34 / 45
第33話 面会
しおりを挟む
今月分の利息の取り立てまで、あと4日。
残された時間が多くないだけに、エクリもライもどこか焦りを見せていた。
「ねえ、いつ頃デストラーデと戦うつもり? アンタのことだから、いろいろ仕込んでいるんでしょ?」
「…………作業の合間に、やつらの船にハッキングしてる」
「やった! じゃあ、あとは時間の問題ね」
エクリが小さくガッツポーズをする。
ハッキングでいちいち驚かなくなったあたり、コイツも順応したものだ。
「……まあ、仕込んだ分は無駄になりそうなんだがな」
「えっ!?」
俺が指差す先。機関場のドックに相当する部分では、連日傷ついた船の作業をしていた。
「【白い牙】との戦闘で船が傷ついたみたいでな……。船の検査やら修理でいろんなやつらが手を加えている」
「それじゃあ……」
検査や修理をするのなら、当然他の機関士も触ることになる。
そのため、せっかくハッキングしてもすべて直されてしまう可能性があった。
この隙に一気にハッキングの手を広げることもできるが、そうするにはあまりにも人手が足りなすぎる。
時間をかけて多くの船にハッキングを施していたが、これですべてが無に帰してしまった。
「ふりだしに戻ったな」
俺の説明を聞いて、エクリが苛立った様子で吐き捨てた。
「もうっ……アイツらに文句の一つでも言ったやりたいわね」
「なら、言ってくるか?」
「えっ!?」
「捕まったらしいぞ。【白い牙】のやつらが。……団長も含めてな」
仕事が終わると、俺、エクリ、ライは捕虜を収容する牢が並ぶ区画にやってきた。
「……いきなり捕虜と面会できるなんて、どんな手を使ったわけ?」
「知り合いって言ったら通してくれたぞ」
「ウソでしょ!?」
目を丸くするエクリに、ライが呆れ半分に訂正した。
「……賄賂だよ。ったく、俺の酒を勝手に配りやがって……」
「ヤブ医者め。どこの世界に消毒用アルコールを酒と呼ぶやつがいる」
そして、さらに言えばライの私物ではない。正しくは船内の備品だ。
ライの懐は痛くないはずなのだが、医務室にある備品はすべて自分のものとしてカウントしているらしい。
この辺りの抜け目なさは、さすが詐欺師だと思わないでもない。
「ついたぞ」
牢の前にやってくると、そこにはたしかに目当ての人物が収監されていた。
「いいご身分だな。団長」
「なっ……お前は……!」
「覚えていたか、俺のことを」
「な、なんでここに……」
俺の顔を見て団長が愕然とする。
「どっかの誰かに注文ドタキャンされたおかげで経営が傾いたんでな。転職したのさ」
俺の嫌味に顔をしかめる団長。
さすがに堪えたのか、団長はその場に頭を下げた。
「なあ、頼む! ここから助けてくれ」
目を丸くするエクリとライだったが、すぐに団長を見る目は厳しいものに変わった。
「……自分の都合で契約を無視しておきながら、ピンチになったら助けて欲しいなんて、ムシがよすぎるでしょ」
「エクリの言うとおりだ。まったく……誰のおかげでここまで苦労させられてると思ってる」
「な、なあ、頼むよ……! ここから助けてくれるなら、なんでもする。キャンセル料だって払うし、なんなら上乗せして払うから……」
「アンタねぇ……」
「まだ金で解決しようとしてるのか、コイツ……」
呆れる二人を前に、団長の懇願は続く。
「頼む! 俺にできることならなんでもする! だから……」
わかってないといった様子でエクリが深いため息をついた。
「あのねぇ……そんなんでカイルが納得するわけ……」
「いいぞ」
「いいの!?」
「っそだろ、お前……」
「助かった! 恩に着る!」
地獄に仏といった様子で頭を下げる団長を尻目に、エクリが詰め寄る。
「いや、誠心誠意謝ってほしかったとかじゃないの!?」
「誠意(金)を見せてくれれば、俺は何も言わない」
「一度は約束破られたんだろ!? いいのかよ、また信用して……」
「詐欺師がそれを言うか?」
とはいえ、ライの言うことももっともである。
団長が契約を踏み倒し、キャンセル料を渋ったのがことの始まりだ。
その団長を信用するには、イマイチ材料が足りないのも事実であった。
「……だが、どの道デストラーデを倒さんことには約束もクソもないだろ」
デストラーデを倒して賞金を得ないことには利息の返済が追いつかず、団長の身柄もデストラーデの手に落ちたままだ。
「……なら、どの道やることは変わらない。俺らはただ、デストラーデを倒せばいい」
「しかしなぁ……」
納得がいかない様子で、ライがつぶやく。
「それに、お前と違ってこっちは正真正銘のAランク冒険者だ。なんかの役には立つだろ。たぶん」
「たぶんって……」
「軽すぎんだろ、ノリ……」
デストラーデを倒せば、莫大な懸賞金とアーティファクトが手に入り、おまけに【白い牙】の団長がなんでもしてくれるという。
「これだけ戦利品も増えたんだ。……そろそろ頃合いかもな」
「じゃあ、いよいよなのね……」
決意を固めたエクリと、渋々覚悟を決めたライ。
「デストラーデ海賊団、攻略スタートだ」
残された時間が多くないだけに、エクリもライもどこか焦りを見せていた。
「ねえ、いつ頃デストラーデと戦うつもり? アンタのことだから、いろいろ仕込んでいるんでしょ?」
「…………作業の合間に、やつらの船にハッキングしてる」
「やった! じゃあ、あとは時間の問題ね」
エクリが小さくガッツポーズをする。
ハッキングでいちいち驚かなくなったあたり、コイツも順応したものだ。
「……まあ、仕込んだ分は無駄になりそうなんだがな」
「えっ!?」
俺が指差す先。機関場のドックに相当する部分では、連日傷ついた船の作業をしていた。
「【白い牙】との戦闘で船が傷ついたみたいでな……。船の検査やら修理でいろんなやつらが手を加えている」
「それじゃあ……」
検査や修理をするのなら、当然他の機関士も触ることになる。
そのため、せっかくハッキングしてもすべて直されてしまう可能性があった。
この隙に一気にハッキングの手を広げることもできるが、そうするにはあまりにも人手が足りなすぎる。
時間をかけて多くの船にハッキングを施していたが、これですべてが無に帰してしまった。
「ふりだしに戻ったな」
俺の説明を聞いて、エクリが苛立った様子で吐き捨てた。
「もうっ……アイツらに文句の一つでも言ったやりたいわね」
「なら、言ってくるか?」
「えっ!?」
「捕まったらしいぞ。【白い牙】のやつらが。……団長も含めてな」
仕事が終わると、俺、エクリ、ライは捕虜を収容する牢が並ぶ区画にやってきた。
「……いきなり捕虜と面会できるなんて、どんな手を使ったわけ?」
「知り合いって言ったら通してくれたぞ」
「ウソでしょ!?」
目を丸くするエクリに、ライが呆れ半分に訂正した。
「……賄賂だよ。ったく、俺の酒を勝手に配りやがって……」
「ヤブ医者め。どこの世界に消毒用アルコールを酒と呼ぶやつがいる」
そして、さらに言えばライの私物ではない。正しくは船内の備品だ。
ライの懐は痛くないはずなのだが、医務室にある備品はすべて自分のものとしてカウントしているらしい。
この辺りの抜け目なさは、さすが詐欺師だと思わないでもない。
「ついたぞ」
牢の前にやってくると、そこにはたしかに目当ての人物が収監されていた。
「いいご身分だな。団長」
「なっ……お前は……!」
「覚えていたか、俺のことを」
「な、なんでここに……」
俺の顔を見て団長が愕然とする。
「どっかの誰かに注文ドタキャンされたおかげで経営が傾いたんでな。転職したのさ」
俺の嫌味に顔をしかめる団長。
さすがに堪えたのか、団長はその場に頭を下げた。
「なあ、頼む! ここから助けてくれ」
目を丸くするエクリとライだったが、すぐに団長を見る目は厳しいものに変わった。
「……自分の都合で契約を無視しておきながら、ピンチになったら助けて欲しいなんて、ムシがよすぎるでしょ」
「エクリの言うとおりだ。まったく……誰のおかげでここまで苦労させられてると思ってる」
「な、なあ、頼むよ……! ここから助けてくれるなら、なんでもする。キャンセル料だって払うし、なんなら上乗せして払うから……」
「アンタねぇ……」
「まだ金で解決しようとしてるのか、コイツ……」
呆れる二人を前に、団長の懇願は続く。
「頼む! 俺にできることならなんでもする! だから……」
わかってないといった様子でエクリが深いため息をついた。
「あのねぇ……そんなんでカイルが納得するわけ……」
「いいぞ」
「いいの!?」
「っそだろ、お前……」
「助かった! 恩に着る!」
地獄に仏といった様子で頭を下げる団長を尻目に、エクリが詰め寄る。
「いや、誠心誠意謝ってほしかったとかじゃないの!?」
「誠意(金)を見せてくれれば、俺は何も言わない」
「一度は約束破られたんだろ!? いいのかよ、また信用して……」
「詐欺師がそれを言うか?」
とはいえ、ライの言うことももっともである。
団長が契約を踏み倒し、キャンセル料を渋ったのがことの始まりだ。
その団長を信用するには、イマイチ材料が足りないのも事実であった。
「……だが、どの道デストラーデを倒さんことには約束もクソもないだろ」
デストラーデを倒して賞金を得ないことには利息の返済が追いつかず、団長の身柄もデストラーデの手に落ちたままだ。
「……なら、どの道やることは変わらない。俺らはただ、デストラーデを倒せばいい」
「しかしなぁ……」
納得がいかない様子で、ライがつぶやく。
「それに、お前と違ってこっちは正真正銘のAランク冒険者だ。なんかの役には立つだろ。たぶん」
「たぶんって……」
「軽すぎんだろ、ノリ……」
デストラーデを倒せば、莫大な懸賞金とアーティファクトが手に入り、おまけに【白い牙】の団長がなんでもしてくれるという。
「これだけ戦利品も増えたんだ。……そろそろ頃合いかもな」
「じゃあ、いよいよなのね……」
決意を固めたエクリと、渋々覚悟を決めたライ。
「デストラーデ海賊団、攻略スタートだ」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
CREATED WORLD
猫手水晶
SF
惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。
惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。
宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。
「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。
そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。
俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~
草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★
男性向けHOTランキングトップ10入り感謝!
王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。
だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。
周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。
そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。
しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。
そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。
しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。
あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。
自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。
【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる