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第36話 挨拶
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物見の者からの報告により、バラギット軍を捕捉できた。
予想通り、開拓地に攻め込むべく進軍してきているらしい。
伏兵を張っている場所に誘導するべくライゼル率いる囮部隊がバラギット軍に立ちはだかると、バラギット軍が足を止めた。
「お待ちしてましたよ、叔父上」
ライゼルが慇懃無礼な態度で挨拶すると、兵の中からバラギットが姿を現した。
「…………」
「酷いじゃないですか。私はこんなにも叔父上のことを慕っていたのに、兵を挙げるなんて」
「よく言うぜ。……お前こそ、よく俺の前に顔を出せたもんだ」
「……?」
バラギットならともかく、こちらは特に悪いことはしていない。
何の話かわからないが、とりあえず含みを持たせてとぼけておく。
「さて、何のことだか……」
「とぼけやがって。暗殺未遂に騙し討ち……。好き放題やりやがって……」
忌々しげに吐き捨てるバラギットに、ライゼルが首を傾げた。
……本当に何の話だ?
暗殺未遂も騙し討ちも心当たりはない。
せいぜい、カビたジャムを食べさせたことや降伏申請をドタキャンしたくらいだが、どちらも謀反を起こされるほど酷い行ないとは思えない。
それとも、他に何かあっただろうか……
微かな記憶を頼りに思案するライゼルに、バラギットが不敵な笑みを浮かべた。
「正直、お前のこと見くびっていたよ。……謀《はかりごと》の「は」の字も知らない甘ちゃんだと思っていたが、いやはや腹の底には一癖も二癖も隠し持っていたってわけだ。……おかげでいい勉強になったよ。ありがとう」
礼の言葉を述べながらも目だけは笑っていないバラギット。
そんな中、ライゼルが隣に控えていたカチュアに小声で耳打ちする。
(カチュア、どうしよう。叔父上から褒められちゃったよ)
(大丈夫です。褒めてませんから)
真顔で答えるカチュア。
……どうやら、バラギットは皮肉を言っていたらしい。喜んで損した。
「いつまでもお前にやられてばっかりじゃあ、俺の気が収まらないからな。……今回はお前に倣うことにした」
バラギットが合図を出すと、兵たちが槍を構え臨戦状態に入る。
「ここには俺の全兵力、およそ5000を連れてきた。……お前はこっちの兵糧を減らして、ここに攻め寄せる兵の数を減らそうとしたのかもしれないが、そうはいかない。全兵力でもって、お前も開拓地も潰す…………って、待て。何をしている?」
「何って……飯を食べているだけですが?」
一触即発の最中、ライゼルがあらかじめ用意していた燻製肉を頬張る。
香ばしい香りと共に、肉の旨味が舌で踊る。
どうせ敵は少ない兵糧をどうにかやりくりして遠征しているのだ。
となれば、敵兵は普段の7割か6割か。いずれにせよ、満足な食事が摂れていないのは間違いない。
そんな敵の前で、これみよがしに美味そうに肉を食べて見せればどうだ。
案の定、敵兵の視線がライゼルと──ライゼルに呼応して燻製肉を食べる兵たちに釘付けになる。
「……………………」
兵士たちが唾液で喉を鳴らす中、バラギットはライゼルが食べている肉に見覚えが……というより、この香りには覚えがあった。
これは、たしか、遠征に先駆けてバラギットが用意させていた……
「お前、まさか……」
「叔父上のところから頂いたお肉、よく燻されてますよ。塩加減もバッチリだ」
「~~~~ッッ!!!!」
バラギットの額に青筋が浮かぶ。
「全軍、掛かれェ! ……食料を奪った痴れ者をブチ殺せ!!!!!」
予想通り、開拓地に攻め込むべく進軍してきているらしい。
伏兵を張っている場所に誘導するべくライゼル率いる囮部隊がバラギット軍に立ちはだかると、バラギット軍が足を止めた。
「お待ちしてましたよ、叔父上」
ライゼルが慇懃無礼な態度で挨拶すると、兵の中からバラギットが姿を現した。
「…………」
「酷いじゃないですか。私はこんなにも叔父上のことを慕っていたのに、兵を挙げるなんて」
「よく言うぜ。……お前こそ、よく俺の前に顔を出せたもんだ」
「……?」
バラギットならともかく、こちらは特に悪いことはしていない。
何の話かわからないが、とりあえず含みを持たせてとぼけておく。
「さて、何のことだか……」
「とぼけやがって。暗殺未遂に騙し討ち……。好き放題やりやがって……」
忌々しげに吐き捨てるバラギットに、ライゼルが首を傾げた。
……本当に何の話だ?
暗殺未遂も騙し討ちも心当たりはない。
せいぜい、カビたジャムを食べさせたことや降伏申請をドタキャンしたくらいだが、どちらも謀反を起こされるほど酷い行ないとは思えない。
それとも、他に何かあっただろうか……
微かな記憶を頼りに思案するライゼルに、バラギットが不敵な笑みを浮かべた。
「正直、お前のこと見くびっていたよ。……謀《はかりごと》の「は」の字も知らない甘ちゃんだと思っていたが、いやはや腹の底には一癖も二癖も隠し持っていたってわけだ。……おかげでいい勉強になったよ。ありがとう」
礼の言葉を述べながらも目だけは笑っていないバラギット。
そんな中、ライゼルが隣に控えていたカチュアに小声で耳打ちする。
(カチュア、どうしよう。叔父上から褒められちゃったよ)
(大丈夫です。褒めてませんから)
真顔で答えるカチュア。
……どうやら、バラギットは皮肉を言っていたらしい。喜んで損した。
「いつまでもお前にやられてばっかりじゃあ、俺の気が収まらないからな。……今回はお前に倣うことにした」
バラギットが合図を出すと、兵たちが槍を構え臨戦状態に入る。
「ここには俺の全兵力、およそ5000を連れてきた。……お前はこっちの兵糧を減らして、ここに攻め寄せる兵の数を減らそうとしたのかもしれないが、そうはいかない。全兵力でもって、お前も開拓地も潰す…………って、待て。何をしている?」
「何って……飯を食べているだけですが?」
一触即発の最中、ライゼルがあらかじめ用意していた燻製肉を頬張る。
香ばしい香りと共に、肉の旨味が舌で踊る。
どうせ敵は少ない兵糧をどうにかやりくりして遠征しているのだ。
となれば、敵兵は普段の7割か6割か。いずれにせよ、満足な食事が摂れていないのは間違いない。
そんな敵の前で、これみよがしに美味そうに肉を食べて見せればどうだ。
案の定、敵兵の視線がライゼルと──ライゼルに呼応して燻製肉を食べる兵たちに釘付けになる。
「……………………」
兵士たちが唾液で喉を鳴らす中、バラギットはライゼルが食べている肉に見覚えが……というより、この香りには覚えがあった。
これは、たしか、遠征に先駆けてバラギットが用意させていた……
「お前、まさか……」
「叔父上のところから頂いたお肉、よく燻されてますよ。塩加減もバッチリだ」
「~~~~ッッ!!!!」
バラギットの額に青筋が浮かぶ。
「全軍、掛かれェ! ……食料を奪った痴れ者をブチ殺せ!!!!!」
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