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第1話 ライゼル・アシュテント・バルタザール
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「……ま! ぼっちゃま!」
目を開けると、メイド服を着た女性が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「ああ、よかった……階段から落ちて目が覚めないと聞いた時には、どうしたらよいか……」
「……落ちた? 階段から?」
言われてみれば、頭が痛い。
……というか、どこだ。ここは。
見覚ええのある部屋に、見覚えのあるメイドの女性。
……待て。なんだ、見覚えがあるって。
全部知らな……いや、知っている。この部屋も、彼女の記憶も頭に入っている。
現状を認識するのと同時に、前世の記憶と今の記憶が一つになっていく。
前世ではしがないサラリーマンだったが、今は帝国一の領地を持つ貴族──バルタザール家の若き当主、ライゼル・アシュテント・バルタザールに転生した。
金も、人も、領内にあるものはすべて俺の自由に使うことがてきる。
そう、今の自分は変わったのだ。
搾取される側から、搾取する側に。
帝国の西方に位置するバルタザール家は、帝国最大の領地を持つ貴族として知られていた。
その領地の広さから、国境を守護する辺境伯の地位を与えられ、帝国でもそれなりのポジションを確立している。
一方で、領地のほとんどは砂漠に覆われており、わずかな耕作地と岩塩の採掘が収入源の弱小貴族にすぎず、中央の貴族に比べれば田舎の弱小貴族の枠を出ない存在だ。
とはいえ、そこは辺境伯。
周辺の貴族からもそれなりに気を使われるようで、快気祝いにと様々な贈り物が届けられた。
「ぼっちゃま、サウザン家から快気祝いにとワインを頂きました」
「うむ。よきにはからえ」
メイドのカチュアに贈り物を並べさせ、悦に浸る。
これぞ特権階級。
皆が顔色を伺い、媚び売る。
それだけで、自分が上の立場なのだと思えてくる。
一人ニヤニヤしていると、カチュアが手紙を差し出した。
「ぼっちゃま、これを……」
「なんだこれは」
カチュアから手紙を受け取るライゼル。
中身は読んでないが、だいたい予想はついている。
大方、金のない貴族やら豪族からの見舞いの手紙だろう。
金の代わりに適当なことを並べて義理を果たす。そんな魂胆で手紙を寄越したのだろうが、そんなものに価値はない。
ライゼルが欲しいのは金やら財宝だ。
金にならないご機嫌伺いの、どこに意味がある。
「捨て置け」
「よろしいのですか?」
「かまわんさ。どうせ適当な見舞い状だろ。読んだところで、一銭にもならな──」
「いえ、督促状です」
「……は?」
「ロンダー商会から、利息の支払いを迫る旨が書かれております」
「なに!?」
そういえば、借金をしていたような気がする。
バルタザール家は父の代から放蕩三昧を続けており、息子である俺の代でも湯水のように金を使って贅沢三昧な生活をしていた。
帝国一の領地を持つ貴族だけに多少の贅沢は許されるかと思っていたが、冷静に考えてみればとんでもない額の浪費をしていた。
だが、そこは腐っても貴族。
領内から搾り取れば、いくらでも税収のアテはある。
「月末には税がとれる。それまで待たせておけ」
「ですが、これ以上利息の支払いが遅れるようなら、もう貸せないと……」
「……なに?」
おいおい、そんなに支払いが滞っているのか?
というか、支払いに困るほど利息がかかっているのか?
……嫌な予感がする。
不意にライゼルの背中を冷や汗が伝った。
「…………いったいいくらあるんだ。うちの借金は」
「帝国金貨でおよそ150万枚分。……当家の税収の、およそ30年分です」
「なっ、なんだって!?!?!?」
こうして、ライゼルは搾取する側から搾取される側へと叩き落とされるのだった。
目を開けると、メイド服を着た女性が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「ああ、よかった……階段から落ちて目が覚めないと聞いた時には、どうしたらよいか……」
「……落ちた? 階段から?」
言われてみれば、頭が痛い。
……というか、どこだ。ここは。
見覚ええのある部屋に、見覚えのあるメイドの女性。
……待て。なんだ、見覚えがあるって。
全部知らな……いや、知っている。この部屋も、彼女の記憶も頭に入っている。
現状を認識するのと同時に、前世の記憶と今の記憶が一つになっていく。
前世ではしがないサラリーマンだったが、今は帝国一の領地を持つ貴族──バルタザール家の若き当主、ライゼル・アシュテント・バルタザールに転生した。
金も、人も、領内にあるものはすべて俺の自由に使うことがてきる。
そう、今の自分は変わったのだ。
搾取される側から、搾取する側に。
帝国の西方に位置するバルタザール家は、帝国最大の領地を持つ貴族として知られていた。
その領地の広さから、国境を守護する辺境伯の地位を与えられ、帝国でもそれなりのポジションを確立している。
一方で、領地のほとんどは砂漠に覆われており、わずかな耕作地と岩塩の採掘が収入源の弱小貴族にすぎず、中央の貴族に比べれば田舎の弱小貴族の枠を出ない存在だ。
とはいえ、そこは辺境伯。
周辺の貴族からもそれなりに気を使われるようで、快気祝いにと様々な贈り物が届けられた。
「ぼっちゃま、サウザン家から快気祝いにとワインを頂きました」
「うむ。よきにはからえ」
メイドのカチュアに贈り物を並べさせ、悦に浸る。
これぞ特権階級。
皆が顔色を伺い、媚び売る。
それだけで、自分が上の立場なのだと思えてくる。
一人ニヤニヤしていると、カチュアが手紙を差し出した。
「ぼっちゃま、これを……」
「なんだこれは」
カチュアから手紙を受け取るライゼル。
中身は読んでないが、だいたい予想はついている。
大方、金のない貴族やら豪族からの見舞いの手紙だろう。
金の代わりに適当なことを並べて義理を果たす。そんな魂胆で手紙を寄越したのだろうが、そんなものに価値はない。
ライゼルが欲しいのは金やら財宝だ。
金にならないご機嫌伺いの、どこに意味がある。
「捨て置け」
「よろしいのですか?」
「かまわんさ。どうせ適当な見舞い状だろ。読んだところで、一銭にもならな──」
「いえ、督促状です」
「……は?」
「ロンダー商会から、利息の支払いを迫る旨が書かれております」
「なに!?」
そういえば、借金をしていたような気がする。
バルタザール家は父の代から放蕩三昧を続けており、息子である俺の代でも湯水のように金を使って贅沢三昧な生活をしていた。
帝国一の領地を持つ貴族だけに多少の贅沢は許されるかと思っていたが、冷静に考えてみればとんでもない額の浪費をしていた。
だが、そこは腐っても貴族。
領内から搾り取れば、いくらでも税収のアテはある。
「月末には税がとれる。それまで待たせておけ」
「ですが、これ以上利息の支払いが遅れるようなら、もう貸せないと……」
「……なに?」
おいおい、そんなに支払いが滞っているのか?
というか、支払いに困るほど利息がかかっているのか?
……嫌な予感がする。
不意にライゼルの背中を冷や汗が伝った。
「…………いったいいくらあるんだ。うちの借金は」
「帝国金貨でおよそ150万枚分。……当家の税収の、およそ30年分です」
「なっ、なんだって!?!?!?」
こうして、ライゼルは搾取する側から搾取される側へと叩き落とされるのだった。
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