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鳴海城攻め

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 武田軍は上杉軍ほか同盟軍と合わせて、5万5000もの軍で上洛を開始した。

 飛騨からは上杉軍1万と飯富昌景率いる武田軍1000、朝倉軍7000を加えた1万8000が。

 東美濃の岩村城からは信玄率いる信濃、甲斐の1万2000が。

 東海道からは義信率いる駿遠三の2万と越中の神保軍5000を加えた2万5000が、それぞれ侵攻する手筈となっていた。

 神保長職率いる神保軍と岡崎城で合流を果たすと、互いに挨拶を交わす。

「此度の遠征、神保殿が来てくれて助かりましたぞ」

「なんの……。武田殿、上杉殿が手を取り上洛を果たそうとしているときに、どうして我らが手を貸さずにいられましょう」

 半ば脅しに近い形で参陣したが、それを面と向かって言うわけにもいかない。

 あくまで自らの意思で参戦した。

 そういうテイで神保長職は参陣していた。

「父上は国衆の徴兵で10日。上杉殿は兵糧の輸送に手間取り、一月ほど遅れるとのこと。……それまでは我らで濃尾を食い尽くしてくれよう」

「お、おお……」

 神保長職の声が上ずる。

 てっきり、上杉謙信や武田信玄と同時に織田領に攻撃を仕掛けるものと思っていた。

 しかし、ここにきて両軍が遅れているという。

 東美濃も飛騨も山がちな地形であるため遅れることはおかしくないが、はたしてこれは偶然なのか?

 どこか固くなる神保長職。

 これを長職が緊張していると見たのか、義信が柔和な笑みを浮かべて見せた。

「まあまあ、そう気負われますな。此度の戦は我らもいるのだ。胸を借りるつもりで行こうではありませぬか」

「……そうですな」





 永禄12年11月11日。武田、神保軍が織田領の鳴海城に攻め込んだ。

 両軍は力攻めを敢行するも、武田家の侵攻に備えて改築をしていたのか、強固な守りを有していた。

「いたずらに力攻めをしては、こちらの被害が大きくなりますな」

 と曽根虎盛。

「城内の者に調略を仕掛けておりますが、応じる気配はありませぬな……」

 と真田昌幸。

「ここは、それがしにお任せを」

 そう申し出たのは岡部元信だった。

「元信か……。考えがあるのか?」

「はっ。それがしは以前鳴海城の城主をしておりました。城の縄張り、弱点はすべて熟知しております」

「……いいだろう。元信に一任しよう」

「はっ」

 義信に軍を与えられた元信は、またたく間に鳴海城の支城である丹下砦、善照寺砦、中嶋砦を攻略して見せた。

「これで、残すは鳴海城のみとなりました」

 支城を落とされたことで、鳴海城の兵は完全に孤立してしまった。

「あとはいかようにも料理できるな……」

 支城を落とされたことで士気も落ち、鳴海城の中でも離反する者が現れ始めているという。

 鳴海城の攻略は時間の問題と言えた。

 そんな中、伝令の者が義信の陣に駆け込んできた。

「申し上げます! 美濃より織田軍が向かってきているとのこと! その数5万!」
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