21 / 45
第20話 工事と小惑星の調査
しおりを挟む
冒険者ギルドから資金を調達することに成功すると、宇宙要塞の着工が始まった。
必要となる資材の調達や発注をしながら、現場で海賊たちを指揮していく。
「まずは外側を塞いでいけ。中の気密が保てるようになったら、宇宙服なしで作業できるからな」
無重力で作業できるとはいえ、宇宙服を着たままではやはり動きにくい。
作業の傍ら、海賊たちが文句を垂れていた。
「くそっ……解体だけじゃなく、溶接までやらせるのかよ……」
「でもよぉ、ナノマシンが乗っ取られてるし、そもそもオレら海賊だから通報もできないし……」
「るせぇ! ここまでコケにされたんだ。文句の一つでも言ってやらねえと、俺の気が済まねぇ!」
海賊の一人が俺に忍び寄る。
「おい……」
「サンソンか、どうした」
「あっ、俺の名前……」
名前を憶えられているとは思っていなかったのか、サンソンが意外だといった顔をした。
「当然だろ。今まで一緒に作業して、寝食を共にしてきたんだ。……それで、どうした。何か言うことがあったんじゃないか?」
「いやぁ、その……」
要領を得ない様子でもじもじとするサンソン。
この様子では、大した話ではなかったのか。
それなら、先に俺の話からさせてもらおう。
「……ああ、そうだ。宇宙要塞が完成したら、お前らにも個室をやるよ」
「えっ……いいんすか?」
「その代わり、手ェ抜くなよ。溶接ミスって自分の部屋が真空になっても知らないからな」
「旦那……!」
俺からの話が済むと、サンソンは目を輝かせて作業に戻るのだった。
……結局アイツは何をしに来たのだろう。
海賊と入れ替わりにエクリがやっていくると、ちらりと海賊たちの方を一瞥した。
「大丈夫なの? アイツらにも部屋あげるなんて約束しちゃって……」
「間取りは把握してるし、設計図もこの通りだ。宇宙要塞そのものの収容上限は1000人くらいだから全然余裕だろ」
とはいえ、不安要素もなくはない。
工事をしている間はデブリの解体は一切できなくなるため、ドローンで自動回収したデブリはそのまま回収業者に引き渡している。
これだけで1日30万近い金を稼いでいるが、現状は出て行ってる金の方が多い。
建設の監督をライに任せ、現場を離れようとすると、エクリに呼びとめられた。
「ちょっと、どこ行くのよ?」
「小惑星調査のクエストに行ってくる」
「はぁ!?」
エクリが素っ頓狂な声を上げた。
「なに考えてるのよ! 今は宇宙要塞を工事してるのよ!? アンタ抜きでどうしろってのよ」
「俺だけじゃない。エクリ、お前も行くんだよ」
パーティーのクエスト共有画面を開いてエクリに見せた。
「1、2、3……30個!? そんなにクエスト受けたの!?」
「仕方がないだろ、受けたもんは」
脳裏に、先日の受付嬢との会話が蘇る。
――ここだけの話、利息を減らす裏ワザがあるんですよ。
――どうすればいいんだ?
――クエストをたくさん受けるんです。熱心にクエストを受けていれば、それだけで「返済の意思アリ」とみなされて、利息が減るんです。
――へぇ、いいことを聞いた。
――(まあ、受注したクエストを達成できなければ違約金が発生するんですけど)
「ということらしい」
俺の話に一応理解をしたのか、エクリが難しい顔をした。
「でも、30個なんて……。二人で分担しても、15個もあるのよ?」
「心配するな。そんなこともあろうかと、作業の合間にコイツを作った」
シーシュポスから取り出したそれを、エクリがまじまじと見つめる。
「これ……ドローン……?」
「新しく作った、スキャナータイプだ。高性能センサーを山ほど搭載しているから、小惑星の調査くらいならすぐに終わる」
エクリと共にクエストに出向くと、スキャナータイプのドローンで小惑星の表面や内部の調査を行なう。
ひととおり、小惑星の調査が終わると、エクリがうーんと画面の向こうで伸びをした。
『終わったー! あとはギルドに報告書を提出するだけね』
「穴埋め式のテンプレートを作っておいた。文体や文脈は考えなくても、空欄に穴埋めしていけば報告書が完成する」
『さっすがー! それじゃあ報告書を……って、あたしにばっか仕事させて、アンタは何やってるのよ』
「俺は俺でやることがあるんだ」
VRゴーグルを装着すると、向こうでの作業に戻る。
それを見て、エクリが呆れた様子でため息をついた。
『……どっからどう見てみても、VRで遊んでいるようにしか見えないんだけど』
「遊んでるわけじゃない。リモートワークだ」
一方、建設中の宇宙要塞ではライが現場で指揮をとっていた。
――ただし、ナノマシンを乗っ取られ、俺に遠隔操作された状態で。
「おら、無駄口叩いてる暇があったらキビキビ働け!」
ライの身体で檄を飛ばす傍らで、海賊たちがひそひそと話をする。
「Sランク冒険者だからって、調子に乗りやがって……」
「ああ、でも、仕事自体は旦那と同じくらい早いし、精確なんだよなぁ……」
「はぁ……腐ってもSランク冒険者ってところか……」
海賊たちから複雑な視線を送られる中、ライは内心怒りに燃えていた。
(あンの野郎~~~!!! 他人《ひと》の身体勝手に使いやがって~~~~!!!! 戻ってきたら、タダじゃ済まさないからな……!)
あとがき
最近、副業の方が忙しくなってきたので、更新は不定期にさせていただきます。
必要となる資材の調達や発注をしながら、現場で海賊たちを指揮していく。
「まずは外側を塞いでいけ。中の気密が保てるようになったら、宇宙服なしで作業できるからな」
無重力で作業できるとはいえ、宇宙服を着たままではやはり動きにくい。
作業の傍ら、海賊たちが文句を垂れていた。
「くそっ……解体だけじゃなく、溶接までやらせるのかよ……」
「でもよぉ、ナノマシンが乗っ取られてるし、そもそもオレら海賊だから通報もできないし……」
「るせぇ! ここまでコケにされたんだ。文句の一つでも言ってやらねえと、俺の気が済まねぇ!」
海賊の一人が俺に忍び寄る。
「おい……」
「サンソンか、どうした」
「あっ、俺の名前……」
名前を憶えられているとは思っていなかったのか、サンソンが意外だといった顔をした。
「当然だろ。今まで一緒に作業して、寝食を共にしてきたんだ。……それで、どうした。何か言うことがあったんじゃないか?」
「いやぁ、その……」
要領を得ない様子でもじもじとするサンソン。
この様子では、大した話ではなかったのか。
それなら、先に俺の話からさせてもらおう。
「……ああ、そうだ。宇宙要塞が完成したら、お前らにも個室をやるよ」
「えっ……いいんすか?」
「その代わり、手ェ抜くなよ。溶接ミスって自分の部屋が真空になっても知らないからな」
「旦那……!」
俺からの話が済むと、サンソンは目を輝かせて作業に戻るのだった。
……結局アイツは何をしに来たのだろう。
海賊と入れ替わりにエクリがやっていくると、ちらりと海賊たちの方を一瞥した。
「大丈夫なの? アイツらにも部屋あげるなんて約束しちゃって……」
「間取りは把握してるし、設計図もこの通りだ。宇宙要塞そのものの収容上限は1000人くらいだから全然余裕だろ」
とはいえ、不安要素もなくはない。
工事をしている間はデブリの解体は一切できなくなるため、ドローンで自動回収したデブリはそのまま回収業者に引き渡している。
これだけで1日30万近い金を稼いでいるが、現状は出て行ってる金の方が多い。
建設の監督をライに任せ、現場を離れようとすると、エクリに呼びとめられた。
「ちょっと、どこ行くのよ?」
「小惑星調査のクエストに行ってくる」
「はぁ!?」
エクリが素っ頓狂な声を上げた。
「なに考えてるのよ! 今は宇宙要塞を工事してるのよ!? アンタ抜きでどうしろってのよ」
「俺だけじゃない。エクリ、お前も行くんだよ」
パーティーのクエスト共有画面を開いてエクリに見せた。
「1、2、3……30個!? そんなにクエスト受けたの!?」
「仕方がないだろ、受けたもんは」
脳裏に、先日の受付嬢との会話が蘇る。
――ここだけの話、利息を減らす裏ワザがあるんですよ。
――どうすればいいんだ?
――クエストをたくさん受けるんです。熱心にクエストを受けていれば、それだけで「返済の意思アリ」とみなされて、利息が減るんです。
――へぇ、いいことを聞いた。
――(まあ、受注したクエストを達成できなければ違約金が発生するんですけど)
「ということらしい」
俺の話に一応理解をしたのか、エクリが難しい顔をした。
「でも、30個なんて……。二人で分担しても、15個もあるのよ?」
「心配するな。そんなこともあろうかと、作業の合間にコイツを作った」
シーシュポスから取り出したそれを、エクリがまじまじと見つめる。
「これ……ドローン……?」
「新しく作った、スキャナータイプだ。高性能センサーを山ほど搭載しているから、小惑星の調査くらいならすぐに終わる」
エクリと共にクエストに出向くと、スキャナータイプのドローンで小惑星の表面や内部の調査を行なう。
ひととおり、小惑星の調査が終わると、エクリがうーんと画面の向こうで伸びをした。
『終わったー! あとはギルドに報告書を提出するだけね』
「穴埋め式のテンプレートを作っておいた。文体や文脈は考えなくても、空欄に穴埋めしていけば報告書が完成する」
『さっすがー! それじゃあ報告書を……って、あたしにばっか仕事させて、アンタは何やってるのよ』
「俺は俺でやることがあるんだ」
VRゴーグルを装着すると、向こうでの作業に戻る。
それを見て、エクリが呆れた様子でため息をついた。
『……どっからどう見てみても、VRで遊んでいるようにしか見えないんだけど』
「遊んでるわけじゃない。リモートワークだ」
一方、建設中の宇宙要塞ではライが現場で指揮をとっていた。
――ただし、ナノマシンを乗っ取られ、俺に遠隔操作された状態で。
「おら、無駄口叩いてる暇があったらキビキビ働け!」
ライの身体で檄を飛ばす傍らで、海賊たちがひそひそと話をする。
「Sランク冒険者だからって、調子に乗りやがって……」
「ああ、でも、仕事自体は旦那と同じくらい早いし、精確なんだよなぁ……」
「はぁ……腐ってもSランク冒険者ってところか……」
海賊たちから複雑な視線を送られる中、ライは内心怒りに燃えていた。
(あンの野郎~~~!!! 他人《ひと》の身体勝手に使いやがって~~~~!!!! 戻ってきたら、タダじゃ済まさないからな……!)
あとがき
最近、副業の方が忙しくなってきたので、更新は不定期にさせていただきます。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。
超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!
阿弥陀乃トンマージ
SF
若くして広大な銀河にその名を轟かす、超一流のヴィランの青年、ジンライ。
漆黒のパワードスーツに身を包み、幾つもの堅固な宇宙要塞を陥落させ、数多の屈強な種族を倒してきた、そのヴィランに課せられた新たな任務の目的地は、太陽系第三番惑星、地球。
広い銀河においては単なる辺境の惑星に過ぎないと思われた星を訪れた時、青年の数奇な運命が動き出す……。
一癖も二癖もある、常識外れのニューヒーロー、ここに誕生!
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
年下の地球人に脅されています
KUMANOMORI(くまのもり)
SF
鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。
盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。
ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。
セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。
さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・
シュール系宇宙人ノベル。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる