6 / 51
第6話 都市計画
しおりを挟む
獣人たちを掌握し、灌漑の整備を進める傍ら、ライゼルは街作りも進めていた。
「オーフェン、街の方はどうだ」
「はっ、日干しレンガも増産しておりますので、すぐにでも住宅が建ち並ぶことでしょう」
大河があるとはいえ、砂漠に街を作ろうというのだ。
当然、木造住宅が作れるはずもなく、レンガを焼けるだけの薪も存在しないため、日干しレンガを用いた家が多く見られている。
現代日本に比べたら安全基準も耐震強度も低いが、自然災害の少ないこの地ではこれくらいでちょうどいい。
「そうなると、次は水かな……」
人口が増えれば、それを賄うだけの飲水が必要となる。
日本のように水資源に恵まれた土地ならいざ知らず、ここは砂漠。
使える水が限られている以上、飲水にも限度がある。
川の水は雑菌が多く、飲水には適さないため地下水がメインとなることだろう。
しかし、ここには大河が流れている。
降雨による水が少なくとも、川を流れて地表に染み込んだ水があるため、大河の周辺であれば地下水が見込めると考えたのだ。
「ご心配なく。井戸を増設しましたゆえ、このペースであれば人口の増加にも耐えられるかと」
「仕事が早いな。流石だ、オーフェン」
「ライゼル様に任せられたのです。ご期待に応えなくては」
オーフェンの能力の高さには感心させられる。
所詮、俺はただの若者で、前世もしがないサラリーマン。こうした都市計画には、経験豊富な人材が必要だ。
その点、オーフェンであれば問題ない。
祖父の代からバルタザール家を支え続け、父と俺、二代に及ぶ放蕩三昧でも領地が破綻しなかったのは、ひとえにオーフェンの尽力が大きかっただろう。
政務において当家で一番の経験と実績を積んでいるオーフェンに丸投げすれば、たいていのことは何とかしてくれるに違いない。
「これからも頼りにしているぞ」
「もったいなきお言葉です」
オーフェンが恭しく頭を下げる。
「それで、食料の方だが…」
「開墾が進んでおりますゆえ、秋になれば収穫が見込めるかと……しかし、それまでの食糧を確保するとなると……」
「むう……」
町を開発していくにあたり、本拠地から多くの住民を移住させた。
それに伴い、備蓄していた食料を放出しているが、秋までは持ちそうにない。
通常でも一週間はかかる距離を、大規模な輸送隊を築き、継続的に人や馬を行き来させようというのだ。
それには馬や物資の管理といった輸送隊の運用に加え、道中の安全の確保、物資の調達まで務めなければならない。
莫大なコストを払って陸上輸送に頼るくらいなら、いっそ――
「港を造るか……」
「港、にございますか」
「大河から水運で輸送すれば、人も馬もそれほど必要ない。……かかる労力は大幅に抑えられる」
ライゼルの策に、オーフェンが思わず唸った。
「なるほど……妙案にございますな。ですが、お言葉ながら当家には港の建設を差配できる人材も、工事に使える人員も。……何より、それらを集めるだけの資金も不足しております。それほどの大工事、いったいいくらかかることか……」
「心配するな」
かつてのバルタザール家であれば、資金繰りに苦慮していただろう。
しかし、今の自分には頼れる友人がいる。
「ロンダ―商会のポンドンを呼べ。……港を造るから融資してほしいってな」
◇
「……ライゼルが、私に?」
港を造るにあたって融資を提案され、ポンドンは警戒感を強めていた。
前回は脅されるがままに要求を呑んでしまい、結果としてバルタザール家へ貸与した資金にかかる利息が大幅に減ってしまった。
おかげでロンダ―商会の利益が減ってしまい、経営計画の大幅な変更を余儀なくされたしまった。
今回も脅すつもりなら、今度はこちらにも考えがある。
「見てろよ、ライゼル。今度ばかりは前のようにはいかないぞ……!」
◇
ポンドンを待っている間、ライゼルはフレイに食料の買い付けを任せていた。
この開拓地が完成した後は彼らにある程度任せようと思っていただけに、計算力や交渉力の実力を見ておきたかったのだ。
「食料を自由に買い付けていいとのことでしたので、豚を買いやした」
「へぇ……それはいい買い物を…………待て。豚を買った? 豚肉の干し肉とかじゃなくて、豚を買ったのか? 一頭丸々?」
「へぇ、こんな機会でもなきゃ、一頭丸々なんて買えねぇもんで。奮発しちゃいました♡」
(なにが奮発しちゃいました、だ! 元はと言えば俺の金だぞ!)
とはいえ、彼らに反乱を起こされては、力で劣るこちらは不利に立たされるだろう。
立場は上とはいえあまり厳しいことは言えない。
「……………………金を使うときは計画的にな」
「心得ておりやす!」
(絶対わかってない……)
このどんぶり勘定を見るに、彼らに統治を任せるのは難しそうだ。
そうなるとオーフェンに任せるのがベターだが、オーフェンは当家に必要な人材だ。あまりこちらにかかりきりにさせてはもったいない。
他の文官たちも本拠地をはじめ領地の運営にあたっている以上、こちらに人員を割くのは厳しそうだ。
そうなると、自ずと選択肢は絞られてくる。
「……雇うか。新しく人を」
「オーフェン、街の方はどうだ」
「はっ、日干しレンガも増産しておりますので、すぐにでも住宅が建ち並ぶことでしょう」
大河があるとはいえ、砂漠に街を作ろうというのだ。
当然、木造住宅が作れるはずもなく、レンガを焼けるだけの薪も存在しないため、日干しレンガを用いた家が多く見られている。
現代日本に比べたら安全基準も耐震強度も低いが、自然災害の少ないこの地ではこれくらいでちょうどいい。
「そうなると、次は水かな……」
人口が増えれば、それを賄うだけの飲水が必要となる。
日本のように水資源に恵まれた土地ならいざ知らず、ここは砂漠。
使える水が限られている以上、飲水にも限度がある。
川の水は雑菌が多く、飲水には適さないため地下水がメインとなることだろう。
しかし、ここには大河が流れている。
降雨による水が少なくとも、川を流れて地表に染み込んだ水があるため、大河の周辺であれば地下水が見込めると考えたのだ。
「ご心配なく。井戸を増設しましたゆえ、このペースであれば人口の増加にも耐えられるかと」
「仕事が早いな。流石だ、オーフェン」
「ライゼル様に任せられたのです。ご期待に応えなくては」
オーフェンの能力の高さには感心させられる。
所詮、俺はただの若者で、前世もしがないサラリーマン。こうした都市計画には、経験豊富な人材が必要だ。
その点、オーフェンであれば問題ない。
祖父の代からバルタザール家を支え続け、父と俺、二代に及ぶ放蕩三昧でも領地が破綻しなかったのは、ひとえにオーフェンの尽力が大きかっただろう。
政務において当家で一番の経験と実績を積んでいるオーフェンに丸投げすれば、たいていのことは何とかしてくれるに違いない。
「これからも頼りにしているぞ」
「もったいなきお言葉です」
オーフェンが恭しく頭を下げる。
「それで、食料の方だが…」
「開墾が進んでおりますゆえ、秋になれば収穫が見込めるかと……しかし、それまでの食糧を確保するとなると……」
「むう……」
町を開発していくにあたり、本拠地から多くの住民を移住させた。
それに伴い、備蓄していた食料を放出しているが、秋までは持ちそうにない。
通常でも一週間はかかる距離を、大規模な輸送隊を築き、継続的に人や馬を行き来させようというのだ。
それには馬や物資の管理といった輸送隊の運用に加え、道中の安全の確保、物資の調達まで務めなければならない。
莫大なコストを払って陸上輸送に頼るくらいなら、いっそ――
「港を造るか……」
「港、にございますか」
「大河から水運で輸送すれば、人も馬もそれほど必要ない。……かかる労力は大幅に抑えられる」
ライゼルの策に、オーフェンが思わず唸った。
「なるほど……妙案にございますな。ですが、お言葉ながら当家には港の建設を差配できる人材も、工事に使える人員も。……何より、それらを集めるだけの資金も不足しております。それほどの大工事、いったいいくらかかることか……」
「心配するな」
かつてのバルタザール家であれば、資金繰りに苦慮していただろう。
しかし、今の自分には頼れる友人がいる。
「ロンダ―商会のポンドンを呼べ。……港を造るから融資してほしいってな」
◇
「……ライゼルが、私に?」
港を造るにあたって融資を提案され、ポンドンは警戒感を強めていた。
前回は脅されるがままに要求を呑んでしまい、結果としてバルタザール家へ貸与した資金にかかる利息が大幅に減ってしまった。
おかげでロンダ―商会の利益が減ってしまい、経営計画の大幅な変更を余儀なくされたしまった。
今回も脅すつもりなら、今度はこちらにも考えがある。
「見てろよ、ライゼル。今度ばかりは前のようにはいかないぞ……!」
◇
ポンドンを待っている間、ライゼルはフレイに食料の買い付けを任せていた。
この開拓地が完成した後は彼らにある程度任せようと思っていただけに、計算力や交渉力の実力を見ておきたかったのだ。
「食料を自由に買い付けていいとのことでしたので、豚を買いやした」
「へぇ……それはいい買い物を…………待て。豚を買った? 豚肉の干し肉とかじゃなくて、豚を買ったのか? 一頭丸々?」
「へぇ、こんな機会でもなきゃ、一頭丸々なんて買えねぇもんで。奮発しちゃいました♡」
(なにが奮発しちゃいました、だ! 元はと言えば俺の金だぞ!)
とはいえ、彼らに反乱を起こされては、力で劣るこちらは不利に立たされるだろう。
立場は上とはいえあまり厳しいことは言えない。
「……………………金を使うときは計画的にな」
「心得ておりやす!」
(絶対わかってない……)
このどんぶり勘定を見るに、彼らに統治を任せるのは難しそうだ。
そうなるとオーフェンに任せるのがベターだが、オーフェンは当家に必要な人材だ。あまりこちらにかかりきりにさせてはもったいない。
他の文官たちも本拠地をはじめ領地の運営にあたっている以上、こちらに人員を割くのは厳しそうだ。
そうなると、自ずと選択肢は絞られてくる。
「……雇うか。新しく人を」
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる