70 / 82
岐阜城、入城
しおりを挟む
岐阜城に入ると、織田信長が自刃したとの報が義信の元に伝えられた。
「そうか……」
「信長の遺体は住職が丁重に弔ったとのこと。これにて、織田家も終わりましたな」
長坂昌国が胸をなでおろすも、義信が首を振った。
「まだだ。濃尾は制圧したが、南近江や北伊勢が残っている」
信長の本拠地である岐阜城は落としたが、依然として南近江や北伊勢は武田家の支配が及んでいない。
他の勢力にかすめ取られる前に、制圧しておきたかった。
そんな思いもあって、比較的損耗の少ない信玄の軍で制圧をしてもらうことにした。
「疾きこと風の如く。……征くぞ!」
岐阜城から出陣する信玄を見送ると、義信は尾張と美濃の支配を固めるべく、知行の差配を始めた。
「昌国、お主には清須城の城主を任せる」
「なんと、それがしに……」
長坂昌国が目を見開いた。
清須城といえば、尾張の重要拠点。そこを任せるということは、事実上尾張の指揮権を任されたに等しい。
尾張一国を与えられたわけではないが、大抜擢に違いなかった。
「ははっ、清須城の任、謹んでお受けいたします」
長坂昌国が深々と頭を下げる。
その後、他の家臣たちにも城を割り当てていった。
鳴海城には岡部元信を。
烏峰城には木下秀吉を。
那古屋城には曽根虎盛を。
小牧山城には真田昌幸を、それぞれ城主に任ぜた。
また、美濃は国衆の多くを調略することで手中に収めたため、依然として旧織田勢力が多く残る土地となった。
これらの者に目を光らせ、なおかつまとめ上げるべく、義信は岐阜城に本拠地を移した。
「岡崎に移転を進めたばかりだが、今度は美濃に拠点を移す。……皆も岐阜に引っ越すように」
「「「はっ!」」」
濃尾の武田領化を進める傍ら、織田旧臣の取り込みを行なっていた。
捕虜にした丹羽長秀や、降伏した滝川一益ら織田旧臣を集めると、義信は彼らの前に立った。
「信長は腹を切り、美濃と尾張は完全に当家の手中に収まった。織田家が滅亡するのも時間の問題だ」
義信がそう宣言すると、織田旧臣たちは顔を曇らせた。
「……しかし、私はお主らの器量を高く買っている。いま私に降伏し、武田家の末席加わるというなら、私はお主らを重用するつもりだ。もし断ればこの場で斬り伏せるが……どうする?」
義信が織田旧臣を見回すと、佐久間信盛が頭を下げた。
「我らを武田家の末席に加えてくださるとは……。寛大なご処置、感謝の言葉もございません」
「これよりはお館様の手足となり、粉骨砕身してゆく所存にございます」
「身命を賭してお仕えいたしましょう」
次いで丹羽長秀、滝川一益らが頭を下げると、織田旧臣たちは全員義信に恭順の意を示した。
(作戦通りだな……)
鳴海城を攻略した際、城主であった佐久間信盛は武田軍の捕虜となっていた。
一足先に武田軍の捕虜となっていただけに、他の織田家臣に先んじて交渉し、先の芝居を演じさせた。
義信が硬軟織り交ぜた説得で織田旧臣の心を揺さぶる中、織田家の重鎮、佐久間信盛が先んじて義信に頭を下げる。
そうすれば、流れに乗って他の者も追従するはずだ。
そうした思惑もあり、義信は佐久間信盛を使ったのだが、案の定、捕虜とした織田家臣を全員取り込むことに成功した。
織田旧臣たちに混ざって、佐久間信盛が義信に目で訴えかける。
(お館様に命じられたとおり、それがしはキッチリ仕事をしました。恩賞、期待しておりますぞ)
(いい働きぶりだったぞ、信盛。……本領安堵の上、小粒金をやろう)
目で意思疎通をする義信と信盛に、他の織田旧臣は首を傾げるのだった。
あとがき
明日の投稿はお休みして、次回の投稿は1/5にさせて頂きます。
「そうか……」
「信長の遺体は住職が丁重に弔ったとのこと。これにて、織田家も終わりましたな」
長坂昌国が胸をなでおろすも、義信が首を振った。
「まだだ。濃尾は制圧したが、南近江や北伊勢が残っている」
信長の本拠地である岐阜城は落としたが、依然として南近江や北伊勢は武田家の支配が及んでいない。
他の勢力にかすめ取られる前に、制圧しておきたかった。
そんな思いもあって、比較的損耗の少ない信玄の軍で制圧をしてもらうことにした。
「疾きこと風の如く。……征くぞ!」
岐阜城から出陣する信玄を見送ると、義信は尾張と美濃の支配を固めるべく、知行の差配を始めた。
「昌国、お主には清須城の城主を任せる」
「なんと、それがしに……」
長坂昌国が目を見開いた。
清須城といえば、尾張の重要拠点。そこを任せるということは、事実上尾張の指揮権を任されたに等しい。
尾張一国を与えられたわけではないが、大抜擢に違いなかった。
「ははっ、清須城の任、謹んでお受けいたします」
長坂昌国が深々と頭を下げる。
その後、他の家臣たちにも城を割り当てていった。
鳴海城には岡部元信を。
烏峰城には木下秀吉を。
那古屋城には曽根虎盛を。
小牧山城には真田昌幸を、それぞれ城主に任ぜた。
また、美濃は国衆の多くを調略することで手中に収めたため、依然として旧織田勢力が多く残る土地となった。
これらの者に目を光らせ、なおかつまとめ上げるべく、義信は岐阜城に本拠地を移した。
「岡崎に移転を進めたばかりだが、今度は美濃に拠点を移す。……皆も岐阜に引っ越すように」
「「「はっ!」」」
濃尾の武田領化を進める傍ら、織田旧臣の取り込みを行なっていた。
捕虜にした丹羽長秀や、降伏した滝川一益ら織田旧臣を集めると、義信は彼らの前に立った。
「信長は腹を切り、美濃と尾張は完全に当家の手中に収まった。織田家が滅亡するのも時間の問題だ」
義信がそう宣言すると、織田旧臣たちは顔を曇らせた。
「……しかし、私はお主らの器量を高く買っている。いま私に降伏し、武田家の末席加わるというなら、私はお主らを重用するつもりだ。もし断ればこの場で斬り伏せるが……どうする?」
義信が織田旧臣を見回すと、佐久間信盛が頭を下げた。
「我らを武田家の末席に加えてくださるとは……。寛大なご処置、感謝の言葉もございません」
「これよりはお館様の手足となり、粉骨砕身してゆく所存にございます」
「身命を賭してお仕えいたしましょう」
次いで丹羽長秀、滝川一益らが頭を下げると、織田旧臣たちは全員義信に恭順の意を示した。
(作戦通りだな……)
鳴海城を攻略した際、城主であった佐久間信盛は武田軍の捕虜となっていた。
一足先に武田軍の捕虜となっていただけに、他の織田家臣に先んじて交渉し、先の芝居を演じさせた。
義信が硬軟織り交ぜた説得で織田旧臣の心を揺さぶる中、織田家の重鎮、佐久間信盛が先んじて義信に頭を下げる。
そうすれば、流れに乗って他の者も追従するはずだ。
そうした思惑もあり、義信は佐久間信盛を使ったのだが、案の定、捕虜とした織田家臣を全員取り込むことに成功した。
織田旧臣たちに混ざって、佐久間信盛が義信に目で訴えかける。
(お館様に命じられたとおり、それがしはキッチリ仕事をしました。恩賞、期待しておりますぞ)
(いい働きぶりだったぞ、信盛。……本領安堵の上、小粒金をやろう)
目で意思疎通をする義信と信盛に、他の織田旧臣は首を傾げるのだった。
あとがき
明日の投稿はお休みして、次回の投稿は1/5にさせて頂きます。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河
墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。
三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。
全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。
本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。
おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。
本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。
戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。
歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。
※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。
※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
陸のくじら侍 -元禄の竜-
陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
隠密同心艶遊記
Peace
歴史・時代
花のお江戸で巻き起こる、美女を狙った怪事件。
隠密同心・和田総二郎が、女の敵を討ち果たす!
女岡っ引に男装の女剣士、甲賀くノ一を引き連れて、舞うは刀と恋模様!
往年の時代劇テイストたっぷりの、血湧き肉躍る痛快エンタメ時代小説を、ぜひお楽しみください!
日は沈まず
ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。
また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる