50 / 51
第50話 バラギットの地図
しおりを挟む
「はて……何か勘違いしておられるのではないですかな? たしかに、私の配下にはシェフィという者がおりますが、閣下の仰る者とは別人ではありませんかな?」
(コイツ……あくまで惚けるつもりか……)
ライゼルの白々しい態度に、イヴァン13世が歯噛みする。
ライゼルに貸しが作れると踏んだからこそ、先の戦いでは漁夫の利を狙わず傍観したのだ。
ましてや、こちらの手駒であるシェフィが戦果を挙げたのだ。
この交渉でライゼル側から何かしら貰えなくては、わりに合わないというもの。
だというのに、ライゼルがこちらの支援を認めないというのなら、話が進まないではないか。
「先の戦いの様子はシェフィから聞いている。……敵軍が撤退しようとしたところでシェフィが堰を切り、退路を塞いだと。これが支援でなくてなんだというのだ?」
イヴァン13世がぎろりとライゼルを睨みつける。
……そういえば、あの戦いではたしかに突然大河の水が溢れ、濁流となってバラギット軍の退路を塞いでいた。
何が起こったのかよくわかっていなかったが、シェフィが手を回していたのか。
「……………………」
これは認めてもいいのか。認めない方がいいのか……
口ぶりからして、おそらくイヴァン13世はシェフィの行動を軍事支援と称し、その見返りを得ようというのだろう。
しかし、相手は隣国の国王。何を要求されるかわかったものではない。
また、こちらはただでさえ借金を抱えた身。向こうの要求次第では財政破綻しかねない。
それならいっそ、向こうの支援を認めない、という手もある。
もちろん、向こうの言い分を認めなければ関係悪化は避けられないのだが……
「おっと、失礼」
不意にライゼルの手がテーブルの上のカップを倒してしまい、零れた紅茶が服を濡らす。
「……申し訳ないが着替えてきても構いませんか?」
「かまわんよ」
イヴァン13世の許可が下りると、ライゼルが席を立つ。
カチュアを伴って控えの部屋に戻ると、ライゼルは息をついた。
「どうしたもんかなぁ……」
イヴァン13世の言い分を認めてしまえば、どんな要求をされるかわかったものではない。
かといって、認めなければ関係悪化は避けられない。
まさしく前門の虎。後門の狼。
「せめて、こちらにも交渉に使える材料があればいいのですが……」
カチュアが物憂げにこぼす中、控え室の扉が開けられた。
やってきたのはシェフィだった。
「すみません。わたしのせいでご迷惑をおかけしてしまって……」
「シェフィ……」
「わたしがモノマフ王国の援軍として戦うことで、バルタザール家とモノマフ王国、両家が手を取り合うきっかけになればと思ったんですけど、裏目に出てしまって……」
「……………………」
「やっぱりダメですね、わたし。何をやっても失敗ばかりで……」
シェフィの目元に涙が浮かぶ。
おそらく、シェフィは本気で両家が手を取り合えると思っていたのだろう。
しかし、実際はライゼルはイヴァン13世を警戒し、イヴァン13世もまたライゼルに対し野心を露わにしてる。
これでは手を取り合うどころか、両家の間に溝ができかねない。
「……俺はシェフィがいてくれて良かったと思ってるけどな」
「えっ!?」
「シェフィのおかげで開拓地が発展したし、少なくともシェフィが居なきゃ、俺はグランバルトで叔父上に殺されてた」
「ライさん……」
「ライゼル様の言う通りです」
「カチュアさん……」
「シェフィのおかげで、ライゼル様の負担も随分と軽くなりました。……たとえスパイだったとしても、シェフィは大事な友達です」
「その節はすみませんでした……」
カチュアにちくりと責められ、シェフィは小さくなる。
「……そうだ。叔父上の屋敷で地図を見つけたんだ。俺にはさっぱりわからないから
シェフィに見てもらおうと思ってたんだ」
荷物から地図を広げ、シェフィに手渡す。
バルタザール領が記された地図には数字やら図形が刻まれており、さながら暗号の様相を呈していた。
「これは……測量? この数字……埋蔵量? じゃあこれは……」
隅から隅まで目を通すと、シェフィの目が輝いた。
「ライさん、これ金鉱脈の地図ですよ!」
「なんだと!?」
元々、バルタザール領は帝国最大の領地ということもあり、多くの鉱脈が眠っていた。
現在はその多くが借金のカタに商人に差し押さえられているが、新たな金鉱脈が見つかったのなら、借金を全額返せるかもしれない。
(どうして叔父上が反乱を起こしたのか不思議だったが、なるほど。これがあったのか……)
金鉱脈があるとわかれば、手の打ちようもある。
「ありがとう、シェフィ。これでなんとかなりそうだ」
(コイツ……あくまで惚けるつもりか……)
ライゼルの白々しい態度に、イヴァン13世が歯噛みする。
ライゼルに貸しが作れると踏んだからこそ、先の戦いでは漁夫の利を狙わず傍観したのだ。
ましてや、こちらの手駒であるシェフィが戦果を挙げたのだ。
この交渉でライゼル側から何かしら貰えなくては、わりに合わないというもの。
だというのに、ライゼルがこちらの支援を認めないというのなら、話が進まないではないか。
「先の戦いの様子はシェフィから聞いている。……敵軍が撤退しようとしたところでシェフィが堰を切り、退路を塞いだと。これが支援でなくてなんだというのだ?」
イヴァン13世がぎろりとライゼルを睨みつける。
……そういえば、あの戦いではたしかに突然大河の水が溢れ、濁流となってバラギット軍の退路を塞いでいた。
何が起こったのかよくわかっていなかったが、シェフィが手を回していたのか。
「……………………」
これは認めてもいいのか。認めない方がいいのか……
口ぶりからして、おそらくイヴァン13世はシェフィの行動を軍事支援と称し、その見返りを得ようというのだろう。
しかし、相手は隣国の国王。何を要求されるかわかったものではない。
また、こちらはただでさえ借金を抱えた身。向こうの要求次第では財政破綻しかねない。
それならいっそ、向こうの支援を認めない、という手もある。
もちろん、向こうの言い分を認めなければ関係悪化は避けられないのだが……
「おっと、失礼」
不意にライゼルの手がテーブルの上のカップを倒してしまい、零れた紅茶が服を濡らす。
「……申し訳ないが着替えてきても構いませんか?」
「かまわんよ」
イヴァン13世の許可が下りると、ライゼルが席を立つ。
カチュアを伴って控えの部屋に戻ると、ライゼルは息をついた。
「どうしたもんかなぁ……」
イヴァン13世の言い分を認めてしまえば、どんな要求をされるかわかったものではない。
かといって、認めなければ関係悪化は避けられない。
まさしく前門の虎。後門の狼。
「せめて、こちらにも交渉に使える材料があればいいのですが……」
カチュアが物憂げにこぼす中、控え室の扉が開けられた。
やってきたのはシェフィだった。
「すみません。わたしのせいでご迷惑をおかけしてしまって……」
「シェフィ……」
「わたしがモノマフ王国の援軍として戦うことで、バルタザール家とモノマフ王国、両家が手を取り合うきっかけになればと思ったんですけど、裏目に出てしまって……」
「……………………」
「やっぱりダメですね、わたし。何をやっても失敗ばかりで……」
シェフィの目元に涙が浮かぶ。
おそらく、シェフィは本気で両家が手を取り合えると思っていたのだろう。
しかし、実際はライゼルはイヴァン13世を警戒し、イヴァン13世もまたライゼルに対し野心を露わにしてる。
これでは手を取り合うどころか、両家の間に溝ができかねない。
「……俺はシェフィがいてくれて良かったと思ってるけどな」
「えっ!?」
「シェフィのおかげで開拓地が発展したし、少なくともシェフィが居なきゃ、俺はグランバルトで叔父上に殺されてた」
「ライさん……」
「ライゼル様の言う通りです」
「カチュアさん……」
「シェフィのおかげで、ライゼル様の負担も随分と軽くなりました。……たとえスパイだったとしても、シェフィは大事な友達です」
「その節はすみませんでした……」
カチュアにちくりと責められ、シェフィは小さくなる。
「……そうだ。叔父上の屋敷で地図を見つけたんだ。俺にはさっぱりわからないから
シェフィに見てもらおうと思ってたんだ」
荷物から地図を広げ、シェフィに手渡す。
バルタザール領が記された地図には数字やら図形が刻まれており、さながら暗号の様相を呈していた。
「これは……測量? この数字……埋蔵量? じゃあこれは……」
隅から隅まで目を通すと、シェフィの目が輝いた。
「ライさん、これ金鉱脈の地図ですよ!」
「なんだと!?」
元々、バルタザール領は帝国最大の領地ということもあり、多くの鉱脈が眠っていた。
現在はその多くが借金のカタに商人に差し押さえられているが、新たな金鉱脈が見つかったのなら、借金を全額返せるかもしれない。
(どうして叔父上が反乱を起こしたのか不思議だったが、なるほど。これがあったのか……)
金鉱脈があるとわかれば、手の打ちようもある。
「ありがとう、シェフィ。これでなんとかなりそうだ」
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる