く》
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