上 下
39 / 45

第38話 奇襲

しおりを挟む
 アトランティスが静かに動き出すと、海賊たちがざわめき立った。

「おお、アトランティスが動いた!」

「へへっ、この戦い、勝ったな!」

 アトランティス始動に沸き立つ海賊たちに、砲門が向けられる。

「待て、様子がおかしいぞ」

 次の瞬間、海賊船が一撃でシールドを貫かれた。

 大きくひしゃげた船体が味方の群れに突っ込んでいく。

 アトランティスの砲撃は、どういうわけか本来味方であるはずの海賊船を撃ち抜いていた。

「おいおい……なんで俺達に攻撃するんだよぉ!」





 脱出するエクリやライとは別に、俺はアトランティスに残っていた。

「エクリの言ったとおりだな。宇宙船を一人で動かすのは、たしかに骨が折れる」

『いや、宇宙空母クラスは一人じゃ動かさないでしょ、普通』

 通信越しにツッコミを入れるエクリ。

『この空間には人体に有害なガスが充満しています。すみやかに退去してください』

「わかってるさ、そんなことは」

 シシーの忠告をスルーして操縦桿を握りしめる。

 元より、スキル【解毒】を持っていなければ、こんな危険なことをするつもりはない。

「だが、リスクを払ったからには、それに見合ったリターンがある」

 既に船内の海賊は軒並み無力化が完了している。

 事実上船の制圧は完了しており、毒ガスさえ気にしなければ戦力として運用することができる以上、使わない手はない。

 そして、もっとも大きいのが──




 本拠地であるアトランティスから砲撃を受け、海賊たちに動揺が広がっていた。

「おいおい、なんでアトランティスが俺たちを攻撃するんだよ……」

「まさか、敵に乗っ取られたのか!?」

「いや、留守番してたやつらが寝返ったのかも……」

「チクショウ……なんでボスは何も教えてくれないんだよ……」

「燃料や弾薬は、どこで補充すればいいんだよ……」





 本拠地を落とされた精神的動揺は大きい。

 おまけに、この船は最初から敵の通信網に入っているため、敵の作戦や指揮がすべてこちらに筒抜けとなっている。

 絶え間なく海賊船の砲撃をしていると、シシーからの忠告が続く。

『ですが、長期間の滞在はカイルの人体に深刻な影響を及ぼすおそれがあります』

「あと、どれくらいもつ?」

『60分ほどかと』

「オーケー、それだけあれば十分だ」

 画面の向こうでは、混乱した海賊たちが敗走や仲間割れをしている。

 本拠地を奪われた上、正面を宇宙要塞に。後方を宇宙空母が陣取っている。

 継戦能力を失い、帰る場所を失った軍など、烏合の衆に過ぎない。

「……リスクを払った甲斐があった。デカすぎるだろ、リターンが」

 完全に戦意喪失した海賊たちをよそに、海賊団のボスであるデストラーデに狙いをつける。

 あとはメインディッシュにデストラーデを狩るだけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スペースウォーズアドベンチャー

SF
「スペースシティはもう宇宙の町ではない‼宇宙都市国家である」これはスペースシティ・F号の初の市長になったM内田の言葉である。スペースシティに住む多くの人々が、自分達の努力が地球で認められ、誰もが地球の国連でスペースシティの国家独立を信じていた。しかし、その期待はある事件によって崩壊した。

【完結済み】VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。<長編>

BBやっこ
SF
会社に、VRゲーム休があってゲームをしていた私。 自身の店でエンチャント付き魔道具の売れ行きもなかなか好調で。なかなか充実しているゲームライフ。 招待イベで魔術士として、冒険者の仕事を受けていた。『ミッションは王族を守れ』 同僚も招待され、大規模なイベントとなっていた。ランダムで配置された場所で敵を倒すお仕事だったのだが? 電脳神、カプセル。精神を異世界へ送るって映画の話ですか?!

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~

ロクマルJ
SF
百万年の時を越え 地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時 人類の文明は衰退し 地上は、魔法と古代文明が入り混じる ファンタジー世界へと変容していた。 新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い 再び人類の守り手として歩き出す。 そして世界の真実が解き明かされる時 人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める... ※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが  もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います  週1話のペースを目標に更新して参ります  よろしくお願いします ▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼ イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です! 表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました 後にまた完成版をアップ致します!

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

ドール

奈落
SF
TSFの短い話です 目覚めると、その部屋の中は様々なアンティークドールに埋め尽くされていた。 身動きの取れない俺の前に、男が運んできた鏡に映された俺の姿は…

処理中です...