小物クズ領主の勘違い英雄譚 ~極悪非道な悪徳貴族……に勘違いされた小物貴族の成り上がり~

田島はる

文字の大きさ
上 下
16 / 51

第16話 紹介された冒険者

しおりを挟む
 紹介された冒険者が来るまでの間はフレイたち獣人を開拓地の守備に命じ、ライゼルは執務を行なっていた。

 未だ領内には多くの盗賊が蔓延っているとはいえ、つい先日盗賊団を一つ壊滅させたのだ。

 他の盗賊たちもしばらくは大人しくなることだろう。

「ライゼル様、またしても輸送隊が盗賊に襲われました」

「またか!」

 オーフェンの報告にライゼルは頭を抱えた。

 (ついこの間倒したばかりだぞ!? それなのに、もう新手が出るのかよ!)

 領主として、バルタザール領の治安の悪さは責任を感じるところではあるが、それにしても襲撃が多すぎる。

「……………………」

 こうなれば、フレイたち獣人を出撃させて盗賊の討伐に当たらせよう。

 灌漑工事の作業効率は落ちるが、交易路が使えなくなれば開拓そのものに支障が出てしまう。

 こうなった以上、多少の遅延は必要経費として割り切る他ないだろう。

 ライゼルが今後の方策を定めると、今度はカチュアが勢いよくやってきた。

「ライゼル様!」

「今度はどうした」

「町の入り口に、血まみれの者が……」

「なんだと!?」





「ライゼル様、あれです」

 カチュアが示す先。町の入り口に立っていたのは、血まみれの人間だった。

 腰に剣を下げていることから、どうやら冒険者らしい。

 曲線の多い身体のラインからして女性のように見える。

「なあ、あんた。ずいぶんケガが酷いようだが、大丈夫か? すぐに手当てをさせるぞ」

「? いえ、私はどこも傷を負っていませんが」

「じゃあ、いったい……」

「大将!」

首を傾げるライゼルの元に、哨戒から戻ってきたフレイが駆け寄ってきた。

「町はずれに、盗賊の死体が山のようにありましたぜ!」

「なんだと!?」

 驚くライゼルたちの会話に、血まみれの女剣士が口を挟んだ。

「先ほど襲撃を受けたので、返り討ちにしました。……ですが、不覚にも返り血を……」

「なるほど……」

 そういうことであれば、血まみれになっていたのも頷ける。

 納得するライゼルに、カチュアが耳打ちをした。

「ライゼル様、もしや……」

「ああ」

 知り合いの冒険者に腕利きの冒険者の紹介を頼んだ矢先に現れた凄腕の剣士……

 間違いない。

 おそらく、彼女こそが紹介されたという冒険者なのだろう。

 そうと決まれば、こちらの出方も変わってくる。

 ライゼルは咳払いをすると、女剣士の隣に立った。

「いやぁ、よく来てくれたね。……ところで、何か渡すもの紹介状があるのではないかな?」

「渡すもの……? あっ」

 女剣士が懐に手を伸ばすと、血で濡れた紙が出てきた。

「ああっ……なんてこと……」

「大丈夫だ。そんなものがなくても、ちゃんとわかっている」

 気落ちする女剣士にライゼルがフォローを入れる。

 紹介状がなくとも、これほどの腕前であれば件の冒険者であることに疑いの余地はない。

「名前は?」

「アニエスです」

「よし。よろしくな、アニエス。……それと、ようこそ、バルタザール領へ」





 一方そのころ、知り合いの冒険者の紹介を受けて、バルタザール領を目指す冒険者がいた。

「うーん、バルタザール領はどっちだ?」

 地図を片手に、頭を傾げる。

「というか、ここはどこだ……?」

 己の現在地もわからないまま、男は明後日の方向にさまようのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...