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第8話 祝杯
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商船の護衛が終わると、俺とエクリは冒険者ギルドに戻った。
適当な席に着くと、まずは酒と軽くつまみを注文する。
「かんぱーい!」
軽くグラスをぶつけ、一息に飲み干す。
「ぷはーっ! クエストを達成して飲むお酒は美味しいわねー!」
早くも顔を赤くしたエクリが上機嫌で笑う。
次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、出てきた料理を一つ一つ解説してくれる。
ふと、あまり酒に手をつけていない俺を見て、エクリが訝しんだ。
「遠慮することないわよ。今回のMVPは、間違いなくアンタなんだから!」
「俺が?」
「当たり前でしょ。一人で海賊船を5隻も撃破しちゃうし、商船まで直しちゃうし。アンタがいなかったら、あたしじゃ手に負えなかったわよ」
うんうんと頷き、エクリが笑みを浮かべた。
「あたしたち、いいコンビかも!」
コンビ、か……
なんとなく、その言葉には引っかかるものがあった。
会社員時代から、俺の一番の理解者であり相棒はシシーである。
会社をクビになった時も、冒険者として新たな人生を歩み始めた時も、敵の宇宙船に乗り込む時も、片時も離れず過ごしてきたのだ。
今回の戦いの功労者は、間違いなくシシーだ。
そのシシーに、果たして俺は報いてやれただろうか。
「……………………」
「どうしたのよ? 浮かない顔して……」
「……悪い、ちょっと用事を思い出した」
そう言って席を立つと、エクリが呼びとめた。
「ちょっと!」
エクリの抗議を無視して、俺は一人冒険者ギルドを出ていった。
「もう……せっかくあたしのお気に入りメニューを教えてあげようと思ったのに……」
シーシュポスに戻ると、着替えもせずに船尾倉庫に向かう。
『なぜ食事の途中で船に戻ったのですか? 今ごろエクリが機嫌を損ねています。すぐに戻るべきでしょう』
シシーの忠告を無視して、倉庫に積まれた箱を片っ端からひっくり返していく。
「海賊船から奪った電子部品、まだ船内にあったよな?」
『必要性の低いものは売却しましたが、依然多くのパーツを倉庫に格納しております。リストを参照しますか?』
「そうだな。転送してくれ」
シシーから電子部品のリストが送られると、必要な部品を引っ張り出して工作を始めるのだった。
あれから小1時間ほど経過した。ある程度形になったのをみて、俺は「ふう」と息をついた。
「こんなもんかな……」
ドラム缶ほどの大きさのボディに、四つの車輪がついた足元。家電にタイヤがついたような見た目だが、必要最低限の機能は有しているはずだ。
作り上げた装置を起動すると、目の前の液晶画面が点灯した。
青い点が目のように現れ、自分の状況を確かめるように瞬きをする。
『これは……』
聞きなれた合成音声が、先ほど作った装置から聞こえてくる。
まだ自分の様子が信じられないのか、周囲を見回しながら四輪のタイヤで移動する。
「シシー用のボディを作った。耐久性が低いから船外には出せないが、船内にいる分にはこれで十分だろ」
『これを……私に?』
「頭の中で喋るのもいいが、シーシュポスにいる時くらいは顔を合わせて喋りたいからさ。それに――」
俺がグラスを渡すと、シシーが背中から生やしたロボットアームで受け取る。
グラスに酒を注ぎ、俺の分のグラスを持ち上げた。
「手がないと、お前とも乾杯できないだろ」
『カイル……』
心なしか、シシーの俺を見る目が熱を帯びている気がする。
俺はシシーから顔を逸らすと、
「まあ、その……出来合いのパーツだからな。性能もそこまで良くないし、色気も何もあったもんじゃないが、当面はこれでいいだろ」
照れ隠しに早口でまくしたて、グラスに口をつける。
それを見て、シシーが深々と頭を下げた。
『ありがとうございます、カイル。私は今日という日を、永久《とわ》に忘れはしないでしょう』
「……あんまり気恥ずかしいこと言うなよ。俺とお前の仲だろ」
そうして、俺たちはささやかながらも初のクエスト達成の祝杯を挙げるのだった。
適当な席に着くと、まずは酒と軽くつまみを注文する。
「かんぱーい!」
軽くグラスをぶつけ、一息に飲み干す。
「ぷはーっ! クエストを達成して飲むお酒は美味しいわねー!」
早くも顔を赤くしたエクリが上機嫌で笑う。
次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、出てきた料理を一つ一つ解説してくれる。
ふと、あまり酒に手をつけていない俺を見て、エクリが訝しんだ。
「遠慮することないわよ。今回のMVPは、間違いなくアンタなんだから!」
「俺が?」
「当たり前でしょ。一人で海賊船を5隻も撃破しちゃうし、商船まで直しちゃうし。アンタがいなかったら、あたしじゃ手に負えなかったわよ」
うんうんと頷き、エクリが笑みを浮かべた。
「あたしたち、いいコンビかも!」
コンビ、か……
なんとなく、その言葉には引っかかるものがあった。
会社員時代から、俺の一番の理解者であり相棒はシシーである。
会社をクビになった時も、冒険者として新たな人生を歩み始めた時も、敵の宇宙船に乗り込む時も、片時も離れず過ごしてきたのだ。
今回の戦いの功労者は、間違いなくシシーだ。
そのシシーに、果たして俺は報いてやれただろうか。
「……………………」
「どうしたのよ? 浮かない顔して……」
「……悪い、ちょっと用事を思い出した」
そう言って席を立つと、エクリが呼びとめた。
「ちょっと!」
エクリの抗議を無視して、俺は一人冒険者ギルドを出ていった。
「もう……せっかくあたしのお気に入りメニューを教えてあげようと思ったのに……」
シーシュポスに戻ると、着替えもせずに船尾倉庫に向かう。
『なぜ食事の途中で船に戻ったのですか? 今ごろエクリが機嫌を損ねています。すぐに戻るべきでしょう』
シシーの忠告を無視して、倉庫に積まれた箱を片っ端からひっくり返していく。
「海賊船から奪った電子部品、まだ船内にあったよな?」
『必要性の低いものは売却しましたが、依然多くのパーツを倉庫に格納しております。リストを参照しますか?』
「そうだな。転送してくれ」
シシーから電子部品のリストが送られると、必要な部品を引っ張り出して工作を始めるのだった。
あれから小1時間ほど経過した。ある程度形になったのをみて、俺は「ふう」と息をついた。
「こんなもんかな……」
ドラム缶ほどの大きさのボディに、四つの車輪がついた足元。家電にタイヤがついたような見た目だが、必要最低限の機能は有しているはずだ。
作り上げた装置を起動すると、目の前の液晶画面が点灯した。
青い点が目のように現れ、自分の状況を確かめるように瞬きをする。
『これは……』
聞きなれた合成音声が、先ほど作った装置から聞こえてくる。
まだ自分の様子が信じられないのか、周囲を見回しながら四輪のタイヤで移動する。
「シシー用のボディを作った。耐久性が低いから船外には出せないが、船内にいる分にはこれで十分だろ」
『これを……私に?』
「頭の中で喋るのもいいが、シーシュポスにいる時くらいは顔を合わせて喋りたいからさ。それに――」
俺がグラスを渡すと、シシーが背中から生やしたロボットアームで受け取る。
グラスに酒を注ぎ、俺の分のグラスを持ち上げた。
「手がないと、お前とも乾杯できないだろ」
『カイル……』
心なしか、シシーの俺を見る目が熱を帯びている気がする。
俺はシシーから顔を逸らすと、
「まあ、その……出来合いのパーツだからな。性能もそこまで良くないし、色気も何もあったもんじゃないが、当面はこれでいいだろ」
照れ隠しに早口でまくしたて、グラスに口をつける。
それを見て、シシーが深々と頭を下げた。
『ありがとうございます、カイル。私は今日という日を、永久《とわ》に忘れはしないでしょう』
「……あんまり気恥ずかしいこと言うなよ。俺とお前の仲だろ」
そうして、俺たちはささやかながらも初のクエスト達成の祝杯を挙げるのだった。
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