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根回し
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織田家への本格的な侵攻に向け、義信は着々と周辺勢力への根回しを進めていた。
武田、上杉、北条の三国同盟を掲げ、関東諸勢力には従属要求を。
陸奥の蘆名、伊達には不可侵を提案した。
また、長らく武田、上杉の緩衝地帯となっていた越中の神保にも、一向宗との講和を条件に対織田信長の援軍を取りつけることに成功した。
「戦をせずに越中を動かされるとは……。流石はお館様。ご隠居様譲りの謀才にございますな」
「なに、大したことはしておらぬ。元々、神保家家臣の寺島職元は武田贔屓の男だからな。裏から手を回せた」
越中は武田と上杉の緩衝地帯なため、越中の大部分を治める神保家は長らく上杉派と武田派で家中を二分されてきた。
そんな中、神保家の宿老、寺島職元は親武田派筆頭とも言える人物だった。
「聞けば、神保は5000もの兵を出してくれるとのこと。……これだけの兵を出させるとは、どのような手をうったのですか?」
「なに……織田攻めの前に侵攻されるのと、織田攻めに参加する方。どちらか好きな方を選ばせたにすぎぬ」
(選ばせた……?)
(これでは脅迫だな……)
脅して従わせたとはいえ、これも貴重な戦力だ。使わない手はない。
また、信長によって南伊勢に追い込まれた北畠具教。
信長に南近江を放逐され伊賀に落ち延びた六角義賢など、対織田の一翼を担ってくれる大名は少なくない。
「あとは、越前の朝倉ですな……」
越前は50万石の石高を有する、日ノ本有数の強国だ。
また、日本海に面する敦賀は都への中継地として栄えており、商いの盛んな土地でもあった。
「朝倉はこれだけの力を持っているのです。敵に回せばどうなるか……」
「聞けば、朝倉は浅井と同盟しているというではないか」
「浅井家当主、浅井長政は織田信長の妹婿……。此度の戦、浅井はまず信長に味方するに違いありませぬ」
「その浅井と同盟を結んでいる朝倉をこちらに引き込もうとは……」
「大丈夫なのか!? そんな者に背中を預けて……」
朝倉の真意を図りかねる家臣たち。
そんな中、ふと義昭の従者で長く一乗谷に住んでいた者がいたことを思い出した。
「そういえば、お主は長く越前におったらしいな。どうだ、朝倉は我らに味方すると思うか?」
義信が尋ねたのは、足利義昭の家臣、明智光秀であった。
光秀は少し考えて、
「朝倉様は織田様を快く思っておりませぬ。十中八九、織田方にはつかぬでしょうな」
「そうなのか?」
「もとを正せば、織田家は越前の一国人。それゆえ、所詮は成り上がり者と見下しておられるのです」
「では、我らに味方すると思ってよいのだな」
義信が尋ねるも、光秀が渋い顔をする。
「……朝倉義景様は何かにつけて戦に赴くことを嫌います。援軍を送ったとて、おそらく義景様が出陣されることはないでしょう。
また、朝倉家は浅井家と同盟を結んでおります。……ともすれば、浅井と戦うことを嫌って、勝手に軍を撤退させるやも……」
光秀の話を聞いて、家臣たちの顔が曇った。
「朝倉義景……」
「あまりアテにはできませぬな……」
曽根虎盛をはじめ、家臣たちが渋い顔をする。
──ただ一人、義信はを除いて。
「素晴らしい……」
「は!?」
「いったい、何が……」
困惑する家臣たちをよそに、義信が席を立った。
「使者を出せ。義景殿にも織田討伐の軍を興してもらうぞ」
「は、ははっ!」
こうして、織田との戦いに朝倉家も組み込まれていくのだった。
武田、上杉、北条の三国同盟を掲げ、関東諸勢力には従属要求を。
陸奥の蘆名、伊達には不可侵を提案した。
また、長らく武田、上杉の緩衝地帯となっていた越中の神保にも、一向宗との講和を条件に対織田信長の援軍を取りつけることに成功した。
「戦をせずに越中を動かされるとは……。流石はお館様。ご隠居様譲りの謀才にございますな」
「なに、大したことはしておらぬ。元々、神保家家臣の寺島職元は武田贔屓の男だからな。裏から手を回せた」
越中は武田と上杉の緩衝地帯なため、越中の大部分を治める神保家は長らく上杉派と武田派で家中を二分されてきた。
そんな中、神保家の宿老、寺島職元は親武田派筆頭とも言える人物だった。
「聞けば、神保は5000もの兵を出してくれるとのこと。……これだけの兵を出させるとは、どのような手をうったのですか?」
「なに……織田攻めの前に侵攻されるのと、織田攻めに参加する方。どちらか好きな方を選ばせたにすぎぬ」
(選ばせた……?)
(これでは脅迫だな……)
脅して従わせたとはいえ、これも貴重な戦力だ。使わない手はない。
また、信長によって南伊勢に追い込まれた北畠具教。
信長に南近江を放逐され伊賀に落ち延びた六角義賢など、対織田の一翼を担ってくれる大名は少なくない。
「あとは、越前の朝倉ですな……」
越前は50万石の石高を有する、日ノ本有数の強国だ。
また、日本海に面する敦賀は都への中継地として栄えており、商いの盛んな土地でもあった。
「朝倉はこれだけの力を持っているのです。敵に回せばどうなるか……」
「聞けば、朝倉は浅井と同盟しているというではないか」
「浅井家当主、浅井長政は織田信長の妹婿……。此度の戦、浅井はまず信長に味方するに違いありませぬ」
「その浅井と同盟を結んでいる朝倉をこちらに引き込もうとは……」
「大丈夫なのか!? そんな者に背中を預けて……」
朝倉の真意を図りかねる家臣たち。
そんな中、ふと義昭の従者で長く一乗谷に住んでいた者がいたことを思い出した。
「そういえば、お主は長く越前におったらしいな。どうだ、朝倉は我らに味方すると思うか?」
義信が尋ねたのは、足利義昭の家臣、明智光秀であった。
光秀は少し考えて、
「朝倉様は織田様を快く思っておりませぬ。十中八九、織田方にはつかぬでしょうな」
「そうなのか?」
「もとを正せば、織田家は越前の一国人。それゆえ、所詮は成り上がり者と見下しておられるのです」
「では、我らに味方すると思ってよいのだな」
義信が尋ねるも、光秀が渋い顔をする。
「……朝倉義景様は何かにつけて戦に赴くことを嫌います。援軍を送ったとて、おそらく義景様が出陣されることはないでしょう。
また、朝倉家は浅井家と同盟を結んでおります。……ともすれば、浅井と戦うことを嫌って、勝手に軍を撤退させるやも……」
光秀の話を聞いて、家臣たちの顔が曇った。
「朝倉義景……」
「あまりアテにはできませぬな……」
曽根虎盛をはじめ、家臣たちが渋い顔をする。
──ただ一人、義信はを除いて。
「素晴らしい……」
「は!?」
「いったい、何が……」
困惑する家臣たちをよそに、義信が席を立った。
「使者を出せ。義景殿にも織田討伐の軍を興してもらうぞ」
「は、ははっ!」
こうして、織田との戦いに朝倉家も組み込まれていくのだった。
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