小物クズ領主の勘違い英雄譚 ~極悪非道な悪徳貴族……に勘違いされた小物貴族の成り上がり~

田島はる

文字の大きさ
上 下
47 / 51

第47話 潜入

しおりを挟む
 イヴァン13世は僅かな供と共にバルタザール領に潜入すると、ライゼルが滞在しているという開拓地に入った。

 本来であれば国王自ら潜入するなどもってのほかなのだが、シェフィに訊くのはプライドが許さない……もとい、ライゼルという人間を自ら見極めるべく、バルタザール領に乗り込むことにしたのだ。

 さて、つつがなく入国を済ませるも、肝心のライゼルの元にバカ正直に乗り込むわけにもいかない。

 聞くところによると、ライゼルは屋敷に籠ることは少なく、よく町に繰り出しているとのことだ。

 幸い、開拓地の人口は多くはない。

 そのうち出くわすだろうと淡い期待をしつつ、旅の疲れを癒すべく酒場に入るのだった。





 町をぶらつきながら、ライゼルはため息をこぼしていた。

 いつものように町に繰り出したものの、オーフェンやアニエスは政務に忙しく、シェフィやカチュアは歓待の準備に追われている。

 こんな状況で飲みに誘えるはずもなく、ライゼルは一人寂しく酒場を訪れていた。

 と、その中に異質な集団が目に付いた。

 明らかに上質な装備を身に着けた剣士が、注文もせずに店内を警戒していた。

(なんだこいつら……)

 どう見てもカタギの者ではない。

 おそらく賊か何かだろう。

 カチュアかアニエスにでも連絡しようか、と考えたところで、賊と思しき集団の意識が店内の老人に向けられていることに気がついた。

 なるほど、察するに、この老人を狙っているといったところか。

(……面白くなってきた)

 店内の視線を一心に集め、ライゼルが老人と同じテーブルに座る。

 なんだお前は。とでも言いたげな目で老人が睨んでくる。

「おい、ジジイ」

「なっ……ジジ……」

「落ち着いて、冷静に聞け。……あんたの後ろの席に、賊と思しき男が3人座っている。……おそらく、あんたを狙っているんだろう」

「!!!」

 老人の顔が僅かに強張る。

「今は人目もあるからな。連中もこんなところでことを起こしはしないだろう。……おそらく、店を出たら襲うつもりだろうが」

「……………………」

「心配するな。そのうち俺の仲間がなんとかする。……だから、今はとにかく飯でも食べよう。俺は今ヒマを持て余してるんだ。気の利いた面白い話でもしてくれたら、奢ってやってもいいぞ」

 ヒマつぶしの道具とおもちゃを同時に見つけ、ライゼルは笑顔を浮かべるのだった。





 なんだ、この小僧は。

 突如自分の席に相席してきた男を眺め、イヴァン13世は眉をひそめた。

 本当ならば適当に他の客からライゼルに関する情報を集めながら食事でも摂るつもりだったのだが、この男のせいで全部台無しだ。

 なにより、一国の王に対する態度とは思えない不敬なふるまいの数々。

 万死に値する。

 こちらが潜入捜査で、なおかつ空気の読めない部下《ポンコツ》に鍛えられていなければ、その場でキレていてもおかしくなかった。

 その点だけはシェフィに感謝するべきか。

「……気の利いた面白い話、と言ったか」

 イヴァン13世がワインに口をつけ喉を濡らす。

「……最近、儂の隣の家にそれはそれはろくでもない男が越してきおってな」

「面白くないぞ」

 目の前の男のヤジを無視してイヴァン13世が続ける。

「なんでも、商人を脅して借金を踏み倒すわ、気に入らない者は暗殺するわ、平気で騙し討ちするわ、この世の悪事を尽くしておったそうな」

「外道だな」

「だろう? そんな男が住み着いては、儂はおちおち夜も眠れん。……そこで、うちの密偵《イヌ》にやつを探らせることにした。……ところがだ。最近、その密偵《イヌ》が、どうもその男に餌付けされていることがわかった」

「まあ、犬だからな。餌付けくらいされるだろ。……そもそも犬に何期待してるんだって話だが」

「密偵《イヌ》があてにならぬ以上、儂がどうにかする他ない。幸いというべきか、儂は頭がいい。次は儂自ら男の家に潜入することにした」

「おお、大胆なジジイだな」

 男が黙って続きを促していると、イヴァン13世は口をつぐんだ。

「……………………」

「おい、早く続きを……」

「……お前が奢るというのなら、続きを話そう」

「なっ……」

 ここで焦らされると思っていなかったのか、男が絶句した。

「ここまで話しておいて、それはないだろ」

「フン、これも話術よ」

 悔しそうな顔を浮かべる男に、イヴァン13世は内心せせら笑った。

 いい気味だ。

 一国の国王相手に生意気な口を叩くからこうなるのだ。

 これに懲りたら、二度と舐めた口をきかないことだ。





 得意げな顔をしている老人に、ライゼルは内心苛立っていた。

 まったく、誰のために骨を折ってやってると思っているのだ。

 こちらは身の安全を確保してやったのだから、多少暇つぶしに付き合ってくれてもいいものを……

  さて、どうやり返したらいいものか……

ライゼルが思案していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ぼっちゃま。こちらにいらしたのですね」

「あっ、ライさ――陛下!?」

 カチュアと、なぜか驚いた様子のシェフィが店内に入ってくる。

 というか、いま陛下と言わなかったか。

「陛下、だって?」

 ライゼルたちの視線が老人に集まる。

「やれやれ、せっかく潜入したというのに、バラすやつがあるか」

 姿勢を正す老人。ただの市民の姿をしているというのに、どことなく気品がある。

 襟を正すと、老人はライゼルたちを一望した。

「いかにも、儂がモノマフの王、イヴァン13世である」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...