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第22話 真・紹介された冒険者と謎の人物
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バラギットが一目散に帰ったと聞いて、ライゼルは密かに肩を落としていた。
「そうか……叔父上が……」
お気に入りのジャムを振舞いたかっただけとはいえ、バラギットには悪いことをしてしまった。
次に会った時には、今回の埋め合わせをしなくては。
「お前たちにも悪いことをしたな。せっかく今日のために御前試合の準備をさせていたというのに……」
「気にしないでくだせぇ。ライゼル様の前でカッコいいところを見せられなかったのは残念ですけど、次頑張りますんで!」
謝罪するライゼルにフォローを入れてくれる。
そう言ってもらえるとこちらも気分が軽くなる。
配下たちを見回し、ふとアニエスがいないことに気が付いた。
「……そういえば、アニエスの姿が見えないな。お前たち、知らないか?」
ライゼルに尋ねられ、フレイたち獣人たちが首を傾げる。
「……そういや、姿が見えませんね」
「さっきまで居たと思ったんだけどなぁ……」
獣人たちが首を傾げる。
バラギットの応対をしていたせいか、今日は彼女の顔をろくに見ていない気がする。
普段であれば報告なりで何かしら顔を合わせる機会はあるのだが、今日に限ってなぜか姿が見えない。
「ところで、ずっと気になってたんすけど、あのアニエスって剣士、何者なんすか?」
「知り合いの冒険者に紹介されて、こっちに来たんだ。なんでも、凄腕の冒険者らしい」
「いや……あの人、全然自分のことを語りたがらないんで、なーんか謎なんすよねぇ……」
「そうそう。基本付き合い悪いし……」
「もしかして、ウソなんじゃないっすかね。冒険者って肩書。……本当はお尋ね者だったりして……」
適当な憶測を述べる獣人に、ライゼルが笑った。
「まさか。あのアニエスに限って、それはないだろ」
あんなに生真面目で実直な人間が罪に問われているなど、考えられない。
「きっとシャイなんだよ。まあ、気長に待つとするさ。……あいつが自分のことを話したいと思う時が来るまで」
◇
その夜。紹介状を手に、冒険者がライゼルの構える開拓地に足を踏み入れた。
「ここがバルタザール領かぁ……」
思えば、ここまで長い道のりだった。
知り合いに仕事を紹介してもらったのはいいのだが、王都をさ迷い、近隣の貴族の領地をさ迷い、危うく別の国にまで行ってしまうところだった。
しかし、それも今日まで。
バルタザール領についたからには、もう道に迷う心配はない。
町の入り口で見張りをしている兵士を見つけると、冒険者が尋ねた。
「すんません、ここにいるライゼル様に用があって来たんですけど」
「誰だ、お前は」
ライゼルの名前が飛び出し、兵士たちが警戒色を強くする。
騒ぎを聞きつけて、近くを通りかかったオーフェンがやってきた。
「どうかしたのか」
「オーフェン様!」
オーフェンの顔を見るや否や、兵士が頭を下げる。
「この者が、ライゼル様に用があると……」
「なに?」
「あ、どーも。自分、知り合いの冒険者に紹介されて来た、アナザってもんです。こっちでいい仕事にありつけるって聞いてきたんすけど……」
「おかしいな。件の冒険者なら、すでにこちらへ来ているぞ。……何かの手違いではないか?」
「ええっ! そんなはずはないっすよ! ほら!」
懐に手を伸ばすと、目の前に紙を広げた。
見ると、たしかにライゼルへの紹介状だ。
「では、あのアニエスという女剣士は、いったい……」
「アニエス?」
聞き覚えのある名前に、冒険者が反応する。
「それって、島流しにされたとかいう、帝国騎士団の元副団長のアニエス・シルヴァリアじゃないっすか?」
「そうか……叔父上が……」
お気に入りのジャムを振舞いたかっただけとはいえ、バラギットには悪いことをしてしまった。
次に会った時には、今回の埋め合わせをしなくては。
「お前たちにも悪いことをしたな。せっかく今日のために御前試合の準備をさせていたというのに……」
「気にしないでくだせぇ。ライゼル様の前でカッコいいところを見せられなかったのは残念ですけど、次頑張りますんで!」
謝罪するライゼルにフォローを入れてくれる。
そう言ってもらえるとこちらも気分が軽くなる。
配下たちを見回し、ふとアニエスがいないことに気が付いた。
「……そういえば、アニエスの姿が見えないな。お前たち、知らないか?」
ライゼルに尋ねられ、フレイたち獣人たちが首を傾げる。
「……そういや、姿が見えませんね」
「さっきまで居たと思ったんだけどなぁ……」
獣人たちが首を傾げる。
バラギットの応対をしていたせいか、今日は彼女の顔をろくに見ていない気がする。
普段であれば報告なりで何かしら顔を合わせる機会はあるのだが、今日に限ってなぜか姿が見えない。
「ところで、ずっと気になってたんすけど、あのアニエスって剣士、何者なんすか?」
「知り合いの冒険者に紹介されて、こっちに来たんだ。なんでも、凄腕の冒険者らしい」
「いや……あの人、全然自分のことを語りたがらないんで、なーんか謎なんすよねぇ……」
「そうそう。基本付き合い悪いし……」
「もしかして、ウソなんじゃないっすかね。冒険者って肩書。……本当はお尋ね者だったりして……」
適当な憶測を述べる獣人に、ライゼルが笑った。
「まさか。あのアニエスに限って、それはないだろ」
あんなに生真面目で実直な人間が罪に問われているなど、考えられない。
「きっとシャイなんだよ。まあ、気長に待つとするさ。……あいつが自分のことを話したいと思う時が来るまで」
◇
その夜。紹介状を手に、冒険者がライゼルの構える開拓地に足を踏み入れた。
「ここがバルタザール領かぁ……」
思えば、ここまで長い道のりだった。
知り合いに仕事を紹介してもらったのはいいのだが、王都をさ迷い、近隣の貴族の領地をさ迷い、危うく別の国にまで行ってしまうところだった。
しかし、それも今日まで。
バルタザール領についたからには、もう道に迷う心配はない。
町の入り口で見張りをしている兵士を見つけると、冒険者が尋ねた。
「すんません、ここにいるライゼル様に用があって来たんですけど」
「誰だ、お前は」
ライゼルの名前が飛び出し、兵士たちが警戒色を強くする。
騒ぎを聞きつけて、近くを通りかかったオーフェンがやってきた。
「どうかしたのか」
「オーフェン様!」
オーフェンの顔を見るや否や、兵士が頭を下げる。
「この者が、ライゼル様に用があると……」
「なに?」
「あ、どーも。自分、知り合いの冒険者に紹介されて来た、アナザってもんです。こっちでいい仕事にありつけるって聞いてきたんすけど……」
「おかしいな。件の冒険者なら、すでにこちらへ来ているぞ。……何かの手違いではないか?」
「ええっ! そんなはずはないっすよ! ほら!」
懐に手を伸ばすと、目の前に紙を広げた。
見ると、たしかにライゼルへの紹介状だ。
「では、あのアニエスという女剣士は、いったい……」
「アニエス?」
聞き覚えのある名前に、冒険者が反応する。
「それって、島流しにされたとかいう、帝国騎士団の元副団長のアニエス・シルヴァリアじゃないっすか?」
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