30 / 45
第29話 潜入
しおりを挟む
数日前。
改めて打倒デストラーデ海賊団の意思を告げると、案の定エクリが難色を示した。
「デストラーデを倒すのはわかったけど、どうやって倒す気? 戦力だって負けてるし、第一アイツらがどこにいるのかさえ掴めてないのよ?」
デストラーデが高額の賞金首になったのには、わけがあった。
通常、海賊は規模が大きくなるにつれ、行動が目立つようになり、討伐されるリスクが高くなっていく。
しかし、デストラーデ海賊団はそうはならなかった。
クランに匹敵する戦力を保持していながら、それとは相反して巧妙に逃げ隠れを続けている。
組織力と隠密性の両立。それがデストラーデが高額賞金首とされる所以であった。
「シシー」
『こちらはデストラーデ海賊団が行なったと思われる略奪、及び襲撃の一覧です。
これらの襲撃ポイントをマップに表示します』
映し出された星間マップ上に、赤い点が並んでいく。
そのいずれもが、中心地からほど遠いところに位置していた。
「これって……」
「……つまり、ヤツらを捕まえるには、警備隊や帝国軍の目が届かないような辺鄙な場所を航行する船で、なおかつ美味しい獲物がある船を張ってればいいってワケだ」
「……それはわかったけど、どうやって倒す気? こっちはあたしの船とアンタの船が2隻に、イカロス100隻とロクに武装がない宇宙要塞が一つ。いくらドローンとハッキングがあっても、これじゃ勝負にならないわよ」
「誰が宇宙船で戦うと言った?」
「えっ!?」
「艦戦で勝ち目がないなら、別の方法で倒せばいい」
元海賊の部下たちの証言によれば、海賊に捕まった一般人の末路は大きく三つある。
奴隷として売られるか。
身代金と引き換えに取引されるか。
能力や人柄を見込まれてスカウトされるか。
「機械弄りは得意分野だからな。機関士って言っとけば、向こうも勧誘したくなるだろ」
嫌な予感がしたのか、エクリの顔が青ざめていく。
「…………待って。まさか、それって……」
「今からデストラーデ海賊団に捕まりに行くぞ」
ダゴダ号の乗客たちは海賊の船に乗せられると、その多くが船内の檻に繋がれた。
もっとも、俺を含む海賊にスカウトされた者はある程度の自由が効いていたのだが。
不安な表情を見せる乗客たちを尻目に、エクリがこっそりと耳打ちした。
「潜入したのはいいけど、どうやって倒す気? ここまでやったからには、何か作戦があるのよね?」
「これから考える」
「ちょっ……!?」
「ついたぞ」
船から降ろされると、小型艇に乗り換える。
しばらくすると、広大な宇宙にポツリと浮かぶ巨大な船が見えてきた。
「あれは……空母か」
「そ、そんなものまで持ってるの……!?」
「帝国軍でも手を焼くってのも、あながちウソじゃねぇのかもな……」
俺、エクリライが三者三様の反応を見せる中、モヒカンの海賊が宇宙に浮かぶ空母を指差した。
「あれがオレたちの本拠地、宇宙空母アトランティス。今からお前らが働く場所だ。
言っとくが、ボスにブチ殺されたくなきゃ、妙な気を起こすんじゃねーぞ」
俺たちに釘を刺すモヒカン海賊に、ライが虚勢混じりの笑みを浮かべた。
「へへ、そんなにヤバいのかよ、デストラーデってのは……」
「あれを見ろ」
アトランティスの内部。捕虜や人質を収容するものと思しき牢屋の一室に、半裸の男が鎖に繋がれていた。
拷問を受けたのか、身体には生々しい傷が目立っている。
「自分に歯向かうやつには容赦しないからな、ボスは。ああなりたくなきゃ、お前らも気をつけることだな」
俺とエクリが機関室に連れられると、サル顔の男とゴリラ顔の男が出迎えた。
「オメェらが新入りか」
「へへへ、活きが良さそなのが入ってきたじゃねーの」
「ひぃぃぃぃ」
突然声をかけられ、驚いた様子で俺の後ろに隠れるエクリ。
エクリを置いて、俺は新たな職場の住民に挨拶をした。
「俺はカイン。こっちがエクル。これから世話になる」
「おう、肩揉めや、新入り」
「へへ、酒持ってこいや、新入り」
言いなりになるのは面倒だし、断るのも後々面倒そうだ。
さてどうしたものかと思案していると、機関場の奥から壮年の男が現れた。
「新入りをイビってんじゃねーぞ、サル、ゴリ」
「お、親方!」
「違うんです! これは……」
サルとゴリが慌てて俺から離れる。
「あんたがここの機関場を取り仕切っているのか。よろしく、親方」
「……………………」
親方と呼ばれた男は俺とエクリを一別すると、すぐに仕事に戻って行った。
……どうやらこの機関場には、面倒なやつしかいないらしい。
立ち尽くす俺とエクリに、ゴリが手招きした。
「新入り、テメェの仕事はこっちだ」
「待て。まだデストラ……ボスに挨拶をしていないんだが……」
「お前みたいな下っ端が、いちいちボスが会えるわけないだろ」
「それもそうか……」
倒す前に一度顔を拝んでみたかったが、サルの言うことももっともだ。
デストラーデに会うのはあとにして、俺は作業に戻るのだった。
改めて打倒デストラーデ海賊団の意思を告げると、案の定エクリが難色を示した。
「デストラーデを倒すのはわかったけど、どうやって倒す気? 戦力だって負けてるし、第一アイツらがどこにいるのかさえ掴めてないのよ?」
デストラーデが高額の賞金首になったのには、わけがあった。
通常、海賊は規模が大きくなるにつれ、行動が目立つようになり、討伐されるリスクが高くなっていく。
しかし、デストラーデ海賊団はそうはならなかった。
クランに匹敵する戦力を保持していながら、それとは相反して巧妙に逃げ隠れを続けている。
組織力と隠密性の両立。それがデストラーデが高額賞金首とされる所以であった。
「シシー」
『こちらはデストラーデ海賊団が行なったと思われる略奪、及び襲撃の一覧です。
これらの襲撃ポイントをマップに表示します』
映し出された星間マップ上に、赤い点が並んでいく。
そのいずれもが、中心地からほど遠いところに位置していた。
「これって……」
「……つまり、ヤツらを捕まえるには、警備隊や帝国軍の目が届かないような辺鄙な場所を航行する船で、なおかつ美味しい獲物がある船を張ってればいいってワケだ」
「……それはわかったけど、どうやって倒す気? こっちはあたしの船とアンタの船が2隻に、イカロス100隻とロクに武装がない宇宙要塞が一つ。いくらドローンとハッキングがあっても、これじゃ勝負にならないわよ」
「誰が宇宙船で戦うと言った?」
「えっ!?」
「艦戦で勝ち目がないなら、別の方法で倒せばいい」
元海賊の部下たちの証言によれば、海賊に捕まった一般人の末路は大きく三つある。
奴隷として売られるか。
身代金と引き換えに取引されるか。
能力や人柄を見込まれてスカウトされるか。
「機械弄りは得意分野だからな。機関士って言っとけば、向こうも勧誘したくなるだろ」
嫌な予感がしたのか、エクリの顔が青ざめていく。
「…………待って。まさか、それって……」
「今からデストラーデ海賊団に捕まりに行くぞ」
ダゴダ号の乗客たちは海賊の船に乗せられると、その多くが船内の檻に繋がれた。
もっとも、俺を含む海賊にスカウトされた者はある程度の自由が効いていたのだが。
不安な表情を見せる乗客たちを尻目に、エクリがこっそりと耳打ちした。
「潜入したのはいいけど、どうやって倒す気? ここまでやったからには、何か作戦があるのよね?」
「これから考える」
「ちょっ……!?」
「ついたぞ」
船から降ろされると、小型艇に乗り換える。
しばらくすると、広大な宇宙にポツリと浮かぶ巨大な船が見えてきた。
「あれは……空母か」
「そ、そんなものまで持ってるの……!?」
「帝国軍でも手を焼くってのも、あながちウソじゃねぇのかもな……」
俺、エクリライが三者三様の反応を見せる中、モヒカンの海賊が宇宙に浮かぶ空母を指差した。
「あれがオレたちの本拠地、宇宙空母アトランティス。今からお前らが働く場所だ。
言っとくが、ボスにブチ殺されたくなきゃ、妙な気を起こすんじゃねーぞ」
俺たちに釘を刺すモヒカン海賊に、ライが虚勢混じりの笑みを浮かべた。
「へへ、そんなにヤバいのかよ、デストラーデってのは……」
「あれを見ろ」
アトランティスの内部。捕虜や人質を収容するものと思しき牢屋の一室に、半裸の男が鎖に繋がれていた。
拷問を受けたのか、身体には生々しい傷が目立っている。
「自分に歯向かうやつには容赦しないからな、ボスは。ああなりたくなきゃ、お前らも気をつけることだな」
俺とエクリが機関室に連れられると、サル顔の男とゴリラ顔の男が出迎えた。
「オメェらが新入りか」
「へへへ、活きが良さそなのが入ってきたじゃねーの」
「ひぃぃぃぃ」
突然声をかけられ、驚いた様子で俺の後ろに隠れるエクリ。
エクリを置いて、俺は新たな職場の住民に挨拶をした。
「俺はカイン。こっちがエクル。これから世話になる」
「おう、肩揉めや、新入り」
「へへ、酒持ってこいや、新入り」
言いなりになるのは面倒だし、断るのも後々面倒そうだ。
さてどうしたものかと思案していると、機関場の奥から壮年の男が現れた。
「新入りをイビってんじゃねーぞ、サル、ゴリ」
「お、親方!」
「違うんです! これは……」
サルとゴリが慌てて俺から離れる。
「あんたがここの機関場を取り仕切っているのか。よろしく、親方」
「……………………」
親方と呼ばれた男は俺とエクリを一別すると、すぐに仕事に戻って行った。
……どうやらこの機関場には、面倒なやつしかいないらしい。
立ち尽くす俺とエクリに、ゴリが手招きした。
「新入り、テメェの仕事はこっちだ」
「待て。まだデストラ……ボスに挨拶をしていないんだが……」
「お前みたいな下っ端が、いちいちボスが会えるわけないだろ」
「それもそうか……」
倒す前に一度顔を拝んでみたかったが、サルの言うことももっともだ。
デストラーデに会うのはあとにして、俺は作業に戻るのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
青い星の管理人
孤太郎
SF
大宇宙にぽつんと浮かぶ青い星。
そこには80億人もの人間たちが住んでいる。
湾曲した星の表面には幾つもの国家が存在し、多種多様な文化圏があり、幾つもの言語があり、
肌や目の色が違う人種が各々の生活を営んでいた。
だが、そこは星などではなかった......。
球体上の世界ではなく、広大な平面世界の一画にある収容所と呼ばれる施設の中だった。
施設の外周は分厚い氷の壁で取り囲まれ、内側に住む人々は外の世界の存在を誰も知らない。
地図上にある陸地や海が世界の全てだと思い込まされていた。
壁の内側に住む人間たちは囚人と呼ばれていた。
収容所の外側にも世界があった。
そこにも多くの人間が住んでいた。
そこで生まれ育った好奇心旺盛なひとりの若い女性が旅に出る。
彼女は一般人には窺い知ることができない収容所の中を見てみたいという一心から収容所の管理人となる。
年に一度の内部監査で収容所の中に入ることができるからだ。
収容所内を分割統治しているのは外の世界から派遣された(看守)と呼ばれる工作員だった。
所内にいる六人の看守たちを訪ねる一風変わった出張旅行が始まる。
彼女は目を輝かせて入ってゆく、収容所の中へと......。
そこで目にするあらゆるものが彼女の心の奥深くまで浸潤し、次第に魂が変容していく。
初めて対面する見知らぬ自分......、
触発され浮き彫りになる自身の本質......、
所内で繰り返されるおぞましい洗脳......、
迷走する彼女の目に映る異世界は楽園なのか、それとも奈落なのか......。
囚人と呼ばれる人間たちは何者なのか......。
連載長篇小説 青い星の管理人
Solomon's Gate
坂森大我
SF
人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。
ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。
実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。
ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。
主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。
ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。
人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。
CREATED WORLD
猫手水晶
SF
惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。
惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。
宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。
「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。
そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる