小物クズ領主の勘違い英雄譚 ~極悪非道な悪徳貴族……に勘違いされた小物貴族の成り上がり~

田島はる

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第11話 極悪非道の噂

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 シェフィが役人となってから、数日が経過した。

 モノマフ王立騎士学校に通っていただけあり、頭の回転も速く、教養もある。突如現れた即戦力の人材に、家臣たちからの評判も上々だ。

 おかげで、そんな彼女を発掘したライゼルの評価もまた上昇している。

 優秀な人材を獲得し、さらには自身の評判も上々。まさに一石二鳥である。

 そんな中、上機嫌で町を歩いてると、見覚えのある人影を見つけた。

(あれは……)

 シェフィだ。

 どうやら何かを探しているらしく、辺りをキョロキョロと見回している。

「よう」

「あっ、あの時の……」

こちらが挨拶をすると、シェフィがペコリと頭を下げる。

「仕事には慣れたか?」

「はい! おかげさまで、ライゼル様の元で役人になることができました! あなたには本当にお世話になりっぱなしで……一度お礼が言いたかったんですよ! 本当にありがとうございます!」

 シェフィの言い方がどうも引っかかる。

 と、そこであることに気がついた。

 そういえば、まだ自分がライゼルだと名乗っていなかった。

 雇う際は書類選考で通した上、下っ端のシェフィとライゼルとでは、用がなければ直接話すこともない。

 そう考えれば、自分こそがライゼルなのだと知らないのも無理はない。

(……言っちゃおうかな。ちやほやされたいし……)

 ライゼルがごほんと咳ばらいをする。

「そうそう、名乗り遅れたが……」

「そういえば、聞きました? ライゼル様の評判……」

「評判?」

「はい。なんでも、放蕩三昧で豪奢な生活をするために民に重税を課しているとか」

「それは……」

 ライゼルが前世の記憶を思い出す前の話だ。

 一応今は税率も軽くし、不要な物は売り払って資金繰りをした。

 とはいえ、耳の痛い話に違いないが。

「ほかにも、資金不足を解消するため、商人を脅してお金を出させているとか……!」

「いや……いやいやいや。そんなことはないだろ」

これに関しては本当に心当たりがない。

ポンドンとは友人となり円満に資金を融資してもらったし、他の商人に対しても似たような扱いをしている。

 多少こちらに有利な内容を提示したものの、それは向こうも承知の上での契約で、第一こちらの将来性を買ってくれているものだと思っていた。

「いったい、誰がそんなことを……」





バルタザール家の本拠地、グランバルトの一角に構えた支店で、とある噂を流すべくポンドンは部下を差配していた。

「よろしかったのですか? あのような噂を流して……」

「かまわん。これくらいしなくては、私の虫が収まらんしな」

 一度ならず二度までもライゼルの脅しに屈し、不利な契約を飲まされてしまった。

 ライゼルの評判を貶めるべく、悪評を流していた。

「それに、当商会の評判に関わることだ」

「評判、ですか……?」

「あのような不利な契約……。ワケあって吞まざるを得なかったのだとしておかなくては、同業者にナメられるからな……」

 一度あのような不利な契約を許してしまえば、つけあがった連中が同じような条件を出さないとも限らない。

 そこで、ポンドンは一計を案じた。

 “交渉の結果不利な契約を結んでしまった”ではなく、“脅された結果不利な契約を結ばざるを得なかった”としたのだ。

 そうすれば、自分は不利な契約を結んだ愚か者ではなく、脅されて契約を結ばされた被害者になれる。

 それでも同業者からは幾分か軽んじられるかもしれないが、同情も買うことができ、結果的には傷が浅くすむと考えたのだ。

「しかし、大丈夫なのでしょうか。もし、このことがライゼル様の耳に入れば……」

「心配するな。ライゼルは遠く開拓地に出張っている。……よほどこちらに密な情報網でも持っていない限り、やつの耳に入るのはずっと先だろう」





 言葉に窮するライゼルに、シェフィが鼻息を荒くする。

「ライゼル・アシュテント・バルタザール……。領民の生活を省みない悪徳領主と聞いていましたが、ここまで極悪非道とは……」

「……………………」

「そういえば、まだあなたのお名前を聞いていませんでしたね。何という方なんですか?」

 先ほどまでの悪評を聞かされ、いったいどんな顔で名乗れというのか。

 考えた末、ライゼルは声を絞り出した。

「俺は……ライ」

「そうでしたか! あらためてお礼を言わせてください。本当にありがとうございます、ライさん!」

笑顔で手を振りその場を後にするシェフィに、ライゼルは乾いた笑みを浮かべることしかできないのだった。
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