上 下
29 / 45

第28話 搦め手

しおりを挟む
 冒険者ギルドにやってくると、エクリと共に掲示板を覗き込んだ。

 俺、エクリ、ライに加え、今回は一度に100隻もの船を運用できる。

 これはそこらのクランに引けを取らない規模で、大抵のクエストであれば容易にクリアできるだけの戦力だ。

 そのため、多少の危険を覚悟で報酬の高いクエストを探していた。

「ええと、こっちが10万で、こっちが12万……」

「小惑星の調査に、資源衛生の採掘……。どれもシケてるな……」

 掲示板に載せられたクエストの多くが、日給1万から10万ゼニー。これでは、期日までに利息の支払いをすることができない。

(あと3週間……。それまでに、金になるやつがあれば……)

 掲示板をくまなく観察していると、一枚の手配書を見つけた。

「これは……」

 デストラーデ海賊団の頭領、デストラーデ。懸賞金は5億ゼニー。

 この辺りでも類を見ない高額の賞金首だ。

 しばらく眺めていると、一緒に掲示板を見ていたエクリが顔をしかめた。

「そいつはこの辺りを騒がせている大物海賊ね。でもやめておいた方がいいわよ」

「なぜだ」

「海賊のくせにアホみたいに強いからよ。
 冒険者や警備隊を何度も返り討ちにしてるし、規模だってちょっとしたクラン並み。帝国軍だって手に余るようなヤツよ。
 とてもじゃないけど、今のあたしたちじゃ……」

 海賊狩りに目がないエクリがこうも消極的ということは、それほど危険な相手なのだろう。

 だが、それを抜きにしてもこの報酬はあまりにも魅力的だ。

 海賊の頭領が5億ゼニーに、配下の者も千万単位の賞金首がゴロゴロいる。

 クラン並みの規模ということは100単位の船と人があることを意味している。

 これらをすべて換金すれば、相当な金になるはずだ。

「……シシー、お前はどう思う」

『帝国データベースの情報を閲覧します。……デストラーデ海賊団は駆逐艦と巡洋艦を300隻程度保有しているとみられ、構成員はおよそ1000人はいるものと思われます。
 ……結論から言えば、現状カイルの持つ戦力での撃破は困難となるでしょう』

「そうか……」

 エクリに続きシシーまでそう言うのであれば、間違いないだろう。

『……ですが、私は信じています。カイルならば、どんな障壁も乗り越えられると』

「シシー……」

『カイルにはどんな困難も打ち破れる知恵と勇気があります。たとえ相手が大規模艦隊を持っていたとしても、カイルの敵ではないでしょう』

 普段は口数の少ないシシーが、彼女なりに勇気づけてくれているのか。

「……ありがとう、シシー……!」





 冒険者ギルドを出てアナザーヘブンに戻ると、通路を走る何者かにぶつかった。

「んがっ……」

 俺にぶつかった男はゴロゴロと通路を転がり、その場に倒れ込む。

「大丈夫か……って……なんだ、ペテン師か」

 俺の顔を見るなり、ライが舌打ちする。

「面倒なやつに見つかっちまったな……」

「……なに?」

「い、いや……じゃあ、オレは先を急ぐんでな」

 足早に去ろうとするライを、エクリが呼び止めた。

「ん? 何か落としたわよ?」

 カードのようなものを拾うと、エクリが目を見開いた。

「これ……帝国のIDカードじゃない。ダメでしょ、こんな大事なもの落としたら……」

「待て」

 そのまま返そうとするエクリを制し、カードを奪う。

「……名前が違うな。偽造IDか」

「なっ……!」

 改めてカードを眺め、エクリが目を丸くする。

 IDカードは帝国における公的な身分証明書で、冒険者ギルドを始め、多くの公共施設で使われるシロモノだ。

 当然、IDの偽造は犯罪であり、見つかれば一発で実刑判決を言い渡される。

 そんなキケンな物を用意し、急いでここをあとにしようとしていたのなら、答えは一つしかない。

「まさか……一人で逃げるつもりだったの!?」

 エクリが信じられないといった様子で声を荒らげた。

「仲間だと思ってたのに……なんて薄情なヤツなの……!」

「ファック……! だから見つかりたくなかったってのによ……」

 エクリに非難され、降参するように手を上げるライ。

 まだ怒りが収まらないのか、エクリが俺の袖を引っ張る。

「ほら、アンタも何か言ってやりなさいよ!」

「でかしたぞ、ペテン師」

「…………は?」

「えっ!?」

 状況が理解できていないのか、エクリとライの目が点になる。

 そんな二人を尻目に、偽造IDをライに見せつけた。

「こいつを今すぐ人数分作れ」

 俺の言葉に、エクリの瞳が不安げに揺れる。

「まさか、アンタも逃げる気……!?」

「誰が逃げると言った。さっき話をしたばかりだろ、デストラーデ海賊団を狩るって」

 ライの偽造IDを手の中でくるくると弄ぶ。

「だが、敵の戦力はこちらより上。正攻法で勝てるか厳しい相手だ。……それなら、搦め手から攻めるしかないだろ」

 俺の作戦を察したのか、エクリとライの顔が青ざめていく。

「おいおい、それって……」

「すっごくイヤな予感がするんだけど……」





 星間交易を行なう商船、ダゴダ号。

 商品と旅客を運ぶこの船は、現在、別星域に移動するべく、ワープゲートに向かっていた。

 順風満帆な航海をしていると思われたダゴダ号だったが、突如として海賊に襲撃された。

 護衛にあたっていた冒険者が応戦するも多勢に無勢。勝敗が決すると、冒険者はたちまち逃げだしてしまった。

 孤立無援となった船内に海賊たちが乗り込んでくると、乗客たちに銃を向けて勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「ギャハハハ、この船は今からオレたちのモンだ!」

「殺されたくなきゃ、おとなしく言うこと聞きな!」

 銃を向けられ、渋々金目のものを出す乗客たち。

 また、捕まえた人間は利用価値が高く、身代金目的の人質。人身売買など、海賊行為による収益の一端を担っている。

 そのため、捕まった乗客たちは海賊相手に簡単な自己紹介をさせられていた。

「おい、お前。名前は?」

「俺はカイン・・・。機関士をやっている」

 そう言って、俺は偽造の帝国IDカードを見せるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

CREATED WORLD

猫手水晶
SF
 惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。  惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。  宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。  「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。  そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。

ウイークエンダー・ラビット ~パーフェクト朱墨の山~

リューガ
SF
 佐竹 うさぎは中学2年生の女の子。  そして、巨大ロボット、ウイークエンダー・ラビットのパイロット。  地球に現れる怪獣の、その中でも強い捕食者、ハンターを狩るハンター・キラー。  今回は、えらい政治家に宇宙からの輸入兵器をプレゼンしたり、後輩のハンター・キラーを助けたり、パーフェクト朱墨の謎を探ったり。  優しさをつなぐ物語。  イメージ元はGma-GDWさんの、このイラストから。 https://www.pixiv.net/artworks/85213585

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

Galaxy Day's

SF
考えることができ、心を持ち、言語を解す 存在・知的生命体は長らく地球にしか いない と思われていた。しかしながら 我々があずかり知らぬだけで、どこかに 異星出身の知的生命体は存在する。 その中で!最も邪悪で、最も残忍で、最も 面白い(かどうかは極めて怪しい)一家がいた! その名も『コズモル家』。両親はおろか、子供達まで 破壊や殺戮に手を染めている、脅威の全員『悪』! 家族揃って宇宙をブラブラ渡り歩きながら、悪の組織 をやっていたり!自分達以上にどーしよーもない悪と 戦ったり、たま〜に悪らしからぬいいことをしたり! 宇宙を舞台とした、少し不思議なSFと家族愛、 そして悪vs悪の鬩ぎ合いを中心に、美少女あり、 イケメンあり、人妻あり、幼女あり、イケオジあり、 ギャグあり、カオスあり、恋愛あり、バトルあり、 怪獣あり、メカもあり、巨大ロボットまであり!? 今世紀史上なんでもありなダークヒーロー一家、 ここに誕生!窮屈なこの世の中を全力で破壊… してくれると信じていいのか!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...