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第三章 本当にあった都市伝説
本当にあった都市伝説(エイリアン)
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テレビではニュースが流れている。意識してみているわけではなく、単に付けていたらたまたまニュース番組だっただけだ。……とでも言いたげに画面を無視し、鈴木は台所に夕食を運んでいた。
近所のスーパーで売っている七十円のカップメンだ。ここの店はインスタント食品が安いので、週に一度大量に買い貯めて来る。鈴木の食事は三食主にこれである。納豆やサラダを添えることもあるが、金がかかるし面倒なのであまり買わない。食物にかける金があるのなら、もっと違うものに使いたい。たとえば、猫型怪獣『ゴッドジュニア』のDVDセットとか。『惑星ウォーズ』のサントラとか。ベイダー卿のヴォイスチェンジャー機能付きヘルメットも欲しい。
「昨夜十一時、S町で額に×印を刃物で刻むという陰湿な通り魔が発生しました。東京各所で同様の事件が多発しており、同一犯の犯行と見て警察では捜査をしています。この連続通り魔は半年ほど前から起こり始め……」
嫌でもニュースが耳に入ってくる。鈴木はこの事件が好きではなかった。
ポットでカップメンにお湯を注ぐ。それが終わるか終わらないかの刹那、玄関が勢いよく開かれた。台所は玄関口の前にあるため、動揺のあまり湯をこぼすところだった。
嬉嬉とした顔で佐藤が立っている。
――どう反応を取ればよいのだろう。
佐藤は弾け飛びそうなほど健全な声を出した。
「鈴木、もうご飯食べた?」
「……今、お湯入れたとこ……」
箸でふたをしたカップメンに視線を落としながら答える。
「よし、まだ大丈夫!」
――何が……ええええぇぇ?
思考のまとまらない鈴木の前で、佐藤は衝撃の行動を取った。彼の所有物であるチーズカレーヌードルを奪い取り、流し台に捨てたのだ。具も、麺も、汁も、何もかも。黒い穴に吸い込まれていく夕食を見ながら、鈴木は呆然と立ち尽くした。
そんな彼が目に入らないのか、佐藤は棚から勝手にまな板やら包丁やらを出し、何事かし始めた。
「晩御飯作ってやるから!」
強制的なオーラを放出しながら、持参した野菜を切り始める。
「……何? 急に」
彼女の勝手気ままな行動はいつものことだが、カップメンはちょっと惜しかった。
包丁を止め、こちらに目を向ける。どこか不満げな顔つきだった。果たして、自分は何か悪いことを言ったのか。
「何よ、いつ来たっていいじゃない。秘密基地なんだから」
「秘密基地って……」
「だって、『エリア51』なんでしょ?」
変なところだけ覚えている。五十一号室を洒落で「エリア51」にたとえたのだが、秘密基地というのを隠れ家や別荘的意味合いに解釈したらしい。本当は、米軍は宇宙人からもらった地球外物質でプラズマ兵器の作成を行っているのだが。
秘密基地として訪れていいのは本来なら宇宙人だけだ。
――まあ、べつにいいんだけど。
男からすれば女なんてみんなエイリアンだ。日暮れに突然野菜と共に現れ、人の飯を流しに捨ててしまうこの行為を、どうすれば理解できるのか。
佐藤は二つ年下で、同じ高校の出身。一応、先輩と後輩となるが、部活も違ったので、そういう意識はあまりない。かれこれ五年ほどの付き合いだが、お互いの思考にはどうも埋まらない壁がある。埋めるつもりもあまりない。
「……佐藤さん、家に居場所ないの?」
「あんたはもう、失礼なことばっかり言って!」
呆れたような口調からして、そういうわけではないらしい。ならば余計に謎である。夕食と言えば一家団欒の象徴だ。それを家族としないでよいのだろうか。何時ごろまで居座るつもりかは知らないが、あまり遅くなっても親は心配するだろう。だいたい、いつも思うのだが、彼女の格好。露出度が高い。
――帰りは送るべきだろうか? でも、俺が不審者に勘違いされたら嫌だし。けっこう近所だし、大丈夫かな。
いろいろ考えるが、結局は余計なお世話と思い至る。だから鈴木は佐藤のやることに干渉しないことにしていた。
鈴木が棒立ちで思考を巡らしている間に、佐藤は料理を作ってしまったらしい。刻んだ野菜を皿に盛り付けている。
「あんたの世話をしてると、忙しくて何も考えなくて済むわ」
「……べつに、世話とかいらないけどな」
ぼそりと呟くと、佐藤のつり目がこちらを睨む。案外に目力があり、気の強さが現れている。
「インスタントばかり食べてるから、そんなに血色悪いんでしょうが。たまにはまともなもの食べなさい!」
でも、安いし手軽だし……なんて言ったら、また怒りそうだ。鈴木は頭をかきながら曖昧に笑った。
「でも、わざわざ佐藤さんに作らせるのは……カップメンのほうが、おいしいし」
顔面に野菜が直撃する。たまらず、鈴木は後ろに倒れ込んだ。盛り付けられたばかりのサラダは無残に散らばり、皿と一緒に彼の横に落ちる。せっかく作ったものを……。
鈴木が起き上がったのもつかの間、佐藤に頭を踏みつけられる。野菜まみれの床に顔を押し付けながら悪魔さながらに叫ぶ。
「食えええ! 床に這いつくばって食ええええっ!」
「いじめ! 佐藤さん、これいじめ!」
佐藤の暴挙が収まったのは、唐突なメロディのおかげだった。佐藤のスマホに着信があったらしい。軽快なリズムを刻み続けるスマホをバッグから取り出す。
「吉村じゃん」
彼女が携帯の気をとられているうちに、床の掃除をしてしまう。どうやら晩御飯は抜きになりそうだ。それ以前に、鈴木は気付いてしまったのだ。佐藤の持ってきた食材は、野菜だけであると。
――主食は、じゃがいもにする気だったのかな。
「何? どうしたの、吉村!」
尋常とはいえない佐藤の声に、少し反応する。もう切れたであろう電話を、いつまでも手に握っている。目を見開き、憔悴しきっているのがわかった。
「……どうかした?」
顔が心なしか紅潮している。あまり見たことのない表情だ。
「吉村が……友達が、バツ一狼に、襲われたって」
近所のスーパーで売っている七十円のカップメンだ。ここの店はインスタント食品が安いので、週に一度大量に買い貯めて来る。鈴木の食事は三食主にこれである。納豆やサラダを添えることもあるが、金がかかるし面倒なのであまり買わない。食物にかける金があるのなら、もっと違うものに使いたい。たとえば、猫型怪獣『ゴッドジュニア』のDVDセットとか。『惑星ウォーズ』のサントラとか。ベイダー卿のヴォイスチェンジャー機能付きヘルメットも欲しい。
「昨夜十一時、S町で額に×印を刃物で刻むという陰湿な通り魔が発生しました。東京各所で同様の事件が多発しており、同一犯の犯行と見て警察では捜査をしています。この連続通り魔は半年ほど前から起こり始め……」
嫌でもニュースが耳に入ってくる。鈴木はこの事件が好きではなかった。
ポットでカップメンにお湯を注ぐ。それが終わるか終わらないかの刹那、玄関が勢いよく開かれた。台所は玄関口の前にあるため、動揺のあまり湯をこぼすところだった。
嬉嬉とした顔で佐藤が立っている。
――どう反応を取ればよいのだろう。
佐藤は弾け飛びそうなほど健全な声を出した。
「鈴木、もうご飯食べた?」
「……今、お湯入れたとこ……」
箸でふたをしたカップメンに視線を落としながら答える。
「よし、まだ大丈夫!」
――何が……ええええぇぇ?
思考のまとまらない鈴木の前で、佐藤は衝撃の行動を取った。彼の所有物であるチーズカレーヌードルを奪い取り、流し台に捨てたのだ。具も、麺も、汁も、何もかも。黒い穴に吸い込まれていく夕食を見ながら、鈴木は呆然と立ち尽くした。
そんな彼が目に入らないのか、佐藤は棚から勝手にまな板やら包丁やらを出し、何事かし始めた。
「晩御飯作ってやるから!」
強制的なオーラを放出しながら、持参した野菜を切り始める。
「……何? 急に」
彼女の勝手気ままな行動はいつものことだが、カップメンはちょっと惜しかった。
包丁を止め、こちらに目を向ける。どこか不満げな顔つきだった。果たして、自分は何か悪いことを言ったのか。
「何よ、いつ来たっていいじゃない。秘密基地なんだから」
「秘密基地って……」
「だって、『エリア51』なんでしょ?」
変なところだけ覚えている。五十一号室を洒落で「エリア51」にたとえたのだが、秘密基地というのを隠れ家や別荘的意味合いに解釈したらしい。本当は、米軍は宇宙人からもらった地球外物質でプラズマ兵器の作成を行っているのだが。
秘密基地として訪れていいのは本来なら宇宙人だけだ。
――まあ、べつにいいんだけど。
男からすれば女なんてみんなエイリアンだ。日暮れに突然野菜と共に現れ、人の飯を流しに捨ててしまうこの行為を、どうすれば理解できるのか。
佐藤は二つ年下で、同じ高校の出身。一応、先輩と後輩となるが、部活も違ったので、そういう意識はあまりない。かれこれ五年ほどの付き合いだが、お互いの思考にはどうも埋まらない壁がある。埋めるつもりもあまりない。
「……佐藤さん、家に居場所ないの?」
「あんたはもう、失礼なことばっかり言って!」
呆れたような口調からして、そういうわけではないらしい。ならば余計に謎である。夕食と言えば一家団欒の象徴だ。それを家族としないでよいのだろうか。何時ごろまで居座るつもりかは知らないが、あまり遅くなっても親は心配するだろう。だいたい、いつも思うのだが、彼女の格好。露出度が高い。
――帰りは送るべきだろうか? でも、俺が不審者に勘違いされたら嫌だし。けっこう近所だし、大丈夫かな。
いろいろ考えるが、結局は余計なお世話と思い至る。だから鈴木は佐藤のやることに干渉しないことにしていた。
鈴木が棒立ちで思考を巡らしている間に、佐藤は料理を作ってしまったらしい。刻んだ野菜を皿に盛り付けている。
「あんたの世話をしてると、忙しくて何も考えなくて済むわ」
「……べつに、世話とかいらないけどな」
ぼそりと呟くと、佐藤のつり目がこちらを睨む。案外に目力があり、気の強さが現れている。
「インスタントばかり食べてるから、そんなに血色悪いんでしょうが。たまにはまともなもの食べなさい!」
でも、安いし手軽だし……なんて言ったら、また怒りそうだ。鈴木は頭をかきながら曖昧に笑った。
「でも、わざわざ佐藤さんに作らせるのは……カップメンのほうが、おいしいし」
顔面に野菜が直撃する。たまらず、鈴木は後ろに倒れ込んだ。盛り付けられたばかりのサラダは無残に散らばり、皿と一緒に彼の横に落ちる。せっかく作ったものを……。
鈴木が起き上がったのもつかの間、佐藤に頭を踏みつけられる。野菜まみれの床に顔を押し付けながら悪魔さながらに叫ぶ。
「食えええ! 床に這いつくばって食ええええっ!」
「いじめ! 佐藤さん、これいじめ!」
佐藤の暴挙が収まったのは、唐突なメロディのおかげだった。佐藤のスマホに着信があったらしい。軽快なリズムを刻み続けるスマホをバッグから取り出す。
「吉村じゃん」
彼女が携帯の気をとられているうちに、床の掃除をしてしまう。どうやら晩御飯は抜きになりそうだ。それ以前に、鈴木は気付いてしまったのだ。佐藤の持ってきた食材は、野菜だけであると。
――主食は、じゃがいもにする気だったのかな。
「何? どうしたの、吉村!」
尋常とはいえない佐藤の声に、少し反応する。もう切れたであろう電話を、いつまでも手に握っている。目を見開き、憔悴しきっているのがわかった。
「……どうかした?」
顔が心なしか紅潮している。あまり見たことのない表情だ。
「吉村が……友達が、バツ一狼に、襲われたって」
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