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第34話 準備

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 来たる決戦に向け、ライゼルは開拓地で徴兵を進めていた。

 開拓当初からライゼルに付き従っていた獣人の他、元盗賊や市民など、戦える者はすべて徴兵したライゼル軍はおよそ300にまで膨れ上がっていた。

 グランバルトに奇襲を仕掛けた際の人数が100人程度だったことを考えれば3倍近い人数に膨れ上がっているが、それでもまだ10倍以上の戦力差に見舞われている。

 将の質では勝っている以上、あとはどう兵力差を埋めるか。

 そこにこの戦いのすべてが掛かっていると言っても過言ではない。

 ライゼルが現れると、訓練を続ける兵たちの視線がライゼルに集まった。

「いいか! 先の戦いで、こちらは敵の兵を大いに削った。おそらく、敵兵は多くても2000ってところだろう」

「あっ、ライさ……ライゼル様、違いますよ! そんなに倒せてないので、だいたい5000……むぐっ……」

 ライゼルの情報を訂正しようとしたシェフィを、カチュアとオーフェンが止める。

「シェフィ。これもライゼル様の作戦なのです。……本当の数を教えてしまえば、味方の兵を委縮させてしまいます。こちらはただでさえ兵数に劣るのです。絶望的な数・・・・・ではなく頑張れば勝てる数・・・・・・・・に見せた方が、士気が上がるのです」

「カチュアの言う通りだ。これもすべて策のうち。……ここはライゼル様に委ねよう」

 カチュアとオーフェンに取り押さえられたシェフィがコクコクと頷くと、再びライゼルの演説に意識を移す。

「……対して、こちらは500・・・。この戦いに勝利するためには、一人当たり4人は倒さないといけない計算だ」

「違いますよ、ライゼル様。こちらはだいたい300……むぐぐっ……」

 余計なことを口走りそうになっているシェフィを、カチュアが取り押さえる。

「……そこで、諸君には秘密兵器を用意した」

 ライゼルが合図を出すと、大量の剣や槍が運ばれてきた。

「当家に代々伝わる名剣、名槍を揃えおいた。……この中から、一人二本受け取るといい」

 ライゼルの言葉を聞くや否や、兵たちが群がっていく。

「まさか……ここにあるやつ全部使っていいんですかい!?」

「一人二本までな」

「やべぇ……こんなにたくさんくれるなんて……。俺には選べねェよ……!」

「一人二本までな」

「俺たちに家宝までくれるなんて……太っ腹すぎんだろ……」

「一人二本までだけどな」

 選んだ剣を手にとり頬ずりする者。その場で試し振りをする者。新たな相棒を手に、満足気な者。

 兵たちにやる気がみなぎる中、ライゼルは一人内心ほくそ笑んでいた。

 当然、家宝はほとんど売り払ってしまったため、ここにあるのは商人からまとめ買いした安物ばかりだ。

 しかし、これも気分の問題。自分の使っている武器が名剣だと思えば、戦いにも力が入るというものだろう。

 そして、武器を一人二本持たせたのにも意味がある。

「いいか、お前たち。武器の質では敵に勝ったが、依然数じゃこっちが不利だ。……そこで、とっておきの秘策を授けよう」

「秘策……」

「……ですかい?」

 期待の眼差しが向けられる中、ライゼルが両手にそれぞれ剣を構えてみせる。

「両手に剣で、二刀流。……これで攻撃力は2倍。2倍の強さで敵を倒せるわけだ」

 大真面目に両手で剣を構えるライゼルの姿に、兵たちから笑いが巻き起こった。

「いやいや、ライゼル様。からかっちゃいけませんぜ」

「そうそう。両手で剣を持ったくらいで、強くなれるわけないでしょ」

「いくら俺たちがバカだからって、さすがに騙されませんぜ」

「ウソだと思うならやってみろ」

 眼前にいた兵にライゼルの持っていた剣を握らせる。

 剣の重さを確かめるように受け取ると、軽くその場で一振り。

「……………………」

 天を仰ぎ、静かに瞳を伏せると、


「やべェ……俺、強くなりすぎちまったかもしれねェ……」


「まじかよ!?」

「そんなんで強くなれんのか!?」

 半信半疑の兵が、先ほど手に入れた自身の剣を両手に構える。

「……なるほど。こんな気分なのかぁ……圧倒的な強さを手に入れるのって」

「案外大したことないんだな。……“武の頂”から眺める景色ってのも」

 両手に剣を構えた兵たちが、次々と強さの果てに至っていく。

 真実はどうあれ、自分で強いと思ったのなら、それだけで最強の兵士の出来上がりだ。

「今のお前たちは、これまでとは2倍の強さを手に入れた。……すなわち、こちらの軍は1000の兵も同然! 一人あたり2人倒せば、戦いに勝てるって寸法だ」

「うおおおおお!!!!」

 ライゼルのどんぶり勘定に兵士たちが湧き立つ。

 もちろん、実際の兵数差は5000対300。一人あたり17人倒さなくては勝てない計算なのだが、この時の兵たちはそんなことなど知る由もないのだった。
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