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第16話 紹介された冒険者
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紹介された冒険者が来るまでの間はフレイたち獣人を開拓地の守備に命じ、ライゼルは執務を行なっていた。
未だ領内には多くの盗賊が蔓延っているとはいえ、つい先日盗賊団を一つ壊滅させたのだ。
他の盗賊たちもしばらくは大人しくなることだろう。
「ライゼル様、またしても輸送隊が盗賊に襲われました」
「またか!」
オーフェンの報告にライゼルは頭を抱えた。
(ついこの間倒したばかりだぞ!? それなのに、もう新手が出るのかよ!)
領主として、バルタザール領の治安の悪さは責任を感じるところではあるが、それにしても襲撃が多すぎる。
「……………………」
こうなれば、フレイたち獣人を出撃させて盗賊の討伐に当たらせよう。
灌漑工事の作業効率は落ちるが、交易路が使えなくなれば開拓そのものに支障が出てしまう。
こうなった以上、多少の遅延は必要経費として割り切る他ないだろう。
ライゼルが今後の方策を定めると、今度はカチュアが勢いよくやってきた。
「ライゼル様!」
「今度はどうした」
「町の入り口に、血まみれの者が……」
「なんだと!?」
◇
「ライゼル様、あれです」
カチュアが示す先。町の入り口に立っていたのは、血まみれの人間だった。
腰に剣を下げていることから、どうやら冒険者らしい。
曲線の多い身体のラインからして女性のように見える。
「なあ、あんた。ずいぶんケガが酷いようだが、大丈夫か? すぐに手当てをさせるぞ」
「? いえ、私はどこも傷を負っていませんが」
「じゃあ、いったい……」
「大将!」
首を傾げるライゼルの元に、哨戒から戻ってきたフレイが駆け寄ってきた。
「町はずれに、盗賊の死体が山のようにありましたぜ!」
「なんだと!?」
驚くライゼルたちの会話に、血まみれの女剣士が口を挟んだ。
「先ほど襲撃を受けたので、返り討ちにしました。……ですが、不覚にも返り血を……」
「なるほど……」
そういうことであれば、血まみれになっていたのも頷ける。
納得するライゼルに、カチュアが耳打ちをした。
「ライゼル様、もしや……」
「ああ」
知り合いの冒険者に腕利きの冒険者の紹介を頼んだ矢先に現れた凄腕の剣士……
間違いない。
おそらく、彼女こそが紹介されたという冒険者なのだろう。
そうと決まれば、こちらの出方も変わってくる。
ライゼルは咳払いをすると、女剣士の隣に立った。
「いやぁ、よく来てくれたね。……ところで、何か渡すものがあるのではないかな?」
「渡すもの……? あっ」
女剣士が懐に手を伸ばすと、血で濡れた紙が出てきた。
「ああっ……なんてこと……」
「大丈夫だ。そんなものがなくても、ちゃんとわかっている」
気落ちする女剣士にライゼルがフォローを入れる。
紹介状がなくとも、これほどの腕前であれば件の冒険者であることに疑いの余地はない。
「名前は?」
「アニエスです」
「よし。よろしくな、アニエス。……それと、ようこそ、バルタザール領へ」
◇
一方そのころ、知り合いの冒険者の紹介を受けて、バルタザール領を目指す冒険者がいた。
「うーん、バルタザール領はどっちだ?」
地図を片手に、頭を傾げる。
「というか、ここはどこだ……?」
己の現在地もわからないまま、男は明後日の方向にさまようのだった。
未だ領内には多くの盗賊が蔓延っているとはいえ、つい先日盗賊団を一つ壊滅させたのだ。
他の盗賊たちもしばらくは大人しくなることだろう。
「ライゼル様、またしても輸送隊が盗賊に襲われました」
「またか!」
オーフェンの報告にライゼルは頭を抱えた。
(ついこの間倒したばかりだぞ!? それなのに、もう新手が出るのかよ!)
領主として、バルタザール領の治安の悪さは責任を感じるところではあるが、それにしても襲撃が多すぎる。
「……………………」
こうなれば、フレイたち獣人を出撃させて盗賊の討伐に当たらせよう。
灌漑工事の作業効率は落ちるが、交易路が使えなくなれば開拓そのものに支障が出てしまう。
こうなった以上、多少の遅延は必要経費として割り切る他ないだろう。
ライゼルが今後の方策を定めると、今度はカチュアが勢いよくやってきた。
「ライゼル様!」
「今度はどうした」
「町の入り口に、血まみれの者が……」
「なんだと!?」
◇
「ライゼル様、あれです」
カチュアが示す先。町の入り口に立っていたのは、血まみれの人間だった。
腰に剣を下げていることから、どうやら冒険者らしい。
曲線の多い身体のラインからして女性のように見える。
「なあ、あんた。ずいぶんケガが酷いようだが、大丈夫か? すぐに手当てをさせるぞ」
「? いえ、私はどこも傷を負っていませんが」
「じゃあ、いったい……」
「大将!」
首を傾げるライゼルの元に、哨戒から戻ってきたフレイが駆け寄ってきた。
「町はずれに、盗賊の死体が山のようにありましたぜ!」
「なんだと!?」
驚くライゼルたちの会話に、血まみれの女剣士が口を挟んだ。
「先ほど襲撃を受けたので、返り討ちにしました。……ですが、不覚にも返り血を……」
「なるほど……」
そういうことであれば、血まみれになっていたのも頷ける。
納得するライゼルに、カチュアが耳打ちをした。
「ライゼル様、もしや……」
「ああ」
知り合いの冒険者に腕利きの冒険者の紹介を頼んだ矢先に現れた凄腕の剣士……
間違いない。
おそらく、彼女こそが紹介されたという冒険者なのだろう。
そうと決まれば、こちらの出方も変わってくる。
ライゼルは咳払いをすると、女剣士の隣に立った。
「いやぁ、よく来てくれたね。……ところで、何か渡すものがあるのではないかな?」
「渡すもの……? あっ」
女剣士が懐に手を伸ばすと、血で濡れた紙が出てきた。
「ああっ……なんてこと……」
「大丈夫だ。そんなものがなくても、ちゃんとわかっている」
気落ちする女剣士にライゼルがフォローを入れる。
紹介状がなくとも、これほどの腕前であれば件の冒険者であることに疑いの余地はない。
「名前は?」
「アニエスです」
「よし。よろしくな、アニエス。……それと、ようこそ、バルタザール領へ」
◇
一方そのころ、知り合いの冒険者の紹介を受けて、バルタザール領を目指す冒険者がいた。
「うーん、バルタザール領はどっちだ?」
地図を片手に、頭を傾げる。
「というか、ここはどこだ……?」
己の現在地もわからないまま、男は明後日の方向にさまようのだった。
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