67 / 82
美濃衆
しおりを挟む
家康が織田の本陣を離れたのち、信長が残った兵を見回した。
「殿、いかがされましたか?」
「……おれバカだから難しいことわかんねぇんだけどさ~。なんか兵少なくないか?」
信長の指摘に、丹羽長秀が陣を見渡した。
「……そういえば、稲葉一鉄殿が見えませぬな……」
「安藤守就殿もだ」
「別働隊に入っているわけでもないのに、これは……」
家臣たちが顔を見合わせる。
気がつけば、別働隊の出陣に合わせて美濃の国衆がこつ然と姿を消していた。
これは、相当まずいことになっているのではないか……。
顔を青くする家臣たちに、信長が命令をだした。
「至急、家康に使いを出せ。そちらの兵は何人残っているのか、と」
義信軍の背後に回り込んだ家康は、飯富虎昌率いる赤備えと対峙していた。
「赤備え……先の戦では遅れをとったが、此度はそうはいかぬ。今こそ家臣の無念を晴らす時ぞ!」
見たところ、赤備えは3000騎ほど。
対してこちらは1万1000。
相手が精兵とはいえ、4倍もの兵力差だ。
勝機は十分あると言えた。
「赤備えを倒し、その後は……」
赤備えの守る先には、武田軍の本陣が構えてあった。
家康が本陣を強襲している間に織田軍本隊が正面から猛攻を仕掛ける。
これならば、十分義信の首に届きうると言えた。
「全軍、征くぞ!」
采配を手に、家康は声を張り上げるのだった。
家康率いる織田軍を前に、飯富虎昌は静かに闘志を燃やしていた。
(来たか……)
織田軍の強襲に合わせて本陣の守りを固めたとはいえ、武田軍の急所であることに変わりはない。
主である義信の首がかかっている以上、万に一つも抜かれるわけにはいかなかった。
「此度の戦、我らが双肩に託された! 尾張の弱兵が何するものぞ! 赤備えの武、とくと味わわせてくれようぞ!」
家康と飯富虎昌の戦いが始まると、義信の構える本陣にも兵たちの声が聞こえてきた。
「始まったか……」
「お館様、徳川家康の率いる織田軍はが迫っております。この場は離れた方がよろしいかと」
「問題ない。爺が赤備えを率いておるのだ。万に一つも負けはない」
家康を迎え撃つ一方で、義信は信長率いる織田軍本隊の動きが気になっていた。
「稲葉一鉄、安藤守就ほか、美濃の国衆たちが織田軍から離反し始めている。今ごろ、織田の本陣は混乱していることだろうな」
「はっ、織田の兵も二割ほど減ったとのこと」
物見の者によれば、正面の織田軍は1万8000。
家康率いる別働隊は6000ほど残っているという。
「戦わずして、兵が削れましたな」
長坂昌国がぽつりとつぶやく。
「しかし油断はするなよ。相手は義元公を討ち取った名将だ。これしきのことで終わるとは思えんからな……」
義信は川を挟んで織田軍本隊を見据えるのだった。
「殿、いかがされましたか?」
「……おれバカだから難しいことわかんねぇんだけどさ~。なんか兵少なくないか?」
信長の指摘に、丹羽長秀が陣を見渡した。
「……そういえば、稲葉一鉄殿が見えませぬな……」
「安藤守就殿もだ」
「別働隊に入っているわけでもないのに、これは……」
家臣たちが顔を見合わせる。
気がつけば、別働隊の出陣に合わせて美濃の国衆がこつ然と姿を消していた。
これは、相当まずいことになっているのではないか……。
顔を青くする家臣たちに、信長が命令をだした。
「至急、家康に使いを出せ。そちらの兵は何人残っているのか、と」
義信軍の背後に回り込んだ家康は、飯富虎昌率いる赤備えと対峙していた。
「赤備え……先の戦では遅れをとったが、此度はそうはいかぬ。今こそ家臣の無念を晴らす時ぞ!」
見たところ、赤備えは3000騎ほど。
対してこちらは1万1000。
相手が精兵とはいえ、4倍もの兵力差だ。
勝機は十分あると言えた。
「赤備えを倒し、その後は……」
赤備えの守る先には、武田軍の本陣が構えてあった。
家康が本陣を強襲している間に織田軍本隊が正面から猛攻を仕掛ける。
これならば、十分義信の首に届きうると言えた。
「全軍、征くぞ!」
采配を手に、家康は声を張り上げるのだった。
家康率いる織田軍を前に、飯富虎昌は静かに闘志を燃やしていた。
(来たか……)
織田軍の強襲に合わせて本陣の守りを固めたとはいえ、武田軍の急所であることに変わりはない。
主である義信の首がかかっている以上、万に一つも抜かれるわけにはいかなかった。
「此度の戦、我らが双肩に託された! 尾張の弱兵が何するものぞ! 赤備えの武、とくと味わわせてくれようぞ!」
家康と飯富虎昌の戦いが始まると、義信の構える本陣にも兵たちの声が聞こえてきた。
「始まったか……」
「お館様、徳川家康の率いる織田軍はが迫っております。この場は離れた方がよろしいかと」
「問題ない。爺が赤備えを率いておるのだ。万に一つも負けはない」
家康を迎え撃つ一方で、義信は信長率いる織田軍本隊の動きが気になっていた。
「稲葉一鉄、安藤守就ほか、美濃の国衆たちが織田軍から離反し始めている。今ごろ、織田の本陣は混乱していることだろうな」
「はっ、織田の兵も二割ほど減ったとのこと」
物見の者によれば、正面の織田軍は1万8000。
家康率いる別働隊は6000ほど残っているという。
「戦わずして、兵が削れましたな」
長坂昌国がぽつりとつぶやく。
「しかし油断はするなよ。相手は義元公を討ち取った名将だ。これしきのことで終わるとは思えんからな……」
義信は川を挟んで織田軍本隊を見据えるのだった。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――
黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。
一般には武田勝頼と記されることが多い。
……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。
信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。
つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。
一介の後見人の立場でしかない。
織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。
……これは、そんな悲運の名将のお話である。
【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵
【注意】……武田贔屓のお話です。
所説あります。
あくまでも一つのお話としてお楽しみください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる