上 下
2 / 45

第2話 冒険者ギルド

しおりを挟む
 冒険者になるには、窓口で申請の手続きをしなくてはならないらしく、一度どこかの冒険者ギルドを訪れる必要があった。

 最寄りのコロニーの一角にシーシュポスを着岸させると、俺はコロニー内部に降り立った。

「ここから俺の冒険者人生が始まるのか……」

『心拍数が上昇しています。緊張しているのですか?』

「まあな」

『体内のナノマシンには冒険者として必要な知識はすべてインストールされました。問題なく活動できるでしょう』

「そういう問題じゃないんだよ」

 知識として知っているのと、実際にできるかはまた別の問題だ。

 ましてや、冒険者といえば危険もつきものである。

 そんな環境で、果たしてやっていけるだろうか……。

『問題ありません。職業診断テストから導き出されたカイルの冒険者適正は200ポイントです。冒険者は、まさしくカイルの天職と言えるでしょう』

「だといいけど……」

 シシーに応援されながら、俺は冒険者ギルドに向かうのだった。





 冒険者ギルドの受付までやってくると、受付嬢らしき女性に尋ねる。

「冒険者登録をしたいんだが、ここでいいのか?」

「はい、あってますよ。新人さんですよね? 冒険者登録の際はこちらの紙に記入をしてください」

 渡された紙を一瞥し、必要事項を記入していく。

 記入し終わった紙を渡すと、受付嬢が目を通した。

「……カイル・バトラーさんですね。これであなたは今から冒険者です」

「えっ、もう終わりなのか? 試験とか面接みたいなものはないのか?」

「冒険者はいくら居ても困りませんからね~。ギルド長の方針で、なるべく条件を緩くしているんです」

 渡されたギルドカードには、たしかに俺の名前とEランク冒険者と書かれている。

 実に簡単に冒険者登録が終わってしまった。

 呆気に取られていると、何を思ったのか受付嬢が微笑んだ。

「もしよろしければ、テストを受けてみませんか?」

「テスト?」

「新人冒険者はEランクでスタートしますが、実力の高い人はいきなりDランクからスタートすることもできるんです」

 受付嬢が胸の前でぐっと手を握り力説する。

「そういうことなら……」



 ギルドの一角。冒険者たちが酒盛りを開いている脇で、模擬コックピットがひっそりと鎮座していた。

 受付嬢に促されるままコックピットに座らされる。

「スタートの合図で海賊や宇宙怪獣が襲ってくるので、宇宙船を操作して撃退してください。カイルさんが撃沈されたら点数が表示されるようになっています」

 画面上では、ドラゴンのような怪獣が火を吹き、軽快な電子音と共に宇宙船がレーザーを放ってくる。

「これがテストか? まるでゲームだな……」

「ふふ、そうですね。ゲームみたいなものだと思ってもらって大丈夫です」

 俺の言葉を冗談と受け取ったのか、受付嬢が笑った。

 この手のゲームなら、休日によくプレイしている。

 自信満々で操縦桿を握ると、ナノマシンを通じてシシーが話しかけてきた。

『警告。オート照準、操縦補正がオフになっています。これらの機能をオンにすることを推奨します』

(いいよ、これで。シシーの力を借りたらテストにならないだろ)

 心の中でシシーに答えると、画面にスタートの文字が表示された。

 スタートと同時に宇宙船が動き出すと、画面の外や岩場に隠れていた宇宙怪獣が襲ってくる。

 それらを避けながら弾幕を張り、時には宇宙海賊を盾に攻撃を回避する。

「わ、すごっ……」

 傍から見ていた受付嬢が感心した様子で唸る。

 操縦桿を握りながら、カイルは休日にプレイしていたクソゲーを思い出していた。

 ガバガバな当たり判定。即死級の通常攻撃。

 理不尽な挙動もなく、思ったとおりに動いてくれるだけで、このテストは間違いなく良ゲー・・・である。

 またたく間に怪獣を殲滅すると、ボスと思しき巨大なドラゴンが現れた。

 画面を覆い尽くす弾幕を避けながら巨大怪獣の頭を集中砲火すると、そのままクリアの文字と各種スコアが表示された。

「クリアって出たんだが……」

 受付嬢に尋ねようと振り向くと、いつの間にか周囲に人だかりができていた。

「やるな、あんちゃん!」

「初めて見たぜ、このテストをクリアした奴なんて!」

「いいプレイだったぜ!」

 拍手と共に口々に賞賛の言葉が贈られる。

 その中に混じって、感極まった様子の受付嬢が俺の手を握った。

「す、スゴすぎます、カイルさん! いったい何者なんですか!?」

「何者って……」

「もしかして、元軍人とか、元騎士だったりするんですか!?」

「別に大したことじゃない。たまたまだよ」

 受付嬢に詰め寄られ、距離をとる。

「それより、テスト次第でランクを上げてくれるんだろ?」

「それだけの腕前なら文句なしです! すぐにDランク昇格の手続きをしますね!」

 そう言って、受付嬢はパタパタと走っていくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

えっちのあとで

奈落
SF
TSFの短い話です

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

処理中です...