悪役令嬢によるヒロイン幸せ計画!

海亜

文字の大きさ
上 下
15 / 33

9.5話:記憶を失くした悪女 ②【ノアside】

しおりを挟む
日差しが顔に当たり、目を開いた。

その時だった。

「ねぇ。君、大丈夫?!すごく傷だらけよ!」

声をした方を見ると同い年くらいの女の子が、心配そうにこちらを覗き込んでいた。

それが、忘れもしないラリア様との出会い。

声を出そうと、口を開いたが喉が乾き上手く声が出ず、身体も思うように動かなかった。

そんな俺を見たラリア様は、俺の手を自分の肩に回してそのまま立ち上がった。

「・・・あなたのこと、絶対助けるから。だから、大丈夫。」

そう言って微笑んだラリア様に、心が救われた気がした。

ラリア様の侍女らしき人は俺を見た時驚いた顔をしたが、そのままラリア様が乗ってきたという馬車に乗せていただいた。

その時は、ラリア様が貴族だったことに驚いた。

貴族が傷だらけの、しかも、路地で倒れている人を助けるとは思えなかったからだ。

馬車の中でラリア様が自分はラグリント家の人間ではあるが、孤児院から引き取られたことを話してくださった。

孤児だったことに驚いたが、どこか納得した自分もいた。

俺も暗殺者だったことは伏せて、話せるところまで自分のことを話した。

だが、不思議なことに俺はラリア様に助けていただく以前のことを全て覚えている。

記憶を消す魔法をかけたと言っていたことも覚えている。

・・・・・・記憶を持っていることを知られるのは良くないだろうと思い、その情報は自分の中で閉じ込めておくことにした。


そのまま、大きな屋敷に到着して、ラリア様はラグリント家の専属医だというルスターさんのところに連れて行ってくださった。

身体中に傷があることにルスターさんは、眉をひそめたが、事情は何も聞こうとはしなかったので、ありがたかった。

治療や診察が終わったあと、ラリア様に連れられて、ラグリント夫妻に挨拶をし、最初は怪我が治るまでということで、屋敷にいさせていただけることになった。

ラグリント夫妻は俺が見てきた貴族とは違い、優しく、そして気品に溢れており、それでいて何者にも動じないそんな印象をもった。

ラグリント家で働く人たちも優しく、そして、この屋敷で働くことを誇らしく思っているようだった。1人のことを除いては・・・。

リティー・ラグリント。

ラグリント公爵家の実子であり、ラリア様の義姉である。

エレミラ様の容姿と髪色を受け継ぎ、瞳はエレミラ様の濃い緑色の瞳とラグリント公爵のクリーム色の瞳を混ぜたペリドットの宝石のような瞳をしていた。

初めてリティー・ラグリントと会ったのは、ラリア様と廊下を歩いているときだった。

ラリア様はリティー・ラグリントを見つけてとても嬉しそうにしていた。

その時は血の繋がりはなくても仲のいい姉妹なのかなと思っていた。

しかし、そんな考えを打ち破るように、声をかけたラリア様にリティー・ラグリントは嫌悪感を表してラリア様を睨みつけていた。

「リティー。今日から傷が癒えるまでこの屋敷で過ごす子なの。」

嫌悪感丸出しのリティー・ラグリントに気がついていないのか、それとも気にしないようにしているのか、ラリア様はそう話しかけた。

しかし、リティー・ラグリントはラリア様をそのまま強く押して、忌々しそうに睨みつけた。

「私に関わらないでって言ってるじゃない!!!!あなたがどんな人を拾ってこようがどうだっていいのよ!!!あなたみたいなのが、ひとりふたり増えたところで、私には関係ないわ!!!!」

そう叫んだあと、踵を返しそのまま去って行った。

ラリア様を見ると、リティー・ラグリントが去っていく方を寂しそうに見つめている。

嫌悪感も憎悪もなくただただ悲しそうに・・・。

「それじゃあ、あなたが休む部屋に案内するね!」

困ったような笑顔をしながら、振り向いて俺にラリア様は言った。

なぜあんな態度を取られたのに、嫌悪感を抱かないのか不思議でならなかった。

それから傷が治るまでの間、ラグリント家でラリア様と主に行動することが多く、よく話す仲となった。

日々を過ごす中で、ラリア様が名前が無いと不便ということで、“ノア”と俺の名前をつけてくださった。

初めての名前。しかも、俺を助け救ってくれた人がつけてくださった名前。

心が温まり、嬉しさが募った。

ラリア様と過ごす時間はとても楽しく幸せで、この人を守りたいと強く心に思った。


傷が完治した頃、俺はラグリント夫妻に頼み込んで、「屋敷内で1番強い騎士と戦って勝てたらラリア様の従者兼騎士として雇う」という条件で屋敷にいさせていただく許可を得た。

俺は今まで暗殺者として培ってきた能力を活かして、屋敷内で1番強い騎士に見事に勝った。

それを見ていたラグリント公爵にお褒め頂き、ラリア様の従者兼騎士として雇っていただくこととなった。

その事をラリア様に報告をしたら、とても喜んでくださったことはいい思い出だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

処理中です...