53 / 82
鳴海城攻め
しおりを挟む
武田軍は上杉軍ほか同盟軍と合わせて、5万5000もの軍で上洛を開始した。
飛騨からは上杉軍1万と飯富昌景率いる武田軍1000、朝倉軍7000を加えた1万8000が。
東美濃の岩村城からは信玄率いる信濃、甲斐の1万2000が。
東海道からは義信率いる駿遠三の2万と越中の神保軍5000を加えた2万5000が、それぞれ侵攻する手筈となっていた。
神保長職率いる神保軍と岡崎城で合流を果たすと、互いに挨拶を交わす。
「此度の遠征、神保殿が来てくれて助かりましたぞ」
「なんの……。武田殿、上杉殿が手を取り上洛を果たそうとしているときに、どうして我らが手を貸さずにいられましょう」
半ば脅しに近い形で参陣したが、それを面と向かって言うわけにもいかない。
あくまで自らの意思で参戦した。
そういうテイで神保長職は参陣していた。
「父上は国衆の徴兵で10日。上杉殿は兵糧の輸送に手間取り、一月ほど遅れるとのこと。……それまでは我らで濃尾を食い尽くしてくれよう」
「お、おお……」
神保長職の声が上ずる。
てっきり、上杉謙信や武田信玄と同時に織田領に攻撃を仕掛けるものと思っていた。
しかし、ここにきて両軍が遅れているという。
東美濃も飛騨も山がちな地形であるため遅れることはおかしくないが、はたしてこれは偶然なのか?
どこか固くなる神保長職。
これを長職が緊張していると見たのか、義信が柔和な笑みを浮かべて見せた。
「まあまあ、そう気負われますな。此度の戦は我らもいるのだ。胸を借りるつもりで行こうではありませぬか」
「……そうですな」
永禄12年11月11日。武田、神保軍が織田領の鳴海城に攻め込んだ。
両軍は力攻めを敢行するも、武田家の侵攻に備えて改築をしていたのか、強固な守りを有していた。
「いたずらに力攻めをしては、こちらの被害が大きくなりますな」
と曽根虎盛。
「城内の者に調略を仕掛けておりますが、応じる気配はありませぬな……」
と真田昌幸。
「ここは、それがしにお任せを」
そう申し出たのは岡部元信だった。
「元信か……。考えがあるのか?」
「はっ。それがしは以前鳴海城の城主をしておりました。城の縄張り、弱点はすべて熟知しております」
「……いいだろう。元信に一任しよう」
「はっ」
義信に軍を与えられた元信は、またたく間に鳴海城の支城である丹下砦、善照寺砦、中嶋砦を攻略して見せた。
「これで、残すは鳴海城のみとなりました」
支城を落とされたことで、鳴海城の兵は完全に孤立してしまった。
「あとはいかようにも料理できるな……」
支城を落とされたことで士気も落ち、鳴海城の中でも離反する者が現れ始めているという。
鳴海城の攻略は時間の問題と言えた。
そんな中、伝令の者が義信の陣に駆け込んできた。
「申し上げます! 美濃より織田軍が向かってきているとのこと! その数5万!」
飛騨からは上杉軍1万と飯富昌景率いる武田軍1000、朝倉軍7000を加えた1万8000が。
東美濃の岩村城からは信玄率いる信濃、甲斐の1万2000が。
東海道からは義信率いる駿遠三の2万と越中の神保軍5000を加えた2万5000が、それぞれ侵攻する手筈となっていた。
神保長職率いる神保軍と岡崎城で合流を果たすと、互いに挨拶を交わす。
「此度の遠征、神保殿が来てくれて助かりましたぞ」
「なんの……。武田殿、上杉殿が手を取り上洛を果たそうとしているときに、どうして我らが手を貸さずにいられましょう」
半ば脅しに近い形で参陣したが、それを面と向かって言うわけにもいかない。
あくまで自らの意思で参戦した。
そういうテイで神保長職は参陣していた。
「父上は国衆の徴兵で10日。上杉殿は兵糧の輸送に手間取り、一月ほど遅れるとのこと。……それまでは我らで濃尾を食い尽くしてくれよう」
「お、おお……」
神保長職の声が上ずる。
てっきり、上杉謙信や武田信玄と同時に織田領に攻撃を仕掛けるものと思っていた。
しかし、ここにきて両軍が遅れているという。
東美濃も飛騨も山がちな地形であるため遅れることはおかしくないが、はたしてこれは偶然なのか?
どこか固くなる神保長職。
これを長職が緊張していると見たのか、義信が柔和な笑みを浮かべて見せた。
「まあまあ、そう気負われますな。此度の戦は我らもいるのだ。胸を借りるつもりで行こうではありませぬか」
「……そうですな」
永禄12年11月11日。武田、神保軍が織田領の鳴海城に攻め込んだ。
両軍は力攻めを敢行するも、武田家の侵攻に備えて改築をしていたのか、強固な守りを有していた。
「いたずらに力攻めをしては、こちらの被害が大きくなりますな」
と曽根虎盛。
「城内の者に調略を仕掛けておりますが、応じる気配はありませぬな……」
と真田昌幸。
「ここは、それがしにお任せを」
そう申し出たのは岡部元信だった。
「元信か……。考えがあるのか?」
「はっ。それがしは以前鳴海城の城主をしておりました。城の縄張り、弱点はすべて熟知しております」
「……いいだろう。元信に一任しよう」
「はっ」
義信に軍を与えられた元信は、またたく間に鳴海城の支城である丹下砦、善照寺砦、中嶋砦を攻略して見せた。
「これで、残すは鳴海城のみとなりました」
支城を落とされたことで、鳴海城の兵は完全に孤立してしまった。
「あとはいかようにも料理できるな……」
支城を落とされたことで士気も落ち、鳴海城の中でも離反する者が現れ始めているという。
鳴海城の攻略は時間の問題と言えた。
そんな中、伝令の者が義信の陣に駆け込んできた。
「申し上げます! 美濃より織田軍が向かってきているとのこと! その数5万!」
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる